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42 波乱のお茶会

 お茶会当日、会場の入り口に立った私は、思わず目を見張った。


(身内だけのお茶会って聞いていたのに……これって……)


 目の前に広がるのは、広大な庭園を贅沢に使った盛大なガーデンパーティー。カラフルなテーブルクロスに彩られたテーブルの上には、美しい花々で飾られた装飾が目を引く。その中を、華やかな衣装をまとった貴族たちが談笑しながら優雅に行き交っていた。


(これ、完全に社交の場じゃない……!)


 公爵家を訪れるということで、マリアが「勝負服」と言わんばかりに私を着飾ってくれたのは本当に幸いだった。


(正直、たかがお茶会にこんな豪華なドレスなんて必要ないと思ってた私がバカだったわ……マリア、本当にありがとう!)


 とはいえ、周囲に知り合いはおらず、場の華やかさと視線の重圧に気後れした私は、つい庭園の端へと身を寄せる。少しでも目立たないようにと深呼吸で気持ちを整えていると、不意に数人の令嬢たちが近づいてきた。


「まあ、あなたがレオン様の婚約者になられた方ね。初めまして!」


  明るい笑顔とともに飛び出したその言葉に、一瞬ほっとする。しかし続く会話は、鋭いものだった。


「血が繋がらないとはいえ、お兄様を好きになるって、どんな気持ちなのかしら? 家族同然の存在でしょう?」

「それに……少々失礼かもしれないけれど、レオン様のような素晴らしい方と本当に釣り合うのかしら、少し心配でしてよ」


 その口調こそ柔らかいが、内に込められた棘は明らかだ。私は笑顔を崩さないように努めながら、何とか適当に言葉を返す。


「えっと……」

(こんな場面、どう切り抜ければいいの……!)


 とっさに助けを求める相手もおらず、言葉を探している私の耳に、聞き覚えのある声が割って入った。

 

「皆さん、私の招待に応じてくださりありがとう」


 主催者であるヴィオラ・エベレットが優雅に歩み寄ってきた。優美な笑みを浮かべる彼女の姿に、思わず身構える。


(嫌味を言う人がまた増えた!?)


 しかし次の瞬間、彼女は柔らかな笑みを私に向けた。


「クロエさんもいらしてくださって嬉しいわ。今日はどうぞゆっくり楽しんでいってね」


 その言葉に、拍子抜けした私は目を瞬かせる。さらに彼女は、変わらぬ穏やかな口調で言葉を続けた。


「レオン様とご結婚なさるなら、きっと今以上にお付き合いが広がっていくわ。こういった場に慣れることも大切よ。焦らず少しずつでいいから、ね」


 意外にも、思いやりに満ちたその言葉に驚きを隠せない。さらに私たちが会話を交わす間に、先ほど嫌味を言っていた令嬢たちはそそくさと立ち去っていった。どうやら主催者であるヴィオラの前で私に嫌味を言うのは、さすがにまずいと感じたらしい。


(もしかして、これを見越して助け舟を出してくれた……?)


 ヴィオラは微笑みを残し、「では、ごゆっくり」と言いながらその場を離れた。

 彼女の背中を見送りながら、私は少しだけ彼女への印象が変わった気がした。


 ◇ ◇ ◇


 その後、お茶会は何事もなく進行した。

 初めは不安でいっぱいだったけれど、ヴィオラ様の言葉のおかげで少しずつ緊張がほぐれ、周囲の華やかな雰囲気にも馴染んできた。美しい庭園を眺めながら、心地よい会話や美味しい料理を楽しむうちに、ようやくこの場を楽しめるようになっていた。


 そんな穏やかな時間を過ごしている中、突然、生理的欲求が私を襲った。


(まずい……)


 顔を赤らめつつも、恥ずかしさを押し殺して近くにいた使用人に声をかけた。


「すみません……お手洗いはどちらでしょうか?」


 使用人は特に表情を変えることなく、静かに私を案内してくれた。

 無事にトイレを済ませ、少しホッとした気持ちで扉を開ける。


(さて、戻ろう……)


 そう思い周囲を見渡すが、案内してくれた使用人の姿が見当たらない。


(え?どこに行ったの?帰りは勝手に帰ってくださいってこと?)


 困惑しながらも、仕方なく自分で道を探すことにする。


(さすが公爵家……うちとは比べものにならない広さ。まるで宮殿みたい。)


 来た時に案内された道を思い出しながら歩き始めるが、豪華な内装はどれも似たような景色に見えてくる。長い廊下を進むうちに、次第に方向感覚が失われ、心細さが募った。


(やばい、これ、迷路みたいじゃない……!)


 焦り始めたその時、ふと背後から何かが近づいてくる気配を感じた。


(屋敷の人かな?道を教えてもらえるかも!)


 期待を胸に、私は振り返ろうとした――。

 しかしその瞬間――鈍い痛みが頭を貫いた。


「……つ!?」


 声を出す間もなく、視界が暗転する。周囲の景色が遠のいていき、その場に崩れ落ちるのを感じる。

 目の前には男性の足が見える。しかしその足の持ち主を確かめることなく、私の意識は闇に飲まれていった。


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