87・マサトの物語
マサトは1つ紋の回復師だ。実家は子沢山で5人兄弟の末っ子。母親は専業主婦、父親は学校の先生だ。夫婦仲も良く、教育熱心な家庭だったと思う。
マサトは防衛魔法だったので神殿ではなく家庭で育てられた。幼少期障害もあった。マサトは、聞いただけの指示が理解できない。例えば、こっちに来て座って、という指示がでたとする。理解できないのだ。こっちってどの辺?座る…どんな座り方?他の人がその指示に従い座るのをみて理解する。そんな感じで、いつもワンテンポ遅れて行動する子供だった。
知的にハンデがあるわけではない。実際に絵本も読めるし、年齢相当の計算ドリルも解けた。親はマサトの育て方に悩んだ。
義務教育が始まると、指示が通らないことが顕著になる。集団についていけないのだ。そのため、1年生の途中から支援型クラスに入る。マサトにとって、そこはとても暮らしやすかった。カバンを置く場所や集まる場所など、全てにマークが付けてある。早く、と言われることもない。快適だ。
不満を口にしたのは兄弟だった。マサトの行動がおかしいから自分たちも周りから変な目で見られる、と両親に訴えたのだ。困り果てた両親は神殿に相談。神殿の中にある学校に通うことになった。神殿の生活は寮生活と同じ。大家族からいきなり一人部屋での生活。さみしい。それでも週末には家族が迎えに来てくれる。自宅に帰れることが最初は嬉しかったが、日がたつにつれ、家に帰っても自分の居場所が無いように感じ始めた。
そんな時だったか。自分と同じか少し下くらいの女の子が神殿で暮らすことになった。痩せていて、顔色が悪い。近づくと女の子の手や足、顔にもあざがある。
「怪我してるの?大丈夫?痛いでしょ、僕でも治せるかなぁ?」
あまり使ったことがないけど、自分は回復師。女の子の頬に手を当てる。すると、腫れがひいてあざが薄くなった。女の子が頬をさわり、驚いている。
「僕ね、マサト。ここで暮らしてるんだ。ねぇ、お名前は?」
もじもじしながら女の子が口をパクパクさせる。やがて小さな声が聞こえた。
「あ、ああ、…あ、ゆみ」
聞き取りにくいが、確かにあゆみと答えた。
「あゆみちゃん?アユミちゃんって言うの?腕に鱗がある、君も竜の子なんだね。僕もなんだ。よろしくね!」
マサトにできた初めてのお友達だった。アユミは喋れないが字を書くのが上手だった。聞くだけでは理解しにくいマサトと、喋れないけど書くことが得意なアユミはすぐに仲良くなり筆談を交えて会話を始めた。
わたしがバカで、しゃべれないからおとうさんがたたく。こわくてないていたら、しんでんにつれてこられた。
「違うんだよ、アユミちゃんがバカなんじゃなくてお父さんが知らないだけだよ。アユミちゃんは大人になったら普通に喋れるようになるんだよ!」
そうなの?しらなかった。しゃべれるようになったら、おとうさんはたたかなくなるかな?
「どうだろうか。でもさ、叩いたりするお父さんって、アユミちゃんはすきなの?」
きらい。おかあさんもたすけてくれないの。だからきらい。
「僕といっしょにこの神殿で暮らしていこうよ!神官の人みんな優しいよ!ご飯もおいしいし!僕もいるし寂しくないでしょ。」
二人は同い年で仲良く神殿での生活に慣れていった。算数が苦手なアユミにマサトは一生懸命教えて、本当の兄妹みたいな二人だった。




