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戦士の休息

作者: 空クラ

ショートショートです

 1年ぶりに訪れた要塞都市シャグリル。

 

 高くそびえる壁が来るものを拒むように鎮座している。

 南西には巨大な魔物が跋扈するリアダの森を擁し、

 王都に流れ込む魔物を堰き止めるために造られたのが、この壁であり、この町であった。

 

「ご苦労様です。センガベル隊シャーシュット隊長殿。今日はどのようなご用件で?」


 緊張した門番のひとりが俺に声を掛ける。

 王都最強の兵集団センガベル。その隊長が俺の役職である。

 彼からすれば天上人にも等しい存在らしく、緊張感が凄い。


 そんな良いものでは無いのだか、なあなあになるのも違うので威厳を損なわない程度に優しく声を掛ける。



「今日は私的な用で寄っただけだ。そこまで畏まらなくてもいい。一週間ほど滞在する」

「はっ!」


 ビシッっと敬礼した門番を後にして俺は歩き出す。


 その後ろを威風堂々とふたつの影がついてくる。


 ひとつは狐形の獣で、口に短刀を咥えている戦獣。名はハク。

 もうひとつはハクのつがいとなる狼形の獣で、口に虹色の玉を咥えている。名はビョウ。

 俺の守護獣であり、俺の相棒でもある。



 大通りを吹き抜ける風は少し冷たくて、陽射しはそれより少し暖かい。

 石畳みに打ち付ける彼らの足音を聞きながら、俺はゆるりと歩いていく。



 幾度もの戦いで倒れていった仲間たちや、親友と呼んだ者の裏切りが頭をよぎる。

 忘れたくても忘れられない。否、忘れてはならない事なのだろう。

 それら全てを、生き残った俺が背負っていかなければならない。

 それが生者の定めであり、自分への戒めなのだから。



 俺は茫洋とした視線を彷徨わせていた。

 全てが滑稽に思え、心が無機質なものとして受け止めている。



 町の中心部に近づくと、人の数が一気に増えてく。

 笑顔だったり、辛そうだったり、嬉しそうだったり、哀しそうだったり、それぞれの表情を顔に張り付けていた。


 そんな中、誰かが、がなるように歌っていた。

 誰かが、叫ぶように歌っていた。


 全てがどうでもよくて、全てが物悲しくて、それでも僕らは生きていく。 

 命はやっぱり儚くて、希望やユメも切なくて、今の現状は虚しくて。

 これから俺はどこに行くのだろう。

 どこに向かって歩いているのだろう。


 そんな歌を歌ていた。


 立ち止まる人はまばらだった。

 それでも誰かは歌っていた。何かを伝えようとしていた。




 俺は大通りから細道に入り、入り組んだ道を進んでいく。

 そこを抜けたころには空には分厚い雲が立ち込め、今にも雨が降り出しそうだった。

 人々の喧騒は背後に消え、物静かな牧草地へと変わった。




 いつの間にか前で歩いていたハクが、突如立ち止まった。


「どうしたハク」


 ハクは鼻先をくいっと前方へやる。その先には一羽の小鳥がいた。


 よく見れば片翼をもがれ、震えていた。

 今にも力尽きそうな小さな身体を必死に震わせ、迫りくる死から足掻いていた。

 俺はそっと掌に小鳥を乗せた。


 降り出した雨は容赦なく、俺と相棒、そして小鳥の体温を奪おうとする。

 

 小鳥の眼に映るのは絶望だろうか?

 それともまだ見ぬ明日だろうか?


 絶望という深穴に魅入られ、命を落としていった仲間たちと小鳥の姿が重なった。


 ハクが『どうするんだ』というように鼻を鳴らす。

 俺はビョウに視線を向ける。


「助けてやってくれないか」


 俺の言葉にビョウは『しかたないわね』と言わんばかりに口にくわえている虹色の珠を小鳥に、ちょこんと当てる。


 淡い光が珠からあふれ出し、小鳥を包み込んだかと思うと、時間が巻き戻るように傷ついた身体に肉や翼が生えていく。

 光が消えると、小鳥の背中には小さな翼が出来上がっていた。

 左右の大きさは歪だし、完全ではない。それでも露出していた骨や肉がきれいさっぱりと塞がっていた。


 

 小鳥は震わせていた身体を起こし、空に飛びたとうとする。

 しかし上手くいかず俺の手から顔から落下した。

 降る雨はきつく、体力を奪われている身体にはあまりにも過酷な条件だ。しかも翼は左右大きさが違う。

 そう簡単に上手く出来るはずもない。

 再び小鳥の眼に影が差し、震えが強くなる。


 



「結局、未来を掴み取るのは自分でしか無いんだ。

 どんな困難にも、立ち向かっていかなければならない時がある」


 俺は呟いた。どこか自分自身に言い聞かせるように。

 小鳥は少し顔を上げた。


「仲間にも見捨てられたのかもしれない。自分が信じられないかもしれない。

 でも、未来だけは信じてみろ。遠い先の未来なんがじゃない」


 少し翼を広げはじめる。


「一秒先、一分先、ほんの少しの先の未来だけは信じてみろ。

 お前が羽ばたいているほんの先の未来だけを」


 ちょこちょこと走り翼をはためかせた。


「生きろ!」


 小鳥は舞い上がった。


 それは不格好で。危なっかしくて。弱弱しい姿だった。

 今にも落っこちて絶命してもおかしくない状態。

 それでも俺には、足掻き、藻掻き、傷ついた先にある、希望に溢れた姿に見えた。



 絶望という深穴から必死に飛び出した勇敢な小鳥は、俺の心を震わせた。



 ―――時を飛び越え、翔んでいけ。



 今は少し先の未来でいい。

 ほんの少し先の希望。

 それがあれば生きていける。



 ―――いつか、俺が倒れた時。

 お前の言葉を俺に届けてくれ。

 俺も。俺たちも。

 これからも生きていくのだから―――




End

あんまり需要ないのは分かっているんですが、こういう話書いてしまうんですよね(´;ω;`)


 感想など頂けたら嬉しいです。

 執筆の励みになります。

 また他にも色々ショートショートをアップしています。

 よろしければ読んでみてください。

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