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「あの、私が妊娠できないという事は覚えてますよね?私はユキヤ君から初めて女性の生き方を、仕事を選ぶことについて教えてもらって、中学の時に自分の将来についてたくさん調べました。その中で選んだのが看護師さんです。故郷は離島の漁師町ため、医療従事者がすごく少ないのが現状です。だったら私が看護師になって島に帰り働こう、と思っていました。けど…」
スバルが口ごもる。心境の変化でもあったのだろうか?
「もしかして、ご家族と何か、あったの?」
「…家族は私が赤ちゃんを産めないと話したら、島に戻って漁の手伝いをするようにと言ってきました。今は父が船に乗っていますが、いずれは弟たちが船乗りになります。嫁げない体なら、今後は弟たちを手伝って、養ってもらいなさいって。」
スバルの出身地は血縁を重んじる伝統が根強く残っている。そのため子供を産めない=結婚できないと考えられているようだ。親から見放されたユキヤには、その考え方がどうしても分からない。
「なんで漁師で働くしか選択肢がないんだろう?そもそもスバルちゃんは今、勉強できる環境にいて、婚約者までいるのに。あ、婚約者、オレね、オレ。」
スバルが思わずクスクスと笑った。
「両親にも婚約している人がいて、私は看護師の資格をとって働きたい。だから進学したいと言ったのですが、大反対で。学費を誰が出すのか、その婚約者も子供が産めないとしったら逃げていくに決まっている。中学卒業したら帰ってこいと言われまして…」
「待った!俺は知ってるけど別れる気はないし子供にも執着はない。そもそも、俺自身が自分の血縁者に会ったことないのに。」
「親子で揉めてしまいました。だから最初の公立学校ね、学費は両親は出してくれなくって。奨学金と、足りない分は魔導士育成費から出してもらって入学しました。」
魔導士育成費とはそのまま、魔導士を育てるために使われる費用だ。使うにはもちろんルールがある。
攻撃魔法師と中間魔法師が神殿で生活する場合に適用され、子供の生活費は神殿側が持つことになる。また、防衛魔法師であっても親からの暴力や育児放棄があった場合も同じくこの費用があてられる。イズミやアユミがその対象にあたる。マサトのように家庭の都合で預けられた場合、子供の生活費は親かその子が成人してから働いて返済することになる。
どの場合でも共通のルール、それは進学のために使う場合は将来返済しなければならない。
「それって将来返さなきゃダメなやつじゃん!え!?借りてたの??」
はい、と小さな声でスバルが答えた。
「はぁ!?なんで俺に言わなかったの?あ…俺って…金持ってなさそうに見られてた…?」
スバルが全力で否定する。持ってないはずがない、ユキヤは18歳から毎年2回の魔獣討伐に参加し、他にも神殿からの仕事依頼を地道にこなしているのだ。
「ユキヤ君がきちんと働いてお給金をもらっているのは知っています。違うんです。私、ユキヤ君が命を削りながら稼いだお金を、私のために使わせるなんて考えられなかったんです。」
正直、ユキヤに相談をと考えたこともあった。しかしこれは自分の問題。他人のお財布をあてにするのは気が引けた。
「だから、将来返済できる育成費制度を使わせてもらいました。結局、ユキヤ君に学費をお願いする形になっちゃったけど…」




