第4章 信長国王になる
いよいよ天下統一です。楽勝だったね。将軍とか関白にはなりません。国王ですよ国王。王様サイキョー!
武田を下し、甲斐国を得た織田家は、徳川を説き伏せて北条家を討つことにした。これで関東はおまえのものだと甘言を弄したのである。三河から東へ拡張したかった徳川はこの案に乗り、1570年に作戦は実行された。信長は大砲を備えた大型戦艦を駿河湾に展開し、伊豆の港や水軍を蹴散らすことになった。織田海軍の指揮は九鬼嘉隆、南国志摩の水軍の長である。船からの砲撃は驚異的な威力で、砲弾は小田原城にまで届いた。陸軍の主力は徳川勢だが、信長は甲斐を任せた滝川一益も銃士隊1000人を預け同行させた。さらに、銃士隊は預けないが、明智光秀も参加させた。青水がさかんに勧めたからである。海上からの砲撃にうろたえた北条勢はもろくも四散し、迫り来る軍艦に何の対処もできず、小田原城は砲弾の嵐で炎上し崩れ落ちた。徳川・織田の完全勝利である。なお、信長は家康に、今回の勝利に寄与した織田軍5000名に1人あたり米2俵の褒賞を与えることを要求して、自腹を痛めることなく家臣に報いたのであった。
「おーい、信長、すべて上手くいってるようだな。ところでおまえさ、坊主嫌いだろ?」
「いや、そんなことはないぞ。父祖の法要はしっかり滞りなく行っているし、重要な仏典もそらんじておる。」
「比叡山延暦寺もか?」
「む、あやつらは仏法よりも力を誇示する無法者であるゆえ、いつかは排除せねばと考えておる。長刀を振り回す僧兵の軍団などあってはならん。」
「まあそうなるよな。でも皆殺しにはしないほうが良いと思うぞ。とりあえず、いまおまえが敵対している浅井や朝倉をやっつけてだね、延暦寺は忍びに任せてみたらどうだ?」
「忍びに?どういうことだ?」
「内部から瓦解させるんだよ。織田の手を汚さずに。」
「どうやって?」
「くノ一を使うんだ。あいつら仏門の徒は女の免疫がないからな、誘えばコロリだよ。煩悩に殺されて自滅だ。」
「なるほど、それは面白い。わしは手を汚さず、不名誉な自滅か、それは痛快だ。ぜひやろう。忍びに媚薬も調合させよう。たまらんな、これ。」信長は両手を叩きながら子どものように喜んだ。
「あ、そうだ、信長。明智はそろそろ始末しないといけないよ。」
「ん?なんでだ?」
「あいつは裏切るんだ。まあいろいろしがらみがあるから、正面から切り捨てるべきではないか。慎重に振る舞おう。まだ時間はある。」
浅井と朝倉を難なく撃破し、延暦寺は「くノ一忍法煩悩地獄」によって不名誉に自滅し、多くの風刺画が描かれて庶民の支持を失った。農長は秀吉に銃士隊1000を預け毛利を攻めさせ、自らは形骸化した足利政権の幕引きに腐心した。足利義昭は畿内から追放され、足利幕府は名実ともに滅亡した。明智光秀は、銃士隊を預けられぬまま越中の上杉と戦い戦死。信長は戦死の報を聞いてわざとらしく悲しむふりをして、銃士隊の大軍を率いて謙信を撃破する。この戦いには大砲も投入し、敵軍が籠もる難攻不落の春日山城を砲撃して炎上させ、さしたる地上戦もなく戦は終結した。この報を受け、白川以北の東北の諸侯は信長と戦う気力を失い、みな恭順を誓うことになる。同じく、銃士隊を預けられた秀吉軍の武力を目の当たりにした毛利も、春日山城があっけなく落とされたと知ると、大砲の威力に恐れを成し、和議を申し立ててきた。西日本の諸侯は次第に戦意を喪失し、次々に信長に恭順を誓うようになった。最後まで抵抗の姿勢を見せていた薩摩の島津もついに折れ、1575年、信長は悲願の天下統一を成し遂げることになった。
「信長よ、本当に思ったよりかなり早く天下統一を成し遂げたな。」
「これも青水のアドバイスのおかげじゃ。」
「で、これからどうする?」
「天皇から関白やら征夷大将軍の位を提示されているのだが、どうしたものか?」
「うむ、ここは慎重に振る舞わなければ、今後千年近くの日本の行く末が変わってくる。俺の考えを述べて良いか?」
「おう、頼む。」
「信長よ、おまえは天皇をどう思っている?」
「古代の神の末裔ということになっているが、さすがに信じがたい。しかしあまたある神社の親玉であることは確かだ。神社は正月と結婚式の拠り所だから、潰すわけにはいかんだろう。寺も、お盆と葬式の拠り所だから潰すわけにはいかない。わしの理解ではその程度だ。」
「よろしい、実に健全だ。信長よ、おまえは天皇に任命される官職ではなくて、王となれ。王として即位し、織田王朝を作るべきだ。日本のためにはそれが一番良い。天皇は神社の親玉として、宗教的役割だけを果たしてもらう。仏教も同じだ。正月と結婚式、盆と葬式、基本的にはそれだけやってくれれば良い。なので、携わる人間はずっと少なくてかまわない。信長が理解できるかどうかわからないが、統廃合で組織の大きさを小さくしてお金がかからないようにする。属している人材も行政の実務に移動させてしっかり働いてもらう。役に立たない奴は首だ。現業下級役人になってもらって、葬儀場の掃除、死体の埋葬、ゴミ処理に当たってもらう。」
「おお、それは良さそうだ。実はこれまで天皇のものの言い方が偉そうすぎて、ときどき殴りたくなっていたんだ。わしが一番で、あいつらはその下、それをはっきりさせよう。」
「うん、いまこの時点で信長の即位を阻める人間はいないので、とっとと王様になってしまおうぜ。」
王様になった信長は何をするのでしょう。