第31章 新大陸の探索は順調
みんな順調ですよ。くノ一は「お花」が好きなのかな。
「おっと、どうやらあれがタタヴィアの里だ。暗くてよくわからんが、人の気配がする。」銀天が皆を制してつぶやいた。
「ならば3町ほど後退して野営しましょう。」
「道すがら晩飯にする獣か鳥を狩るか。」奔吾が弓を取りだした。
「やめておけ。連中に気づかれる。野営地に着いてからその背後で狩れ。」
「わかった。」
「先に行ってて。」紫影は近くの木の枝に跳躍すると、そのまま姿を消した。
「あれか。」
「あれだな。お花をってやつ。」
「おっと、どうやら人里のようだ。皮の住居が並んでいる。」望遠鏡で観測していた弦矢が皆に言った。
「どうやって接近しましょう?」雪菜は少し緊張している。
「全員で押しかけると警戒されるので、ここは私が1人で先に行ってみます。皆さんは背後に隠れて、何かあったら援護をお願いします。」エルニカが手を挙げた。
「わかった。行こう。」
エルニカから10尺ほど離れた木立と岩陰に2人は隠れ、彼女の様子をうかがった。エルニカは集落に近づき、住民に声をかけ、飴を渡し、絵会話帳を駆使して何やら語り合っている。すると、エルニカと住民が急にからからと笑い出したではないか。何があった?興味津々の2人は近づいてみたくて仕方がなかったが、計画を急に変更するわけにはいかなかったので我慢した。すると、エルニカが小走りで戻ってきて2人を手招きした。
「大丈夫、こっちに来て。」
「どうしたんだ?」
「なんで笑ってたの?」
「なんか言葉が半分くらい通じちゃったの。」
「は?」
「チュクチの言葉と似ているところがあって、意気投合しちゃった。」
「なんと、そんなこともあるんだ。」弦矢は左手で右の肘を掴み右手で顎をなで、まるで名探偵でもあるかのようにつぶやいた。
「ともかく挨拶に行きましょう。」雪菜は絵会話帳を取りだして言った。
「ねえ、あの丸い雪の小山みたいなの、小山というよりお椀をひっくり返したみたいなの、あれってひょっとして家かな?」望遠鏡を覗いて凍雨が言った。
「大きさから考えるときっと家だ。人工の雪洞だ。」望遠鏡を受け取った犬嵐が断言した。
「キラキラして綺麗。白い貝殻をひっくり返したみたい。」オムリーネがうっとりしてつぶやく。
「人が住んでいるか、行って確かめよう。」
「皆で押し寄せて大丈夫かな?」
「あたりに隠れる場所もないし、行くしかないだろう。」
「そうね、3人の距離が離れていたら逆に怪しいわ。」
「こんにちは!」凍雨が声をかける。手には絵会話帳。
「船に乗って来た。」と犬嵐。手には船を描いた絵。だが下手くそだ。
「ここは寒いですね。暖まりたい。」オムリーネの絵はこたつで団らんの光景。通じるのか?
