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あぁ、と答えかけてユキヤは口を閉じた。地龍が眠りについたから魔獣が産まれた。地龍が起きたら魔獣は消える。これは天龍とユキヤの秘密。地龍のせいで魔獣が現れた、と言われたら悲しいからと。
「聞いてません…今度また天龍に聞いてみましょうか?そうしたらわかるかもしれません。」
魔導士長の命令であっても精霊との、いや、番を守るための約束だ。これは絶対に破れない!
フウマは気づいていた。おそらくユキヤは知っている。天龍に口止めされたか?するとユキヤがフウマに質問してきた。
「魔導士長には運命の人はいますか?僕のスバルちゃんみたいな人。」
はて?突然の質問にフウマは首をかしげる。運命の人…
「残念ながら僕にはいない。妻と子供はいるが、僕の幼少期障害は目に関するものだったから。」
フウマは幼少期、弱視だった。動きに制限があったため、本が好きだった。読むときは眼鏡をかけて本を顔に近づけて読んでいた。普通の生活が送れるようになったのは12歳くらいから。運命の人とは会えなかったが、恋愛結婚をして今、幸せだ。
「そうだったんですか。魔導士長にお子さんがおられたなんて知りませんでした!」
意外そうな顔のユキヤ。フウマには2人の娘がいる。どちらも嫁いで孫も産まれた。平凡、と言われればそれまでか。それでも自分の今までの生き方を思う。
「それなりに、幸せな人生だよ。運命ではないかもしれないが…妻と、そうだな…出会えてよかった。本当にそう思う。」
笑いながら話した。ユキヤはフウマの話しを静かに聴いていた。
フウマはユキヤに昨日読んだワタリの書を教えた。
「子供?それが悲しみの原因だったのか。地龍は天龍と水龍にとても愛されていたみたいなんです。あ、愛されるって言っても恋愛ではなくて」
フウマが笑いながら答える。
「分かっている。自分たちが生み出した子供のような存在だったのだろう。」
はい、とユキヤは答えた。ワタリも風使い。やはり風を使う者と波長が合わせやすいようだ。ワタリは地龍が眠りについたことで魔獣が現れたとおそらく知っていただろう。原因には触れず、地龍の目覚めを願うよう書いたのだ。
「天龍も、地龍の目覚めを望んでいるのは僕も知っています。どうすればいいのか、僕、秋の討伐までに一度キャンプに行ってみようかな。」
天龍の空間とこちらの時間軸はかなりのズレがある。おそらく少し話し込めば軽く2日は眠ったままになると予想。2日も野宿は不安なので、テントを張って備えるのが無難だろう。
「その時には僕が付きそうよ。やはり自然の中だからね。無防備に眠ったままの人間を1人にはできない。」
ありがたい申し出だ。8月に結構しようと予定を立てて、ユキヤはこの日の勤務を終えた。




