第25章 安寿と鋼火の野外授業
安寿先生と鋼火先生、子どもたちを甘やかします。甘やかすけど、歯磨きは約束げんまん。
集落に到着すると、安寿と鋼火は子どもたちに声をかけた。大人も集まってきたが、、鋼火の絵会話で「きょうは子どもたちだけ」と断って帰した。この村は子どもの数が多い。50人ぐらい集まっただろうか。
「さあ歯磨きをするわよ。はいこの木の枝を持って、この葉っぱのところに塩を付けて、そう、そのまま歯を磨くのよ。良いかしら、上の歯シャカシャカ、下の歯シャカシャカ、前歯ゴシゴシ、奥歯ゴシゴシ!」
子どもたちは塩辛いのに耐えきれず、歯磨きをやめる者が多かった。口々に「しょっぱい、まずい!」と不満を述べる。そこで安寿は1人1人に飴を渡して、「はい、口直し」とご機嫌を取る。
「良いかしら?これが甘い。はい、言ってみて!ア・マ・イ、甘い。」子どもたちは一斉に「アマイ」と唱和した。「じゃあ、これ見てね。さっきみんながしたのは歯磨き、ハ・ミ・ガ・キ、言ってみて、歯磨き!」子どもたちは「ハミガキ」と唱和。安寿はこれに続けて「しょっぱい」も教え込んだ。
鋼火はこの間に紙芝居を準備した。甘い飴を食べると、歯が痛くなる。甘い飴を食べてから歯磨きをすれば大丈夫。その理屈を教えてから子どもたちに飴を配った。そして飴を食べ終わった頃合いを見て歯磨きを渡した。子どもたちは、「アマイ、ハガイタクナル、ハミガキ、ダイジョウブ」と言って素直に歯磨きをした。
2人はこの調子で子どもたちに基本的な日本語の語彙を教え、日本の童遊びを楽しんだ。小枝で簡単なおもちゃの作り方を教え、さらに多くの言葉を教えた。子どもたちはすっかり懐き、日本語の習得の競争を始めた。それから2人は子どもたちを連れて浜辺に行き、椰子の木を見つけて登って椰子の実を取った。鋼火は絵会話で、子どもたちが椰子の木に登れなくて悔しいということを知り、長い棒で落とす作戦を教えた。長い棒の先端に黒曜石のナイフを付けて切り落とすのである。この道具の製作でも、子どもたちは多くの日本語を学んだ。
翌日も2人は子どもたちと過ごした。この日は虫や魚を捕る網の作り方を教えた。川や波打ち際で小魚を捕ったり、バッタを捕って遊んだ。これらはすべて貴重なタンパク源になるので、その調理法も教えた。子どもたちは魚はたくさん食べて育ったが、バッタは初めてだったので少し後ずさりした。しかし煎ったバッタの香ばしい匂いを嗅ぎ、何よりも安寿と鋼火が美味しそうに食べている様子に誘われて、1人、また1人と手を伸ばし、その独特の風味にすっかり魅了されてしまった。ここでもたくさんの日本語が学ばれた。「食べたら歯磨き、約束げんまん!」子どもたちは自発的に歌いながら歯磨きをした。
「信高~!来たぞ。」
「おお、青水か、どうした?隠居はしないぞ。」
「わかってるって。それよりハワイはどうなった?」
「鳩の連絡網がないからわからないな。たぶん大丈夫なんじゃね?」
「なんでそう言い切れる?」
「超優秀の忍びを厳選して送ったって斑鳩が言ってたし。」
「そうか。で、ハワイをどうする?」
「ちょ、おま、おまえがハワイを攻略しろと言ってきたんんじゃないか・」
「あ、そうだった、忘れてたは。ハワイをだな、久しぶりに日本にしてしまおう。」
「マジか、あんなに遠いのに。領土を増やさないんじゃなかったのか?遺言でローマ帝国を思い出せとかなんとか。」
「そうなんだが、ハワイは特別だな。だって俺、まだハワイに行ったことがないし。」
「はぁ?俺だってねえよ。何なんだ、いったい?」
「ワイハで彼女とイチャコラしてーな。」
「バテレンの呪文やめれ!」
「おっとすまん。ともかくハワイが欲しいの!」
「駄々っ子か、おまえは?」
「きっと日本にも良いことあるぞ、青水の予言だ。」
「そ、そうか。そういうことなら、まあ...。」
安寿と鋼火はそれからも安寿先生・鋼火先生として子どもたちと遊び、日本語を教え続けた。10日ぐらい経つと、子どもたちは2人と大人たちの通訳が出来るまでに育った。調合班は、自分たちを実験台にした治験で安全性を確認した内服薬を持って村を訪れ、帆布の材料になる植物と引き換えに薬を譲渡する契約を、子どもたちの通訳で大人たちと交わした。契約がかわさっると、村の広場で酒宴が開催された。村人は踊りと歌を披露し、奔吾は空手の型を演じた。この演武は村の戦士の戦闘心を刺激したらしく、組み手というか模擬戦が行われることになった。琉球空手の奥義「飛影乱舞」は族長や戦士たちの度肝を抜き、ぜひ教授してくれと奔吾の前に群がった。
「教えたいのは山々だがが、俺の先祖には大鷲の精霊と絆を結んだ者がいて、その絆がないとこの技は使えない。」奔吾はそう言って鋼火に眼で絵通訳を使えと頼んだ。
「そんなとっちらかった話を絵に出来るか!」鋼火は酒を飲み干すと荷物をまとめて基地に帰った。
ところどころうやむやになりながらも、宴は和やかに進み、別れの挨拶をしてお開きになるとき、長老は一行に言った。
「この島には自分たちの他に6つ、全部の7つの村がある。すべての村がおまえたちに興味を示し、おまえたちに会いたがっている。わしは酒の勢いで、わかった、ならば会わせてやるから感謝するが良い、と言ってしまった。申し訳ないが、順番に会いにいってはもらえんじゃろうか?」
翌日から一行は集落巡りを始めた。長老の話と子どもたちの通訳、そして鋼火の絵会話の助けで、島の地図はほぼ完成しつつあった。子ども通訳団と鋼火の絵会話を伴って、一行は順番に集落を訪れた。どの村もとても友好的だった。薬の契約も順調に進み、島を脱出できるほどの帆布の材料も集まった。そろそろ日本に帰る予定だと告げると、すべての集落の住人が嘆き悲しみ、どうか見捨てないでくれと懇願するようになった。
「そんなに俺たちにここにいて欲しいのか?」と天馬は長老たちに尋ねた。
「おまえたちがいなくなると悪いことが起こる予感がする。」長老の1人が子ども通訳団を通して言った。
「ならば俺たちの長老に相談するので、一旦帰らせてくれ。来月戻ってこよう。そのとき俺たちの長老も連れてくるので、そちらも誰か代表者の長老を決めておいてくれ。」
天馬たちは船に帆を張って島を出た。
いったんハワイの代表者を決めてもらって、それからどうする?




