8 レオンとデート①
私は剣術大会での出来事を整理するため、思いついたことを紙に書き留めていた。
(剣術大会は予想以上に観客が多かったし、熱気もすごかった……)
レオンの試合が始まると、会場全体が一気に盛り上がった。レオンが剣を振るうたびに歓声が湧き、その人気ぶりを改めて実感した。観客の中には、レオン目当ての女性たちも大勢いて……。
(私に向けられた視線も痛かった……)
嫉妬や敵意を含んだ視線が、いくつも私に向けられていたことを思い出す。それはまるで、私がレオンのそばにいること自体を非難しているかのようで……。
「結局、レオンのファンから見れば、私は邪魔者ってわけよね」
少し気持ちが沈むのを感じたが、とはいえ予想の範囲でもあった。レオンとヨハンにとって、クロエはお姫様だったというのは間違いないようだし、クロエ自身もそれを自覚しているのか無自覚だったのかわからないけど、二人にはとても甘えていたようだから。
とはいえ、女性の嫉妬からストーカーに発展するようなことはあるのだろうか。
ゲームのシナリオをどれだけ思い出しても、“クロエはストーカーに襲われた”ということしかわからない。この場合、普通なら“クロエをずっと着け狙っていた”という風に読み取れるけど、実は違うのだろうか。そもそもストーカーは男性だと思っていたけど、女性の可能性もあるかもしれない……。
「はあ……考えれば考えるほどわからなくなる……」
ため息をつきながら、窓の外に目を向けると、澄んだ青空が広がっていた。
「いいお天気……お散歩とかすれば気持ち良いんだろうな」
こんな穏やかな日差しの日に、部屋にこもって虚しい作業に時間を費やしていることが悲しくなってくる。しかし命に関わることだから仕方ない。この事件さえ乗り越えれば、あとは平和に過ごせるはずなのだから……。
「うん、もうひと頑張りしよ……」
自分に言い聞かせながら伸びをしたあと、もう一度メモに視線を戻そうとしたら、部屋のドアが軽くノックされた。
「クロエ、いるか?」
ドアが開きレオンが入ってきた。慌ててメモを引き出しに隠す。幸いにも、私の不審な動きには気付いていないようだった。
「お兄様、どうしたの?」
「朝から部屋にこもっているから気になったんだ。忙しいのか?」
「ごめんなさい、大丈夫。ちょっと昨日の剣術大会の疲れが出たみたいで、ぼうっとしてたの」
「大丈夫か?マリアに頼んで休む準備を……」
私の言葉に、レオンは心配そうに顔色を確認してくる。その距離がとても近くてドキドキしてしまう。
「だっ、大丈夫!それより、お兄様、何かご用では?」
「ああ、天気がいいから遠乗りでもどうかと思ってな。だが、疲れているなら……」
「遠乗り!」
思わず前のめりになる。遠乗りという言葉に胸が高鳴った。ゲームや漫画ではよく聞くけど、実際に体験するのは初めてだ。それをレオンと一緒に?
「行きたい!」
勢いよく返事をすると、レオンは少し驚いたように目を丸くした。
「本当に大丈夫か?」
「大丈夫!ちょうどお散歩したいなと思ってたの」
もう少し頑張ろうと決めたところだったけど、この誘惑には勝てそうにないわ。
「わかった。馬の準備をしてくるから、お前はその間に支度をしなさい」
レオンがそう言って部屋を出て行った。私は急いでマリアに身支度をお願いする。
マリアはいつになく張り切った様子で、「可愛く仕上げますね」と楽しそうに微笑むと、まず私の髪を念入りに整え始め、長い髪をふんわりと編み込んで後ろでまとめるスタイルに仕上げてくれる。後れ毛は少しだけ残して顔周りに柔らかさを演出し、全体的に上品さと可愛らしさが漂う仕上がりだ。
次に服は、ライディング用に動きやすいけれども可愛らしさを忘れないデザインのワンピースを取り出す。淡いクリーム色に繊細な刺繍が施され、腰には茶色い革のベルトが巻かれるのがポイントのよう。スカートは馬に乗っても邪魔にならないように前後が少し短めになっていて、足元はロングブーツを合わせてくれた。首元には同系色のリボンが結ばれ、アクセントになっていた。
「これで完璧です!」
マリアが満足そうに仕上がりを確認するのを見て、私もなんだか特別な気分になってきた。というより……
(これって、よく考えたらデートでは……!?)
気付いた瞬間、顔がみるみる熱くなるのを感じた。
そんな私の様子に気付いていたのか、マリアは笑顔で送り出してくれた。