第38章 アメリカ西部の国
アメリカ北部の国、アメリカ西部の国、そしてハワイ基地。だんだん形になる粉雪の想い。
ベーリング海峡から内陸へ1000キロほどの内陸部、そしてそこから南下して現在のカルガリーのあたりまで、主立った集落には声をかけ、貢ぎ物を渡し、お土産の飴を配り、友好を深めることが出来た。いまのうちにまとまっておかないと東から白い災厄が来ると警告したら、結束を固めてくれた。
「彼らにも銃を与えよう。」雪菜が提案した。
「そうだな。銃がないと東からの災厄に抵抗できない。」弦矢がうなずいた。
「狩りもはかどって人口が増えるかもしれない。」オムリーネは的確に予測した。
「結束を固めたいまなら銃を得て争うこともないでしょう。」凍雨が賛成した。
「それにしてもこのあたりは川や入り江が複雑に交差しているな。」犬嵐は腕を組んだ。
「ここに港があると便利そう。」エルニカは未来を見るように目を細めた。
「父上、母上、お久しゅうございます。」天馬と安寿は頭を下げた。
「おお、良く戻った。壮健そうで何よりだ。」裕之助は抱きしめたい気持ちをこらえた。
「待ってましたよ。お菓子を食べましょう。」粉雪は柔和な目を細めた。
「殿にハワイの大規模な強化を任されました。軍の基地にするそうです。」
「島が6つあるので、どこに何を建てるのか、帰って検討します。」
「おお、それは大仕事だ。ハワイの人口も増えそうだの。」
「はい、日本からもたくさんの人間がハワイに移住するでしょう。」
「家も建てなければなりません。施設も増やさなければなりません。」
サンモニの港に海軍の船が物資を運んできた。大量の武器弾薬と薬品である。それから絵会話帳を携えた大勢の技師たちが港に降り立った。結束を固めつつあるこの地区の原住民たちに、生活の質を向上させる技術を学んでもらうためだ。堅牢な住居を作るための知識と技術。安全な道を作るための知識と技術。狩りの危険を減らすための知識と技術。この最後の技術移転には、紫影たちから慎重な注意喚起が行われた。伝統的な価値観、土地の精霊との絆、狩りという行為に込められた名誉の概念。技師たちはそれをわきまえた上で丁寧に説明しなければならない。決して狩りの効率化という視点で話してはならない。あくまでも、従来のやり方に潜む危険、回避できる事故、挑戦と蛮勇の違い、そういったことを穏やかに冷静に説明しなければならない。
「集落の家が新築されて立派になってきたわね。」紫影が目を細める。」
「集落をつなぐ道も出来た。」銀天が額に手を当てて遠くを見る。
「狩りも順調みたいだな。」奔吾は手持ち無沙汰そうに言った。
「銃の使い方にみんな慣れてきたみたいだからね。」
「それにしても大判の絵会話帳、すごい効果だったな。」と銀天。
「ふふふ、コマ割りして絵物語を描くのが楽しくなってね。」
「みんな奪い合うように回し読みしていたぜ。」
「東から来る白い災厄。」
「絵に描かれたその災厄の姿、エグかったな。」奔吾が思い出し笑いをする。
「牙と角まで付いてたもんな。」銀天も笑った。
「絵会話帳、たくさん持ってきてもらって、現地の人たちにも配ったわ。」
「おう、あいつら同士も言葉が通じないこともあるからな。」
「絵会話帳のおかげでいまでは誰でも意思疎通が出来る。」
「一見地味だけど、実はすごい発明なんじゃないか?」
「メキシコの鋼火さんの発明よ。きっと勲章がもらえるわ。」
いまやサンモニを中心に半径250里の土地が結束した原住民たちによって支配されるようになった。来たるべく白い災厄まではまだ50年近くの猶予がある。それまでに結束をもっと固め、社会基盤を強固にし、国のような意識を彼らに持ってもらわなければならない。かつての甘雪が自らの意思で国となったように、このアメリカ西部も彼らの国になって欲しい。かつての粉雪の想いは、彼女が撒いた種から咲いた花である紫影たちによって,この地にも根付こうとしていた。
「ここが良い、ここにしよう。」ハワイ6島を検分した天馬が言った。
「このオアフ島に軍港と日本軍ハワイ基地を建設しよう。」
「オアフ島の何がそんなに気に入ったの?」ニコニコしながら安寿が尋ねた。
「この深く入り組んだ入り江だよ。入り江の周囲の陸地や山々が自然の壁となり、風や波を遮るので船が荒天や高波から守られる。嵐になっても船が安全に停泊できる。」
「それに外海から離れているので敵に見つかりにくいわね。」
「奥まった入り江では潮流や波が穏やかになるので、船は安定して停泊できるから、荷下ろしや修理も効率良く行える。」
「まさに自然の良港になるわね。」
「ここを真珠湾と名付けよう。」
「真珠湾、忘れられなくなる名前だわ。」
ついに「真珠湾」が。いつの日にか、私たちが知っているのとは全く違う形で"Remember Pearle Harbor!"が使われる日が来るのでしょうか?