雪洞の中から人が3人出てきた。毛皮を着て眼に妙な仮面を付けている。武器は持っていない。仮面の細い隙間から珍しそうに3人を見ている。「+*~?+*!」何か叫んだ。一番絵が上手な凍雨が何枚か細かい絵を描き始めた。それを珍しそうにのぞき込む現地の人々。「よし、できた。」凍雨は紙をまとめると人々に笑顔で語り始めた。
「いいですか?私たち、カムチャッカという半島から来ました。はい、地図ですよ。ここがいま私たちがいるベーリング、そしてここがカムチャッカ。はい、こんな船に乗って来ました。途中で白い熊を見てびっくりしました。ここは寒いですね。みんなブルブル。お家の中に入れてもらえるかな?暖まりたいの。温かい飲み物がもらえたら最高。お土産も持ってきたよ。」
現地の人々はニコニコしながら相談して、一行を家に招き入れてくれた。この家はイグルーと言うらしい。氷で出来ているのに中は暖かい。イグルーの中には毛皮が敷き詰められており、屋根や壁にも毛皮が張り巡らされていた。屋内に入ると、人々は仮面を外した。「これは何か」と凍雨が尋ねると、現地人は屋外を指さし、眼をしばたいて、まぶしいという仕草をした。「なるほど、遮光器か」と犬嵐がつぶやいた。一行には魚肉が入った暖かい汁物が振る舞われた。冷え切った身体に染み渡る。
「ありがとう。助かったわ。」凍雨がほっとして微笑んだ。
「これ、お土産です。絵といってこうやって舐めるの。」オムリーネが実演した。
「この遮光器、かっこいいな。どうやって作るんだ?」犬嵐が助けを求めるように凍雨を見たが、無視された。
現地の人々は絵会話帳に興味を示したようだ。どうやら紙というものを始めて見るようで、透かしたり端っこをちぎったりして材質を確かめている。凍雨が筆を渡すと、牙を持つ動物の絵を描き始めた。その周りに人間らしい集団も描き加えられた。そして、遮光器を指さし、それから絵の中の動物を指さした。どうやらこの動物の牙が遮光器の材料らしい。現地の人々は絵の中の狩人を指さし、それから自分たちを指さして、外に出かけようと一行を促した。弓矢や槍を持ったということは、どうやら狩りへ行こうと誘っているようだ。
「狩りか、行ってみようぜ。」犬嵐はやる気十分だ。
「そうね、これも調査の一環だわ。」凍雨も弓を取りだして準備万端だ。
「よーし、金竜疾風の実力を異国の地で存分に示しましょう!」オムリーネは両手の拳を握り気合いを入れた。
外に出てしばらく歩くと氷海の近くに来た。アザラシや海鳥がたくさんいる。そして現地の人が指さす先にその動物がいた。長い牙、脂肪の塊のような太い身体、体長は10寸ほどか。垂直の高さはほぼ5尺。見たこともない巨獣だ。
「おいおい、あんなの倒せるのか?鉄砲でもないと無理だ。」犬嵐が尻込みする。
「着実に傷を付けて弱らせればなんとか。」凍雨も自信を失ったようだ。
「あの人たち、あの長い槍を使うみたい。綱が付いている。」弓を準備したオムリーネが横を向いて言った。
狩りが始まった。忍びたちの弓矢は、当たってもたいしたダメージにはならない。あれだけの厚い脂肪だ。攻撃が通るはずもない。では刀で斬りかかるか?いや、素早さがどれだけなのかを知らないと無謀すぎる。牙と爪が凶悪で、食らったら一発で絶命だ。弓が効かないのだから手裏剣など何の意味もない。金竜疾風としてこれだけ無力感に襲われたのは初めてだった。それに対して現地の人々は、これまでにも経験があるせいか、優れた連携で槍を投げ、巨獣の身体を突き刺している。しかし3,4本の槍が刺さったくらいで巨獣はひるまない。むしろ手負いになって凶暴さを増し、首を振って縄を握る村人を吹き飛ばした。そのときオムリーネが動いた。風のように跳んで村人が手を離した縄を掴み、再び跳んで近くの氷山の裏側へ回り、それからその縄を犬嵐に託した。そして今度は予備の槍を巨獣の眼をめがけて投げ、見事に命中させた。オムリーネの意図を察した村人たちは、綱を握ったまま氷山の裏側に集まり、力を合わせて綱を引いた。地面は氷なので体重の重さは苦にならず、巨獣は氷山に縛り付けられるような形になった。あとは槍で突き続けるだけである。巨獣は息絶えた。忍びと村人からなる狩人たちは大きな歓声を上げた。
セイウチ、とんでもない狩りでしたね。次回はそんな狩り...いやいやいや、いつも狩りするわけじゃありませんよ。




