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50 父と母

 その後、両親にもすべてを話すことにした。

 本当は、ヨハンの事件が起きた時点で、もう隠し通すのは無理だろうと思っていた。しかし、その後も次々と色々なことが起こり、そのタイミングを逃してしまった……。だけど、それはただの言い訳に過ぎない。本音を言えば、向き合う勇気がなかなか持てていなかったのだ。

 しかし、ヨハンの件が解決した今、これ以上後回しにすることはできないと覚悟を決める。レオンにもそのことを伝えると、ヨハンの両親への時と同じように、今回も傍にいてくれると言ってくれた。


 そして今日、両親にすべての経緯を打ち明けた。

 クロエがかけた術によって、別人格がクロエの体に宿ったこと。ヨハンに対して強制的にクロエを愛する術をかけた結果、事件が引き起こされたこと――それらを包み隠さず話した。


 話し終わったとき、父は深く息を吐き、顔を両手で覆った。母がそっと父の背中を撫でる中、父は涙混じりの声で口を開いた。


「実は……あの日、階段から落ちる少し前、クロエと話をしようとしたんだ」


 その言葉に、レオンが小さく反応する。驚きを隠せない様子だった。


「だが、そのときのクロエは、すでに精神的に追い詰められていて、まともに話をすることもできなかった。もし、ヨハンとの関係を認めてやっていたら、こんなことにはならなかったのかもしれない……そう、後悔した」


 父の瞳から涙が一筋流れ落ちた。いつも穏やかで、何があっても冷静な父。ヨハンの事件を聞いた時も、「自分にできることがあれば力を貸そう」と言ってくれた。レオンとクロエを大切に思う父の心情を思うと、胸が締めつけられるような痛みを覚えた。


 父はしばらく涙が落ち着くのを待って、しかし、何かを言おうとしつつも、言葉を詰まらせた。その様子を察した母が、代わりに口を開いた。


「正直に言うとね……階段から落ちて記憶を失って、別人のようになったあなたを見たとき、私たちはほっとしたの」

「ほっとした……?」


 私は驚きを隠せず、思わず聞き返してしまう。

 母の言葉を受け、父も落ち着きを取り戻したのか、静かに続けた。


「憑き物が落ちたようにヨハンのことを忘れ、異常な状態から落ち着きを取り戻したお前を見て、安堵しかなかった。記憶を失ったとしても、このままでいてほしい……そんなことを願ってしまうぐらいには。それがまさか、別人だったとは思いもしなかったが……」


 父は自嘲気味に笑った。その言葉に、レオンも続ける。


「結局、俺が義妹以上にお前を想ってしまったのも、父上に安堵を与えたのも、ミナの本質がそうさせたんだと思う」


 レオンの言葉に同意するように、父も小さく頷いて言った。


「そうだな。自分の娘の中に別人がいる――正直そんな魔法なような出来事を簡単に受け入れることはできないが……貴女のおかげで安心できたのも事実だ」


 そう言いながら、父は私を真っ直ぐ見つめ、そして微笑みを浮かべながら言った。


「これまでの雰囲気からも、貴女はとてもしっかりした女性に見える。なによりレオンが選んだ女性だから、大丈夫だろう。変な言い方になるかもしれないが……どうか娘をよろしく頼む」


 その言葉に、私は思わず涙が溢れた。隣に座る母も静かに頷き、私の手をそっと握りしめながら言った。


「これからも、あなたを家族として見守っているわ」


 両親の温かい言葉に、心の奥底にあった不安が少しずつ溶けていくのを感じた。私はその言葉を胸に刻み、前を向いて生きていこうと決意した。



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