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王都の商店街の一角に喫茶店がある。マカロンという甘そうな店名だが、この喫茶店の売りはコーヒー。マスターが大のコーヒー好きで、自分オリジナルのブレンドコーヒーを出している。コーヒーなんて、子供の頃は苦いだけの飲み物だと思っていたけど。この店のコーヒーを初めて飲んだ時、美味しいと感じた。それからは半常連だ。
「若い魔導士さん、これサービスな。」
そう言ってクッキーを付けてくれた。このマスターとは波長が合うので話しやすい。
「ありがとうございます。ここのコーヒーの香りは、やっぱり気持ちが落ち着くな。」
そんな話をしていると外を通る高校生の声が聞こえてきた。
「お、帰宅ラッシュみたいだなぁ。今日もあのお嬢さんと待ち合わせかい?」
ユキヤがクスリと笑うと、若いなぁと言いながらマスターは調理場へと帰った。カランと扉が開く音がした。入り口に視線をやる。
「ユキヤ君、お待たせ!マスター、私オレンジジュースね。」
17歳目前のスバルだが、まだコーヒーは早いようだ。
「お帰り、学校はそろそろテストの時期ですか?」
スバルがうげっという表情をみせた。たいへん分かりやすい反応だ。
魔の森遭難騒ぎから5年。ユキヤは23歳となり一人暮らしを始めた。東神殿は新しい竜の子を引き取り育てている。一つ紋の雷使いで5歳の女の子。ミサキの次女と年が近いこともあり姉妹のようだ。
ユキヤはこの5年間、天龍のアドバイス通り体力をつける努力をしてきた。魔獣討伐も毎回欠かさず参加。もともと、スポーツは嫌いじゃない。ジョギングにジム通いを続け、身長が7センチほど伸び筋力もついて、今では騎士に近い体型だ。
対しスバルはあの後あまり身長が伸びることもなく、女子学生としてはやや背は低めでほっそりとしている。ユキヤはスバルの健康状態が心配のタネだ。相変わらず髪型はショートカットで、時々少年に間違えられることもある。スバルは将来的に資格を取りたいからと高校進学の道を選んだ。
「スバルちゃん、お昼ご飯はしっかり食べた?いつになったらふっくらしてくるんだろう?」
「んな!ちゃんと食べたもん!それに!!……胸とか、少しずつ…」
小声でぼそぼそ喋りながらオレンジジュースを飲む。スッパイ!ユキヤはさりげなくサービスでもらったクッキーをスバルに差し出す。
お金を支払い店をでた。ユキヤの家に行きたいとのリクエストを受け、風をまとい空の散歩を楽しむことにした。
「やだやだ~くすぐったいぃ、もうダメだってば、きゃははは!」
ユキヤは断じてスバルに大人なことはしていない。スバルがたわむれているその相手とは
「あられちゃん、この前より少し大きくなったね!カワイイ。こんなかわいい猫を誰が捨てたんだろう!」
ユキヤが拾って育てている猫。まだ子供で甘えたい盛りです。白黒のブチ模様なので、あられちゃんと命名。
「さぁね。個人的には、命には最後まで責任をもってほしいけど。いろんな人間がいるからさ。」




