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第3章 史実より早く武田に勝ってしまった

有名な長篠の戦いですが、武田も鉄砲隊を持っていましたよ。でも、そこは抜かりがない信長でした。

「朝鮮からだけじゃなくて明からも鉄鉱石を輸入できれば、鉄砲の生産力が一段と跳ね上がるな。でもその代わりに交換するための銀が欲しい。銀はどこで取れる?」


「毛利が治める石見銀山だな。毛利は強いぞ。その兵力は30000と言われる。こちらから攻め込むとなると難儀するだろう。


「ならしばらくは余計な戦を避けて、経済力を付け、鉄砲の増産に励むことだな。あと5年もすれば1万丁の鉄砲と100問の大砲が手に入るだろう。ときに大砲の性能はどうだ?」


「大砲はたいそう重いので、荷車に乗せて馬で引くしか移動手段はない。戦場に到着したら、馬を切り離して、荷車を杭で地面に固定し、発射に備える。」


「そうか、破壊力はどうだ?」


「設置された大楯も木っ端みじんだ。石塀も一発では無理だが何発か当てれば壊れた。集中砲火で城壁も無事では済まないだろう。」


「そうか。では船に武装として装備できるか?」


「いや、無理だろう。発射後の反動で船が沈むかもしれない。」


「なるほど、では船大工に命じて、大砲を撃っても大丈夫な大型船を建造させよう。海から敵に砲撃、これは新しい。」


「おお、それは良い考えだ。北条を攻めるときに役に立ちそうだ。」


「あと5年で鉄砲1万丁と大砲100門、そして大型軍艦を作り上げるんだぞ、信長。これから武田と北条と毛利を倒さなければならない。十分に準備をするんだ。」


「あい、わかった。青水のアドバイスがあれば何でもできそうだ。」


「そしてこれはとても大事なことだが、鉄砲隊の編制を見直すときが来た。」


「何と?鉄砲隊は十分な戦果を上げているが。」


「今まではな。だが、1万丁になったとき、今のままでは力を発揮できない。今こそ銃士隊を発足させるときだ。」


「銃士隊?鉄砲隊とは違うのか?」


「鉄砲隊は足軽に鉄砲を持たせただけのもの。銃士隊は鉄砲を扱う専門家の集団だ。1万人必要なので、今から領民全員を対象として募集をかける。武士も百姓も男も女もだ。」


「女もか?」


「女もだ。引き金を引く仕事に男女の区別はいらない。お触れを出せ。銃士隊募集と。字の読めない者もいるだろうから、立て札のそばに人を配備して、何度も口頭で説明させろ。『このたび身分や性別を問わず、15歳から20歳までの領民から銃士隊を組織する。その数1万。採用されれば俸給が支給される』と。選抜は、実際に銃を撃たせてその適性を見て決める。審査員には現在の鉄砲隊員も加わる。なお鉄砲隊は自動的に銃士隊に転属となる。」


「それは思い切った策だな。しかし面白い。やってみよう。」


「1万と言えば織田軍の中核だから、このくらいのことはしなければならない。」


「頭の硬い年寄り連中は反対するかも知れんが、そこはわしに任せろ。気迫で通してみせるわ。逆らう奴はぶっ飛ばす。」


 銃士隊の応募者は思ったより多かった。これまで信長の大胆な政策とその成功を見てきた領民は、これからも信長の計画に喜んで参加し、その行く末をともに築いていこうという気運に満ちていた。忍びたちの薬は飛ぶように売れ、その経済力で改良され増産された鉄砲と大砲の威力はますます上がった。楽市楽座で尾張の地には数多くの商人が来訪し、町はますます栄えた。銃士隊は新しい西洋風の制服に身を包み、肩に赤、青、白、黒の記章をつけていた。子どもたちは銃士隊を見ると憧れの視線を送り、「銃士隊だー、がんばれー!」と歓声を上げた。

挿絵(By みてみん)



