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いきなりだが旅行は明日出発となった。夏休み前半は赤点の生徒が補修を受けるため、スバルは8月に入ってからの日数が足りない生徒の補修組になっているらしい。
「西のショップを見て、それから牧場見学もしたい!8月になったら毎日通学になっちゃうので!」
17歳の夏休みの思い出作り。さあ、楽しんでいこう。
翌朝、スバルはユキヤにもらった浴衣を着つけた。マリに手伝ってもらったらしい。夏の雰囲気全開のスバルを見て、王都から西部の入り口となる町まで汽車に乗ってみることにした。王都から西の入り口までを汽車が走るようになって約5年。ユキヤもスバルもまだ乗ったことがない。初めて切符を買う。
「切符って高価なんですねぇ~!私の定期1か月分がぶっ飛んだ~!」
スバルが切符をみながら驚いている。いや、なんかちがうよなぁ。
「スバルちゃん、別にその厚紙の値段じゃないから。汽車は馬車とちがって燃料がかかるからね。君の定期券の稼働力は馬だから…とにかく乗ろうよ。」
出発の合図で動き出した。窓の中から景色を眺める。
「早い!乗合馬車の何倍も速いわ!!汽車ってすごい!もっと運賃がお安ければ…ねぇ。」
「旅行のお金をケチりません!楽しもうよ、面白いね。」
風をまとい空を飛ぶのも気持ちいいが、こうしてゆったりと街の景色を眺めながらスバルと話すのもとても新鮮で。意外と快適だ。
将来的には汽車の走る専用道路が王都を中心に東西南北に走るらしいが。まだまだ先の事だろう。
汽車に揺られながら、ユキヤはスバルに質問をしてみる。
「スバルちゃんは看護師になった後、どこか暮らしたい地域ってある?やっぱり南の離島に帰りたい?」
とても素朴な疑問。将来の結婚を前提としたお付き合いだ。夫婦となれば二人一緒に、どこかで暮らしていくことになる。スバルは王都で育ったから、そのまま王都周辺で暮らすのだと思っていた。しかし将来の最終目標は、医療が届きにくい田舎で働きたいという。具体的な希望地域とか、あるのだろうか?
「私は…まだ全然決まってないです。ただ、王都では暮らしたくないかなぁ。いろいろ便利ですけど、人が多すぎて、こう、落ち着かないって言うか…。だから将来は人の少ない田舎がいいなとは思います。」
高校に進んで、初めて自分が異質だとして拒絶を受けた。これからも拒絶されることがあるかもしれない。スバルの心にはそんな不安が漠然とあった。しかし、田舎で暮らすことへの不安もある。故郷での生活習慣だ。田舎にはやはり、独特な風習や考え方が残っている場所が多くある。
その中の一つが、夫婦=子供がいる生活。スバルにとって、この考え方が根付いた地域はとても過ごしにくいだろう、と予想がついてしまう。スバルはユキヤにすべてを話してみることにした。




