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竜の子  作者: 前田ミク
88/236

88・マサトの物語2

2年の月日が流れ、2人が3年生になった時、突然マサトの両親が自宅で一緒に暮らしたいと申し出てきた。小学校にいた兄弟はみんな卒業したので、地元の小学校に転校させるという。この頃になるとマサトは言葉での指示がほとんど理解できるようになっていたため、みんなと同じ普通学級に入ることになった。

アユミとの別れの日が来た。アユミが筆談で挨拶してくれた。

マサト君、今まで楽しかったよ。算数がんばるね。マサト君も元気でね。ありがとう。

その紙をマサトはアユミからもらい、お守りにした。自分を理解してくれた大事な友達。大好きな女の子。できればずっとずっと一緒に暮らしたかった。大好きなアユミちゃん。そのままマサトは自宅に帰り、家族との生活に戻った。しかし幼少期に離された2年の歳月は家族とマサトに大きな溝を作っていた。兄弟ともうまくいかず、両親もマサトにどう接していいのか迷っているようだった。ギクシャクとした家庭ではケンカが起こりやすい。兄弟喧嘩から夫婦喧嘩へと発展。結局長男、長女は高校卒業後、家をでていってしまう。他の二人も進学を理由に家を離れたり、親戚の家に身を寄せてしまった

中学生になると月に一度、神殿から神官が派遣され、マサトに回復魔法の使い方を教えてくれる日があった。回復師は危険性が全くないため、自宅からの魔法練習が許されている。マサトの家と神殿はかなり距離があったため、マサトの学業に支障がでないよう、神殿側からの配慮だった。

「あの、神官さん、あの~…」

「どうした?わからないことがあるのかな?」

何でもない、と断る。マサトはアユミが元気なのか気になっていた。話しはできるようになったか?苦手だった数学は平気?そして、親父の元に返されたりしてないだろうか?幸せでいてほしい。楽しく笑っていてほしい。もし悲しい思いをしているなら、守ってあげたい。結局神官にアユミのことを訪ねることはなかった。子供でも大人でもない、この年齢のせいだったかもしれない。照れくさくて、恥ずかしくて。聞けなかった。

マサトは社会福祉に興味があり専門学校に進む。卒業後、病院で防衛魔法の魔導士実習を1年ほど受けてすぐ、中央神殿から南神殿に行ってほしいと依頼が来た。南地域は漁師が多く、荒波を受けて怪我をする人が多い地域。離島もあり、医療がなかなか行き届いていない場所だ。マサトはこの依頼を受け、南の神官として働き始める。

若い回復師が来たと地元では喜ばれ、お見合いの話しが次々に来た。何人かの女性とお付き合いもした。だがマサトはどうしても家庭を持つ未来が想像できない。それと、アユミが今、幸せなのかが気になっていた。今もまだ暴力の中にいるのなら、今度こそ自分が助け出したいと思う。恋愛より家族を思う気持ちに近いかな。


のちに大型魔獣騒ぎでマサトはアユミと再会をはたす。昔の面影を残した外見とはうらはらに、おしゃべりで明るい女性へと成長していた。南神殿で同僚として働きながらマサトはアユミを見守る。昔の姿が信じられないほどいきいきとしていた。アユミは運命の相手と出会い、結婚、出産を経験、今も魔導士仲間として良い関係を築いている。あまり写真を撮らないマサト。薄いアルバムに貼られた手紙。あの別れの日にアユミにもらった、マサトの大切な思い出の1ページ。

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