「おーい、信長、あれから5年も経ったし、そろそろやっちゃうか?武田を。」


「うむ、銃士隊も育ったし、武器も性能が上がったし、勝利は盤石であろう。風林火山を銃士隊の銃弾が撃ち抜くときが来たな。」


 渋る家康を説き伏せて、両軍合わせて5万の大軍で武田領へ進軍する信長の軍を待ち受けていたのは、2万の武田の騎兵。士気は高い。信長は使者を立て、勝頼にこう告げた。「こちらが圧倒的に有利なのだから、降伏するなら命までは取らぬぞ。領地はもらうがな。どうだ?」戻った返事は、「武士ならば降伏などできるはずもない。鉄砲という卑怯な飛び道具をたくさん用意しているようだが、わが武田の騎馬隊で蹴散らしてくれるので覚悟せい!」この返答を受けて、信長はまず弓隊に火矢を撃たせた。誘い水だ。威力が弱い火矢の攻撃を合図に、武田の騎馬隊は鬨の声を上げながら突進して来る、と信長は思う、と武田勝頼は想定した。


 武田には隠し球があった。鉄砲隊だ。鉄砲隊の射撃戦で双方の射撃兵の数が減ったところを騎馬隊の突撃で蹴散らす。だがそう上手く問屋は下ろさなかった。信長は金竜疾風の諜報活動で武田の鉄砲隊の存在を知っていた。それどころか、鉄砲の供給先を突き止め、そこから納入予定の鉄砲を入手して尾張の鉄砲鍛冶に調べさせていたのである。文字通り、上手く問屋は下ろさなかったということになる。鉄砲鍛冶の調べによれば、武田鉄砲隊の射程は織田のそれより半町ほど短い。すなわち、相手の届かない距離から殲滅できる。

挿絵(By みてみん)

 射撃戦が始まった。武田の鉄砲隊はあっけなく銃士隊の的になった。4人のローテーションで連射する銃士隊の射撃の前に、敵の布陣は崩れた。これまでよと騎馬隊は決死の突撃をかけてくる。しかし織田の布陣まで到達できる武将はおらず、戦場は死屍累々となった。銃士隊の援護のために控えていた弓隊や槍隊の出番はなかった。信長は背後や横からの奇襲に備えて、銃士隊を4面対応に配置していた。どこから攻撃してこようと蜂の巣になるしかない。謙信自身も一騎打ちの機会もなく、銃弾に倒れた。織田の完全勝利だった。戦いの後、信長は主立った家来を集めて宣言した。「このたびの勝利、大義であった。なお、報奨については思うところがある。おって沙汰を待つが良い。」


 城に戻った信長は、文机(ふづくえ)を前にして思案していた。「武士というものは報奨のために命を捨てる。報奨は一族の未来を決める。報奨がなければ一族の発展はない。しかし、与えられる土地は有限だ。勝ち続ければいずれなくなる。しかも、銃士隊のような戦いをしていれば、首を取るという行為の価値がなくなる。将であろうと銃弾に撃ち抜かれて死ぬのだからな。そもそも誰が撃った銃弾であるかも特定することはできない。ならば、土地を報奨として与えるという慣習を廃止しなければなるまい。石高制度は残す。石高は、すなわち得られる米の量だ。ならば米を与えれば良いのではないか?今日のような勝利では、参加者一律に米3俵。徳川を除く今回の兵力は3万。9万俵で13.5000石か。なかなかのものだな。百姓出身の銃士は喜ぶだろうが、武士はどうだろう?しかし武士にはすでに禄があるから問題ないのではなかろうか。よし、これで行こう!」信長は一気呵成に新しい恩賞令を書き上げた。


「これより織田家の恩賞は、土地ではなく米で支払われる。今回の戦の恩賞は、参加者全員に米3俵である。この後も戦が続くであろうから、米俵を溜め込むつもりで奮進努力するように。」


「おーい、信長、史実よりずいぶん早く武田を破ったな、感心感心。」


「む、史実よりとは何だ?」


「まあ細かいとは気にすんなって。ところで、そんなに米を放出しちゃって大丈夫か?」


「問題ない。薬の商売で銭は潤沢にあるので、よそから米を買い入れて備蓄しておるし、干拓灌漑で農地も広がっておる。濃尾平野が広大で本当に良かった。土地も肥沃で作物がたくさん取れる。」


「そうか。ゆくゆくは銭で報奨が払えるようになると手軽で便利なんだが、今はまだ無理か。ところで信長よ、銃士隊は親衛隊として信長直属とし、秀吉などの配下の武将に貸し出すときは、最大限1000にするように。戦国武将たるもの、危機管理はしっかりとな。」


「おう、了解した。」



そろそろ天下統一のカウントダウンでしょうか。

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