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神殿を離れる間の引継ぎや、最低限必要な着替えの準備、シズルと連絡をとり、直接話し合ったり…そんなことをしていたらビックリする程の速さで毎日が過ぎていった。
ミサキはユキヤを連れて魔導士・防衛騎士団連合部隊の馬車に乗っている。討伐出発の日だ。今日の目標は日が暮れる前にエルフ族やジプシーが生活しているテント村に着くことだ。9月も半ばに入り日暮れが早くなってきた。馬車は結構な速さで進む。
「結構飛ばすわねぇ、この馬車の振動、地味に年寄りには腰に来るんだけど。」
ボヤキを飛ばすのは魔導士シズル。東神殿の前神官で、ミサキに神官の仕事を教えてくれた恩人だ。回復・結界師で結界のほうが若干得意らしい。ユキヤは朝が早かったためかミサキの膝枕でスヤスヤ。よだれまで垂らして爆睡だ。そんなユキヤの姿を、優しい面持ちでシズルは見つめている。
「シズルさんが来て下さって本当に心強いです。正直緊張で。ユキヤも一緒だし、僕、不安で泣きたい気持ちですもん。」
豪快に笑った後にシズルが言う。
「まぁね、でも私だって討伐参加は1回しか行ったことないし。役に立つのかどうなのか。まぁせいぜい邪魔にならないように気を付けるよ」
現役時代に1度、参加予定の結界師が直前になって体調を崩し、臨時参加したらしい。そんなシズルもミサキと同様に緊張があるのだろう。何度も資料に目を通し、口数少なめだ。王国の国境線を超えると道はさらに悪くなり、揺れがひどくなる。時々、全員の体調確認とトイレ休憩のために隊列が止まる。目を覚ましたユキヤが馬車ではなく、馬に乗りたいと希望したため、ミサキとシズルの馬車には荷物が乗せられ、微妙に狭くなった。昼食のため途中で休憩。そしてまた隊列が進む。
「今回は普通の討伐と違って人数が多いもんね。早く走っているように感じるけど、結構時間がかかるみたい。」
シズルがミサキに話しかけた。本来なら初日にもっと大結界に近い所まで進むらしい。
日が傾きかけるころ、目的のテント村に無事、到着した。一時的な避難所とは思えない程設備が整い、風呂の準備や食事用の火おこしを騎士学校の生徒がこなしている。北は危険だと聞くと、ジプシーは南へ移動していったらしい。実質的にここはエルフ族の避難所だ。
魔導士は全員、自分の荷物だけを持ち、宿泊用テントに入るよう指示があった。テントに向かう途中、イオリとサオリがエルフと談笑している姿が見えた。小柄な女性が姉妹と話し、隣の細身の男性が愛おしそうに2人を見つめている。両親だろう。気難しいと言われるエルフ族だが、我が子に向ける愛情はとても深そうだ。ついユキヤの両親と比べてしまう。
今夜はとにかくゆっくり休もう。明日はいよいよ、決戦なのだから。
朝日が昇る。テントの中で思いのほかよく眠れた。疲れていたからか、それとも、ユキヤが隣にいたからだろうか。魔法服(らくだ服)を着て白いローブを羽織る。ユキヤは魔法服(らくだ服)の上にチュニックを着させた。集合場所に行くとすでに馬車には荷物が積まれていた。行ける所まで馬車で行き、魔導士と結界に入る騎士12名の体力を温存させるらしい。時間通りに出発となった。ユキヤは今日も馬に乗っている。




