25 告白
「レオン、いつから私のことを……好きだったの?」
私の問いに、レオンは一瞬考えるように黙り込んだ後、ぽつりぽつりと語り始める。
「お前は昔から甘え上手だった。俺やヨハンをいつも振り回して、魅了していた」
懐かしむような、けれどどこか切ない表情でレオンは続ける。
「とはいえ、俺にとっては可愛い義妹にすぎなかった。恐らくヨハンも、お前を幼馴染であり妹分として見ていただけだろう」
妹分……。確かにヨハンと最初に会った時は、そんなふうに接してくれた気がする……。だけど今は……。
「変わったのは……お前が記憶を失ってからだ」
その言葉に、私は息をのむ。
「お前を監視するために毎日部屋に通っていたのは、もう気付いているのだろう……?」
「ええ……」
「だが、監視目的とはいえ、その時間はお前と交流する時間には変わりなかった。お前と話すのにいい機会だと思った。だが記憶を失ったお前はあまりにも以前と違いすぎて……、正直戸惑った」
(やはり、違和感を隠すことはできなかったのね……)
それもそうだろう。私はクロエのことを何一つ知らないのだから。
元の世界でよく見かけた転生もののように、転生先のキャラを演じるには無理がある。
「だけど、その違和感は……やがて好ましい感情に変わった。そして気づいたんだ。俺は、お前を妹としてではなく、一人の女性として見ていると」
レオンの声が静かに胸に響く。
「正直、葛藤はあった。血がつながらないとはいえ、妹を好きになるなんて……許されることなのかと自分に問い続けた」
彼は一度言葉を切り、深く息を吐き出す。そして、真っ直ぐに私を見つめた。
「だけど……この気持ちに嘘をつくことはできなかった」
その瞳には、迷いや戸惑いはない。
レオンがそっと手を伸ばし、私の頬に触れる。その温かさに、思わず目を閉じる。
「クロエ……」
彼が私の名を呼んだかと思うと、唇がそっと触れた。優しく、けれど確かな愛情を感じさせる甘いキスだった。私はその温もりに身をゆだねながら、胸の奥で小さな灯がともるのを感じた。
キスの余韻がまだ唇に残る中、レオンは小さく息をつき、苦しげに呟いた。
「……抑えられると思っていたんだ。この気持ちを。だけど……無理だった」
その言葉には、深い苦悩と、自分を責めるような響きがあった。
「俺の中で渦巻くこの独占欲を……ずっと押し殺してきた。それでも、お前がヨハンと会っていると聞いた時……本当は、本気で部屋に閉じ込めるべきか、悩んだ」
レオンの声が震え、必死に抑え込んだ感情が滲み出ている。狂気に近いその告白は、レオンが言ったのでなければ、逃げ出していただろう。だけど……。
「……レオン」
私は静かに口を開いた。
こんな狂気を感じても、私はレオンを嫌いにはなれなかった。
最初はただ、レオンに笑っていてほしかった。レオンの心を凍らせた原因がクロエだったのなら、たとえ本物のクロエではない私でも、私が生きて、傍にいることで、レオンが笑ってくれるならと……そう思っていた。
だけど、レオンと接しているうちに、好きになってしまった。義妹なのに。本物のクロエではないのに。
正直、葛藤はある。後ろめたいこともたくさんある。
だけど、この気持ちはもう、後戻りできそうにないほど育っている。
まして両想いなら……、すべてを受け止める覚悟を持たないと。
「……改めて伝えるけど、私はヨハンのことは何とも思っていないわ」
レオンが私をじっと見つめる。その瞳の奥には、不安と安堵が入り混じった複雑な感情が揺れている。
「……私はレオンのことが好き。だから、この先も、ヨハンを好きになるなんてありえない」
私の言葉に、レオンは震える手で再び私の頬に手を伸ばし、そっと触れた。
「……本当に?」
その問いかけには、不安と期待が交錯しているようだった。私は頷き、微笑んだ。
その瞬間、レオンは私を優しく引き寄せ、再び唇を重ねた。
先ほどよりも深く、甘いキスで、彼の気持ちが、言葉以上に伝わってくるようだった。
私も彼の背に腕を回し、その感情を受け入れるように抱きしめ返した。




