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夜もふけた。明日の討伐に向けユキヤは眠りについた。期待はあった。そして、いや、やはりと言うべきか。彼が現れた。11年前にみたそのままの姿。自分よりはるかに大きな姿だが怖いとは全く思わない。
「久しぶりだね。驚きだな、人間はすぐに成長する。オレは天龍、風の精霊。」
ユキヤも、天龍に話しかけてみる。
「やっぱり11年前、僕に話しかけたのはあなただったんですね。あの、今までどうして僕には会ってくれなかったんですか?スバルちゃんには会いに行っていたんでしょ?」
ああ、それか。と、天龍が答える。
「おまえ自身が、オレに会いに来るだろうと思っていたからだ。オレはこの場所を離れたくないんだ。スバルの元には行くしかなかった。あの子が暴走を起こさないように助ける必要があった。魔力の抑え方。」
風の精霊なのに、引きこもり?何となく、いろいろ事情がありそうだ。
「僕、朝になったら魔獣討伐なんだ。前に僕に言ったでしょ?妻を止めてって。もしかして奥さんが結界の中にいるの?探したほうがいい?」
気になっていたことを聞いてみる。番が魔獣にとらわれているのなら助けたい。天龍は静かに答えた。
「妻、地龍は確かにあの結界の中にいる。魔の森は地龍の悲しみが作り出した。そして魔獣が生まれ…どう…した…のか…」
気が付くと朝だった。体は軽く調子が良い。天龍に出会えたからだろうか?すごく大事なことを聞いたけど、今のユキヤにはチンプンカンプンな内容。気分は何となくスッキリしないが、朝食後に出発となった。
大結界の前に立つ。ユキヤの消えた記憶。攻撃魔法師し続いて入る。木々はなく、背丈の低い草が生えている。不自然に折れた木が何本もあり、それでも生きようと枝を伸ばして、奇妙な形になっていた。風が騒ぐ。大きな群れか、ウルフ?
「大きな群れです。こちらを狙っている。気を付けて!」
ユキヤの警戒で、広範囲の攻撃が得意な火炎使いがかまえる。奥の木々が揺れ、姿が見えた瞬間、火炎魔法師がいっせいに火の輪を放つ。何匹かが交わした。すかさず雷使いが撃ち落とす。20匹はいたであろう大きな群れは、驚くほどにあっけなく倒せた。
「さぁ、奥に進もう。小さいうちにできるだけ狩りとっておかないとな。」
魔導士長の指示に従い、討伐隊は奥地へと足を踏み入れる。
11年前に倒した大型ドラゴンの死体は、調査のために一部が持ち帰られた。王立研究所の調査でわかったその正体は、魔獣を食べて育ちきったクロワシだった。一体何が、どんな変化を起こしたのかはわからない。魔獣はすべての個体が魔力を持って生まれるらしい。小型魔獣の持つ魔力は非常に弱く、攻撃は物理的なものだけ。小型魔獣を食い続けると体内に魔力が蓄積し、防御や攻撃力が上がる。この段階が中型ではないか、と考えられる。さらに生き残り、魔獣を食い続けた結果が大型の魔獣になるのではないか、との研究結果だった。
森を進むと木が茂り、見通しが悪くなる。足元も湿った落ち葉が積み重なり歩きにくい。草刈りや木の伐採などの手入れはできないため、自然のまま。まるで山道を歩いているような感覚だ。ぶわりと強く風が知らせる。この先にブレイクベアがいる、引き返せ。別の風が知らせる。来た道危険、上空を囲まれた。




