第45章 カリブ海大作戦(前編)
カリビア~~~ン!いよいよ開戦ですよ。目にもの見せたるで!
「奴隷貿易、ですか?」信光は初めて聞く言葉に面食らった。
「ああ、イギリスは阿漕なことをやっている。」青水は茶をすすった。
「それはどんな仕組みなのですか?」
「自国で作った工業製品を持ってアフリカの西海岸へ行き、そこで現地の奴隷商人が拘束している奴隷と交換する。奴隷を劣悪な状態でカリブ海まで運ぶが船上で半分ぐらい命を落とす。死んだ奴隷はサメの餌になる。カリブ海の奴隷市場で奴隷とサトウキビを交換してイギリスに戻り、大儲け。そういう仕組みだ。」
「青水さん、それはとんでもない非道です。」
「ああ、なので天馬と安寿は議会へ日本が奴隷解放に向けて動くように働きかけている。」
「信光様!」行政府の役人が報告に来た。
「信光様、議会が奴隷解放作戦の法案を可決しました。この書状に捺印を。」
「お、おう。形式的には私が命令を下すということになるのか。」
西アメリカ国ではミシシッピ川河口に大規模な造船所が建設され、日本の船大工たちがテキパキと現地職人に指示を出し、軍艦や駆逐艦が建造されている。燃料の石炭はチワワの炭鉱から運び出され、港の倉庫に積み上げられている。そして日本の航行技師たちは、西アメリカ海軍の水兵たちに蒸気機関の操作法を教えている。日本が偽装蒸気船を運用し始めてから早10年、外輪船ではなく船倉に設えられた隔離推進室の6つの推進輪が船を進める内輪船である。その速度は風頼りのイギリスの戦列艦の2~3倍。兵装は両サイドに主砲がそれぞれ5門、船首と船尾に小型大砲が2門ずつで、山のように大砲を積んでいるイギリスの戦列艦よりかなり少ないが、燧式でなおかつ後装式、すなわち砲身の根元から装填できるので、リロードが早く、そして砲身が長いので射程が長く精度が高い。奴隷解放大作戦まで、戦艦5隻、駆逐艦15隻を建造しなければならないので、作業は急ピッチで進められていた。
「紫影、日本で議会が法案を通したぞ。」銀天が日本からの書状を持ってきた。
「そうか、いよいよだな。」
「ふふふ、見てなさいよ。」ミナルナがユニゾンで歌うように言った。
「奴隷の皆さん、待っててね。」ラナが遠くを見た。
奴隷解放作戦はメキシコ海軍との共同作戦になる。日本の新造艦が就役された西アメリカ海軍が実戦を担当し、メキシコ海軍は解放された奴隷たちを安全な自国や西アメリカ国に救助輸送する。奴隷の数は5000人以上と想定されるので、迅速な救助が必要だ。メキシコと西アメリカ国では、乗船する水兵たちの前で伝統の戦いの舞が披露された。白き災厄との初めての大規模な戦いだ。兵士の士気は最大限に高まった。
最初の攻撃目標はバハマ本島だ。ラナたちのグランドバハマ侵入があったので、この地区の警戒レベルは上がっていた。うかつに乗り込んで泥沼の地上戦になると戦死者も出るだろう。そのため、まず海上の敵艦を一掃して、砲撃を封じてから、艦砲射撃の援護を受けつつ上陸する作戦となった。バハマ本島の港に停泊しているのは、軍艦1隻と駆逐艦3隻、そして小型の警備艇が多数である。機動力を活かし射程距離まで急接近して主砲を撃つ。港の軍用艇はあっという間に炎上して沈没した。反撃する暇もなかった。
「敵さん、慌てふためいているわね。」望遠鏡を覗いて紫影が言った。
「いよいよ私たちの出番ね。」ミナルナは意気込んでいる。
「行こう。」銀天が立ち上がった。
西アメリカ軍の軍艦は港に接岸し、兵士たちの戦闘が始まった。駆逐艦からの援護砲撃で港に展開しているイギリス兵の数はどんどん減って行く。西アメリカ軍はほどなく港を制圧した。戦闘の喧噪に紛れて、金竜疾風の部隊は奴隷小屋を捜した。たまに敵兵と遭遇したが、ミナルナの狙撃ですぐに無力化された。
「あったわ。」ラナが奴隷小屋を発見した。見張りはいなかった。
「助けに来たの。さあこっち!」紫影が手を引き奴隷たちを連れ出す。
「この兵隊さんたちについて行けば船が待ってる。」
金竜疾風のあとに20人ほどの西アメリカ兵が付いてきていた。紫影は奴隷たち50人を兵士に託して言った。
「この人たちを海上に展開しているメキシコ海軍の船に連れて行って。それからこの界隈を捜索して敵の残存兵力を殲滅してください。」
このようにして、紫影たちは島のプランテーションの奴隷小屋のすべてを発見して奴隷を解放し、イギリス軍は西アメリカ軍によって掃討され、あるいは捕虜として拘束された。
「よし、これでバハマ本島の攻略は成功だ。」奔吾はガッツポーズを決めた。
「このあたりには海賊もたくさんいるようだし、付近の島を虱潰しに調査しよう。」と銀天。
「島がいっぱいあるなあ。奴隷もいるのかな?」ミナルナは少し面倒そうに言った
「小さくて細い島ばかりだから、兵隊さんたちに任せましょう。」と紫影が提案した。
「そうね。それでは私たちはハイチを調べましょう。」
そのころバミューダ諸島にはイギリスの軍艦が多数集結していた。カリブ海の不穏な状況をスパイ活動で察知した本国が戦力を送ったのだ。スパイは、メキシコと国境を接するベリーズから侵入し、メキシコ軍の動向を調査していたのである。ベリーズはスペインの植民地だが、イギリスが木材伐採の目的で進出しており、多数のイギリス人が住んでいた。イギリスとスペインはもちろん仲が悪く、しばしばいざこざも起こっていたが、スパイが潜り込むには恰好の地だったのである。
「カリブ海の情勢はどうか?」イギリス海軍の将校が尋ねた。
「まったくわかりません。」
「海域までは2週間ほどかかります。」
「ふむ、ではやつらの命もあと2週間か。」将校はパイプをくわえた。
「ハイチってフランス領でしょ?」ラナはメキシコ兵に尋ねる。
「島の半分は、です。」
「あと半分は?」
「スペイン領です。」
「ならばメキシコ領と言っても良さそうね。」
「はい、そうなることを望んでいます。」
「では、フランス領は私たち、東半分はメキシコ軍に任せましょう。」
「はい、ではそのように上官に進言します。」兵は立ち去った。
「圧倒的じゃないか、我が軍は。」奔吾は腕を組んだ。
「それ誰の真似だよ?悪者感が半端ないんだけど。」銀天が肩をすくめた。




