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ミサキはとても穏やかで物静かな神官だ。親しい人間でもミサキが声を荒げた姿など見たこともなければ聞いたこともないだろう。そんな人物が怒りをあらわにした場所は城の会議室。人生何があるかわからない。
国王が慌てて説明を加える。
「待ってくれ、どうか私の話しを最後まで。私の言い方が悪かったね。申し訳ない。」
魔導士ご一行を見つめながら国王は風使い参加の意図を説明しはじめた。
「討伐参加といっても戦いではなく風を読み取る力を使わせてもらいたい。今回の討伐は誰も経験したことがない危険な仕事になるだろう、情報は多い方が良い。現在風使いは世界で二人。魔の森に近づけば、風からの情報も増えるのだろう?小さなことでもいい、聞き取れた情報をその都度教えてほしいのだ。」
魔の森から王都のあるこの地まではかなりの距離がある。魔導士長が討伐を1週間のばしたのも、現在送り込んだ三人が帰ってくるまでの時間を計算してのこと。日頃、そよ風からも情報を得ている風使いなら、森に近づくほど周辺情報をより詳しく知ることができるはずだ。
「もちろんユキヤ君が近づくのは十分な安全確保ができる所まで。騎士を護衛に付け、いざとなれば真っ先にこの国へと避難させる。どうか聞き入れてもらいたい。君たちが若き魔導士を大切に思うように、私も城の兵力である彼らが大切なのだよ。」
国王という人を、誤解していたのかもしれない。国のためなら多少の犠牲はやむなしと考えていると思っていた。しかし今、自分の目の前にいる国王は、危険な任務を背負った兵士達をただ純粋に心配している一人の人間だった。
魔導士長が意見を述べる
「魔導士の人選についてですが、現在魔導士は全部で47人。うち、まだ魔力を発動してない赤子2人を含めますと、成人前の者が12名。65歳以上の高齢により前線を退いた者が6名。よって、現役の魔導士は29名。全員を招集し、討伐と結界の修復作業に参加させる予定です。ユキヤについては、ミサキから参加の可否を聞いてもらい、本人の意思を尊重します。準備や話し合いの期間を考えて討伐開始日は13日後の9月17日にいたしたい。」
国王が答える
「わかった。ではこれにて臨時会議を終わる。魔導士方、ご苦労であった。道中気を付けて帰ってくれ。騎士団長、君はここに残れ。まず最初に騎士団員に動いてもらわねばならない。」
4人は感謝を伝え、城を後にした。
「魔導士長、僕はこのまま東の神殿に帰ります。」
「しかし、今から出ても東神殿に到着するのは夜中になるぞ?危険だ。せめてもう一晩、中央に泊まってはどうだ?」
魔導士長の気遣いを聞いてもミサキの気持ちはゆるがない。
「いえ、魔力をもつ神官が何日も不在というのはやはり…ユキヤも現在、精神的に不安定ですから心配なのです、僕は出発します。」
中央の職員が途中でどうぞと軽くつまめるパンを持たせてくれた。ミサキは馬にまたがり帰路についた。