48
半信半疑のユキヤに魔導士長は続けて話す。
「フゥ、君が騎士を殺したなど…とんでもない思い違いだ。心配なら風に巻かれた生き残りたちを紹介してやる。あの時結界の中にいたのはみんな、日頃から常に体をきたえ有事に備えている精鋭たちだった。魔導士とはいえわずか7歳の子供に殺されるほど弱くはない。」
そう言ってユキヤに笑いかける。
「僕の記憶違い…?じゃあ、僕は…誰も殺してない?本当に?」
良かったと涙を流すユキヤをみて、魔導士長はこれでいいと思った。厳密には、ユキヤの起こした竜巻が死因となった者もいた。しかしそれは、クロワシにつかまり空高くにさらわれた騎士たちだった。クロワシと共にユキヤの竜巻にのまれ、地面に叩きつけられて絶命した。当時調査に当たった検死員は落下による衝撃で死亡だと言ったが、あの状況をしる騎士や魔導士はみんな、だれも彼らを助けられなかったと知っていた。そのため、死因を魔獣に襲われたためと記載したのだ。生きながら腹を貪り食われるか、落下による衝撃で一瞬で死ぬか。死に方が違っただけ。誰かを助けるだけの余裕は、あの日、誰にもなかったのだ。
騎士学生のテントについた。食事をとって風呂に入り、自由時間となった。みんな疲れからか早々とテントに向かう。ユキヤは昨日と同じ場所で風に当たっていた。そこに騎士学校の教員がやってきた。
「お疲れ様です、魔導士様。君があの日の英雄、風使いのユキヤ君か。お久しぶりです。魔導士長に頼まれてきました。11年前に君に助けられた者ですよ。」
見覚えのない顔だ。年齢は50代半ばか後半にみえるが。
「えっと…当時、騎士として戦った方、でしょうか?」
「ええ、そうです。君は覚えてないでしょうがね。俺はよく覚えてますよ。随分と大きくなられた。オレはねぇ、片足がこうなんですよ。」
ユキヤのとなりに座り、その教員は右足首を取り外して見せた。
「えぇっ!あ、それって義足なんですか?え、でもどうして…」
「11年前に。ドラゴンのアイスブレスで凍傷をおこしてね。オレはドラゴン退治で結界に入った12人の騎士のうちの1人です。端っこにいたもので、いきなり片足を氷漬けにされて動けなくなってしまって、活躍できなかったけどね。君がいなかったら、あの時俺は死んでたよ。いや、でもたぶん俺だけじゃないなぁ。言い直すよ。君がいなかったら、あの時全員が死んでいた。」
どこから知っているかわからないが、と教員が教えてくれた。ユキヤが到着した時、すでにサクラの父は死亡。魔導士長は攻撃手を守り身動きできず。司令塔を失い、体力だけを削り取られる騎士と魔導士達。もたつくうちに小型の魔獣にも嗅ぎつけられた。魔力を持たない騎士たちは次々に襲われ、身動きもできない。自分も魔獣に囲まれ、人生終わったと思った。せめて、楽に死にたいと願った。
「突然だよ?竜巻が起きてさ。周りの魔獣ごと俺も一緒に風に巻かれて。その時に走馬灯が見えたんだよ!その後いきなり風が止まってさぁ、地面にベタって。カエルの気持ちがよく分かったさ。魔法服着ていたから特に大きなケガはなくて。気持ち悪くて吐きまくったよ。オレ以外の連中もみんな吐いてたね。風で酔ってさ、死ぬほど吐いたけど、生き残ったわけ。で、今こうして働いてるんだ。」
ガハハと笑い義足をつけた。教員はユキヤに礼を言い、生徒の元へと帰っていった。




