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22 真実

 しかし、どれだけ読み進めても、そこにはヨハンへの思いばかりが記されていて、レオンの名前はほとんど出てこない。

 それどころか、日記の内容は徐々に暗く、狂気じみたものへと変化していった。


『どうしてヨハンに婚約者なんてできたの?』

『奪い返す方法を考えなければ……。』


 そんな言葉がクロエの苦悩と執着を露わにしていた。

 クロエは、ヨハンを婚約者から取り戻すために策略を巡らせていたようで、その過程を赤裸々に書き残していた。そしてついには婚約者本人と直接対峙するに至ったらしい。クロエは婚約者に対抗心を持っていたようで、なにかと婚約者を陥れようとする考えもあったようだ。

 そこには、幼い少女とは思えない。おぞましい女の考えが綴られ、知らなかった彼女の一面が赤裸々に刻まれていた。

 胸の中で何かがざわつき、息が詰まりそうになる。


(これがクロエの本当の姿……?)


 手が震え、日記をめくることすら躊躇われる。それでも、さらに真実を知りたいという思いが私を突き動かしていた。


 読み進めるうちに、書かれた内容は最近の日付へと近づいていく。

 しかし、どれだけページをめくっても、レオンの名前が登場することは一切ない代わりに、ある占い師と出会ったことが記されていた。その占い師からは「運命の人と結ばれるためのアイテム」や「おまじないの存在」を教えられたようで、クロエはそれらを片っ端から試していたようだった。


『このお守りがあれば、ヨハンと結ばれる運命に導かれるはず。』

『おまじないが成功すれば、私はヨハンの理想の女性になる。そしてヨハンも私が大好きになる。』


 ページをめくるたび、クロエの文字は次第に乱れていった。

 そして、最後のページにはこう記されていた。


『このおまじないが完成すればヨハンと結ばれる。そうすれば、私の人生はきっと幸せで満たされる。』


 その文を最後に日記は途切れていた。

 その日付は、クロエが階段から落ちた日だった――。


「…………」


 私は日記を読み終え、言葉を失う。気づけば日は傾き、部屋の中は薄暗くなっていた。

 日記を持つ手が震えていることに気づき、私は落ち着くために深呼吸を繰り返してみる。そして手の中の日記をそっとローテーブルの上に置いた。


 日記に綴られた内容が頭の中をぐるぐると回り続けている。特に後半の記述から感じる異様な雰囲気――それはクロエがどれほど追い詰められていたのかを物語っていた。同時に、この日記が私に突きつけたのは、彼女の深い執着と苦悩、そして新たな謎だった。


「レオンとクロエは恋人同士だったっていう話が一切ないのはなぜ……?」


 どれだけ読み返しても、クロエがヨハンに片思いをこじらせていたこと以外には読み取れなかった。ただひたすらヨハンへの想いが濃密に記されているが、レオンとの関係については一切触れられていない。それどころか、レオンに触れる内容はほとんど無いぐらいだった。


 胸が激しくざわつき、頭の中が混乱していく。この日記はどう見てもクロエ自身が書いたものに間違いはない。筆跡から見ても、明らかにクロエのものだし、こんな場所にわざわざ隠すのも、クロエ本人以外に考えられない。


 だとすれば。

 日記の内容が事実であれば――。


「……レオンと付き合った形跡はない。つまりレオンが嘘をついている……?」


 その考えが私の胸を締め付ける。信じたくない気持ちと、日記が示す現実との間で板挟みになり、息苦しさを覚えながら、私はソファに沈み込んだ。


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