26 もう一つの疑問
次の日。
私は日記を読み返していた。最後にあった文章が気になっていたからだ。
「あった、ここ……」
『おまじないが成功すれば、私はヨハンの理想の女性になる。そしてヨハンも私が大好きになる。』
レオンは特になにも言ってなかったけど、私はこの一文が気になって仕方なかった。
「おまじない……。それらしき形跡は見たことないと思うけど……」
私は改めて部屋の中を観察してみることにする。散らかっているようで秩序を保っている引き出しや、本棚の並び。特に不自然なものは見当たらない。
ふと、綺麗な装飾が施された宝石箱が目に留まった。
日記が入っていた箱は隠されていた。しかしこの宝石箱は目立つ場所に置かれている。だから見過ごしていたけど……。
(女の子が持つお守りってアクセサリー状のものもありそうだし……)
宝石箱の中身を確認しようと、箱を手に取る。しかし、しっかりと鍵がかかっていた。
(鍵はどこだろう……)
宝石箱の近くの引き出しを探ると、小さな鍵を見つけた。
「これかもしれない……」
鍵を慎重に差し込み、回すとカチリと音を立てて開いた。箱の中には美しいネックレスや指輪が整然と並んでいる。
「うーん……、お守りっぽいものは無い感じかな」
ひとつひとつ、アクセサリーを慎重に確認していく。令嬢というだけあり、この年齢の少女にしては豪華なアクセサリーを持っている気がした。しかしお守りっぽい施しのある物は見当たらなかった。
念のため、空になった箱も観察してみる。するとこの箱も二重構造になっていることに気づいた。指先で丁寧に箱の内側を押し、持ち上げると隠し底が現れる。
そこには、使われた形跡のある奇妙な魔術陣が描かれた紙と、小さな空瓶が入っていた。
「ビンゴだ」
私は興奮した気持ちを抑えるように、慎重に紙を手に取る。そこには見たことのないシンボルや文字が描かれていて、まるで魔法か呪術を思わせるデザインだった。空瓶には、何かの液体が入っていたような痕跡が見える。日記の内容と合わせて考えると、この紙や瓶が何か重大な手がかりである可能性が高い。
心臓が鼓動を強めるのを感じながら、私はその魔術陣と空瓶をそっと懐に仕舞った。




