第39章 鋼火、死す
はい。書いていて少し泣いてしまいました。いや、アルコールのせいでかなり盛大に泣いてしまいました。自分で書いて自分で泣くって,相当にキモいですね。
「信高~!」
「いよいよか?」
{ああ、いよいよだ。}
「1665年でわしも40歳、息子の信康は15歳。いや、だめだろ!」
「やっぱりダメか?」
「当たり前だ。40歳の親父が15歳の息子に家督を継がせられるか!」
「ですよね。」
「そもそもおまえは何で口を開けば隠居だ隠居だと?」
「いや、なんかそのくらいしかやることないし、暇だし。」
「アドバイス寄越せや!」
「うーん、アドバイスか。やり過ぎるとゲームバランスが...」
「なんだって?」
「いや、禁則事項だ。それよりアドバイスな。えーと...」
「すごい銃や大砲とか、すごい乗り物とか。」
「そんなもん出したらいろいろ怒られるだろうが。」
「じゃあ、なんか画期的なのくれ。」
「お、そうだ。おまえ、そろそろ王様として好き勝手するのやめろ。」
「は?何言ってるの?隠居はしなって何度も言ったろ。」
「そうじゃなくて、王様の在り方を変えるんだよ。」
「どうするんだ?」
「民意を反映させる議会を作って、王様は議会の言うことに従う。」
「民意とか議会とかわからんのだが。」
「選挙をするんだ。たしか甘雪でやっているから粉雪に聞いてみるんだな。」
「王様は俺でおしまいなの?」
「いちおう王様だよ、形だけはな。議会に従う王様。」
「まあ、青水がそこまで言うならそうするか。」
「そろそろスペインも出て行くんじゃない?」ミナが銃身を掃除しながら言った。
「だってこのごろは戦いにすらならないもん。」ルナがカラコンを入れながら言った。
「スペイン人そのものが減った感じ。敵は現地生まれのメスティーソ(混血)ばかり。」
「戦闘になる前に逃走するしね。」
「あちこちに制服や階級章も捨ててあるわよ。」
「レジスタンスはもう隠れるのをやめて表に出てきた。」
「新しく建国宣言でもするのかしら?」
カリフォルニア海沿岸に展開していた日本海軍から補給を受けていたアメリカ西部の有志軍は、メキシコのレジスタンスと対峙していた。
「さて、ここはメキシコの領土のはずだが。」
「領土だったのだがね。」
「まさか侵略する意図があると?」
「いやいや、われらがスペインの支配から取り戻した。」
「それはご苦労だった。では早急にお帰りを。」
「いや、この地は北アメリカに属するのがふさわしい。」
「何を根拠にそのような?」
「ここの民はわれわれと同じ言葉を話す。おまえたちのスペイン語ではない。」
「われわれのスペイン語は文化の言語だ。これをこの地にも広める。」
「ではおまえたちはスペイン人と同じだな。」
両陣営に緊張が走り一触触発の状況になった。
「ねえねえ、これやばいんじゃない?」ルナが心配そうに鋼火の顔をのぞき込む。
「紫影さんと連絡を取って何とかしないと。」ミナも双子なので同じ仕草だ。
「連絡を取ると言っても、どうする?そうか鳩を飛ばすか。」鋼火は連絡書を書いた。
「なんかにらみ合ってるぞ。」奔吾が望遠鏡で事態を観察している。
「国境の策定でもめているようだ。」銀天は報告書の束を読んでいる。
「鋼火に連絡しよう。」紫影は鳩を籠から出した。
2羽の鳩が北米とメキシコの忍びの元に降り立った。歩互いの状況を共有した紫影と鋼火は、沖合の日本海軍の船に状況を伝え、それからどうすべきか考えた。粉雪さんならどうするか?粉雪さんは過大な介入を避けてその地の人々の意思に任せる方針を貫いた。任せて、それでも強大な敵がその意思を踏みにじる事態になったら可能な限り助力する。かつての織田家もそのようにして甘雪を救った。だが対立する2つの意思がぶつかり合う現状はどうする?紫影と鋼火は、対立の最前線に進み出て双方の意思を調停することにした。
「私は鋼火。これまでメキシコのレジスタンスを陰ながら支えてきた。」
「私は紫影。北アメリカの民を束ねる手伝いをしてきた。」
「今ここに2つの勢力がぶつかり合うべきではない。」
「やがて来る白き災厄に対処するためにも。」
「メキシコの民と北アメリカの民は手を取り合うべきだ。」
「メキシコの民よ、聞いてくれ。」鋼火が一段高い場所に立った。
「メキシコの南東にはカリブ海、そして南アメリカ大陸がある。これらの地にはすでに白い災厄が広がっている。南東の国境を警戒しなければ、メキシコは常に災厄に接触して飲み込まれる。一方この地は、メキシコと言いつつも、民の話す言葉はスペイン語にあらず、北アメリカの民と魂と血がつながっている。この地をスペイン語に染め上げることが果たして解放なのか?民が本来属する場に帰すべきなのではないのか?良く考えてくれ。」
「このTraidor(裏切り者)!」
レジスタンスの群れの中から若者が飛び出して鋼火を撃った。銃弾は鋼火の頭を直撃し、鋼火は崩れ落ちた。場にいる全員が固まる中、4発の銃弾がこの狙撃者を貫いた。ミナとルナの二連燧銃の全弾が放たれたのだ。ざわめく両陣営の真ん中に飛び出して、紫影は吠えた。
「これがおまえたちの望んだことなのか?私たちは来たるべく白い災厄からおまえたちを救うために尽力し、命を張ってきた。それなのに、こんな結末がおまえたちの望んだ未来なのか?」
沈黙が場を支配した。ミナとルナは鋼火の死体を回収した。レジスタンスは狙撃した若者の死体を回収した。レジスタンスの代表者が進み出た。そして北アメリカの代表者に言った。
「こんな悲しい出来事がわれわれのいざこざから産まれるなんてことはあってはならなかった。われわれはスペインと同じ過ちを犯すところだった。われわれはスペインの呪いに毒された南の民たちを救うべく力を振るわなければならない。北アメリカの民たちよ。この地はおまえたちに託そう。そして、この悲しみがわれわれの永久の友好の礎になるように、この地に聖女鋼火の像を建立して未来への戒めにしよう。」
北アメリカとメキシコの国境が鋼火の犠牲で決まったので、これから白い災厄を迎え撃つ準備が本格的に始まります。




