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3日目の朝、ユキヤは西神殿に向けて出発した。北神殿から西神殿までは結構距離があるらしい。村や町の様子をみながら進み、夕方の6時頃、西の神殿に到着。西神殿の神官はイズミという2つ紋の結界師だ。
「西の地域へようこそ。この神殿の神官、イズミです。ミサキ君は元気にしてる?結婚したって本当?」
イズミは子供の頃、ミサキと一緒に魔導士の勉強をしていたらしい。
「年はミサキ君の方が1個上なんだ。いつも学校の勉強とか教えてもらってたなぁ。僕、頭が結構ふわりの人だったから、学校の授業だけじゃ追いつかなくてさぁ!結婚かぁ。さすがだなぁ、ミサキ君。どんな時でも冷静に対処する頼れるお兄ちゃんだった!」
意外なミサキの過去を知ったユキヤ。確かに今でもミサキは落ち着きがあるし、テキパキ仕事をしている。
「イズミさんは竜紋が2枚の結界師なんでしょ?シュリさんも2枚の結界師だって言ってた。シュリさんとも仲良しなんですか?」
ユキヤの質問にイズミが答える。
「シュリ神官!あの人は優しくみえるけどけっこうお仕事は厳しい人だった!僕、シュリさんから神官の仕事をならったんだよね。僕は物覚えがあまり良くないから…結構叱られたりして。けど今はもちろん仲良しだよ。優しい先輩だよね。」
穏やかそうな人だったけど…怒ることとかあるんだなー、あまり想像ができない。
西の地域は穏やかな海に面しており、氾濫を起こすような川もなく、比較的災害の無い平和な土地柄だという。神殿があるこの土地周辺は養鶏や牛、豚の牧畜業が盛んらしい。
「月に1度は牛が逃げ出すんだよ!この前は鶏舎の壁が壊れてニワトリが逃げ出したし!まぁ結界はってるから大きな事故とかないけどね~」
そう言って大笑いするイズミ。31歳の独身青年。
「ユキヤ君は動物好き?よかったら明日、見学に行こうよ!この前、豚の赤ちゃんが産まれた家があるんだ。可愛いよ」
翌日、イズミに連れられ子豚たちを見学した。小さい、カワイイ!!こんな小さいのに大人になったらこうなるのか…すごいなぁ。
「可愛いだろ?赤ちゃんにお乳飲ませて一生懸命育てているんだ。人間より情が厚いのかもしれないね」
ふとイズミの言葉が気になった。
「あの…イズミさんの故郷って、このへんなんですか?」
イズミはユキヤを見つめながら答えてくれた。
「わからないんだ。ぼくね、中央神殿の庭に捨てられてたのを職員さんが見つけてくれたの。だから中央神殿が出身地かな。なかなか珍しい出身地でしょ」
悪いことを聞いたような、申し訳なさでいっぱいになる。
「あ?誤解しないでよ!神殿で僕は何不自由なく仲間たちと楽しく育ったんだ。幸せ者だよ」
イズミの表情が楽しい子供時代を送れたと物語っている。
「あの、僕も親の顔とかもうあまり覚えてないんだけど、僕も今、すごく幸せです」
ユキヤの言葉に、よかった、とイズミが微笑みながらつぶやいた。
手渡されたサンドイッチをもって、ユキヤは最後の中央神殿に向かう。南神殿は復興中のため今回の見学からは外されている。中央にはスバルがいるはずだ。一目だけでも会ってみたい。
しかし、この時は出会うことはできず、ユキヤがスバルと初めてであえるのは、この8年後となる。




