16 両想い?
「俺たちは――以前、恋人同士だったんだ」
レオンの言葉に、頭が真っ白になる。
(恋人……? レオンと私が……?どういうこと!?)
「……お前がすべてのことを忘れてしまったから、黙っていようと思った、だが……」
言葉を区切り、レオンはさらに私を強く抱き寄せた。
「お前が新しい恋をするなんて……許せないっ」
強く発せられたその言葉に熱が含まれていることを感じ、咄嗟にレオンから距離を取ろうとする。だが、レオンは逃がさないとばかりに腕の力を強めた。
「……俺のことは嫌いか?」
耳元で低く囁かれる声に、心臓がかき乱される。
嫌いなわけがない。むしろ、その逆。
だけど――。
「私は……」
声が震える。言葉を紡ごうとするたびに喉が締め付けられるよう。だって、だって……。
「私は……お兄様が好きだったクロエじゃない!」
その言葉に、一瞬レオンが固まる気配が伝わってきた。
けれど、すぐに私の肩をぐっと掴み、視線を合わせたかと思うと、力強い声で言った。
「関係ない。俺は今のクロエが好きなんだ」
射貫くような真っ直ぐな視線。私は思わず目を見開いてレオンを見つめた。
今の私を……好き?
「今のお前だからこそ、誰かに渡すなんて耐えられないくらい……好きだ」
レオンの言葉が、私の心の奥底を震わせる。
「……お兄様」
「できれば名前で呼んでくれ。……以前のクロエはそう呼んでいた」
「……レ…オン……、私も……レオンが好きっ」
次の瞬間、レオンの表情がふっと柔らかくなったのがわかった。そして緊張の糸が切れたかのように、再び私を抱きしめる。今度は優しく、だけど逃がさないとばかりに強く、近く、お互いの熱を感じながら……。
「クロエ」
いつもとは違う温度を帯びた声で名前を呼ばれ、そっと顔を上げた。視線が合うと、レオンはふわりと甘い笑みを浮かべながら、優しく私の頬を撫でる。その手は顎へと滑り、くいっと顔を上向かせたかと思うと、彼の顔が静かに近づいてきた。
「……好きだ」
低く囁かれたその言葉とともに、唇が重なる。
温かくて、柔らかくて、全身が痺れるような感覚が広がる。彼の手がそっと私の頬を包み込むたび、心の奥底に隠していた想いがどんどんあふれてくる気がした。
キスは次第に深くなり、私たちの間にある空気が甘く濃密に変わっていく。私はレオンにされるがまま、彼の唇を受け入れる。胸の鼓動が早くなりすぎて、もはや自分の音なのかレオンの音なのかわからない。
彼の舌がそっと私の唇をなぞると、無意識に体が反応してしまう。胸の奥がぎゅっと締め付けられるような感覚と同時に、どこかくすぐったい幸福感に満たされた。
やっと唇が離れた頃には、私の息があがっていた。
(きっと顔も真っ赤だわ……)
恥ずかしくて顔を背けたいのに、レオンの手は私の頬から離れず固定されている。恥ずかしくて私はぎゅっと目を閉じる。その間もじっとこちらを見つめる視線を感じた。
「何も思い出さなくていいんだ。今の……そのままのクロエでいてくれたら、俺は幸せだ」
その言葉に、胸が熱くなり、閉じていた目を開くと、レオンの甘く熱い視線と重なった。
しばらく見つめあったあと、再び唇が重なる。ゆっくりと、けれども確かな意思を持って深く愛を注ぐようなキスは、私を虜にしていった。




