11
二人でやや遅めの朝食を食べて、ミサキはユキヤと神殿の中庭で昨日の話しをした。話さなくてはいけないことがたくさんある。魔の森に大型の魔獣が現れたこと、自分も結界師として何かの形で討伐に参加すること、そして…
「風とお話ができるユキヤにも参加してほしいって言う人がいてね。もちろん魔の森に入るのは絶対なし!安全な所から風の便りをきいて、風がなんて言っているかを教えてほしいんだって。嫌なら断ればいいよ!一応どうするかを教えてくれる?」
行きたくないと言ってくれ!ミサキは心で願いまくる。
「ミサキさんは一つしか竜紋がないから行かなくていいって言ってたじゃん!それなのに…森は危ないんだよって風が、何度も教えてくれてるのに。」
ユキヤが不貞腐れた顔で下をむく。そう、危険だ。絶対にユキヤを巻き込みたくない。ミサキは願う!
「ミサキさんが行くなら僕も行く!それで、ミサキさんを守ってあげるから!僕は風で攻撃とかもできるから、危なくなったら僕が風でシュパってして戦うよ!」
ミサキ、無念。親の心子知らずだ。何とか行かないと言わせたい!「あのね」とミサキが話そうとした時
「風がくる!」
ユキヤが叫んだ。何事かとミサキは思わず周りを見回す。すると、空から聞いたことのあるあの声。
「こんにちは~、やっと到着しましたぁ。思ったより遠かったです~」
スイ~っと地上に降りてきて、ユキヤの前でしゃがみこんだ。
「君が風使いのユキヤ君ね!?初めまして、風使いのサクラと申します。」
「お姉さんも風使いなの?すごいや!ねぇ!どうやったら空をとべるの?僕にもできるのかな!?」
イヤ~~!!話の邪魔しないでくれ~!ミサキの心の叫びは、サクラにもユキヤにも届かなかった。
ユキヤとサクラは出会ってすぐに打ち解けた。風の使い手同士、近いものがあるのだろう。ユキヤは穏やかな優しい少年だ。自分に敵意を持たない人には行儀よく接しているし、年の近い子供と交流させても仲良く遊ぶ。だが、ユキヤが本当に心を開いて打ち解けられる人はミサキを含め数人だけ。
竜の子はどの子も独自の感性や敏感な感覚、もしくは身体的にハンデをもって産まれてくる。そのため非常に接し方が難しい子供が多い。特定の人しか受け付けない、普通の人には何でもないことに苦痛に感じる、目や耳が極度に悪いなど症状は様々で、だいたいどの症状も成長とともに緩和され、大人になる頃には消失することが多い。実際ミサキも子供の頃はすごく偏食だった。口に入れた瞬間に吐き気をもよおす食べ物がいくつかあったが、今は平気で食べられる。
大人になると消失する症状のため、魔力を持って産まれたことと関係があるのではないかと言われているがはっきりとした答えは出されていない。
ユキヤは年齢的にも症状が強くでていて、時々どうにも受け付けられない人がいる。その人に何か嫌な思い出があるわけでもなく、自分でもわからないが、なぜか拒絶してしまうのだ。
「ユキヤ、サクラさんとは仲良くなれたみたいだね」
「うん、サクラちゃん大好き。優しいにおいがする。」
昼食の後、ユキヤは一般学習が入っていた。算数や国語の授業は退屈で嫌いらしいが、生きていくために必要な勉強だ。サクラとはまた今度遊ぶ約束をして、神殿に入っていった。
「気持ちわかる~、私も算数が苦手だったんだよね」
苦笑いを浮かべるサクラにミサキは今日の訪問理由を聞いてみた。
「サクラさん、今日の訪問は昨日の会議のことですか?僕が帰った後、何か進展があったんですか?」
「へ?別に何にもないよ。魔導士長からの連絡もまだないし。」
「…え~と、ではなぜ東神殿に来られたんですか?中央神殿からけっこう距離がありますよね?」
「うん、けっこう遠かったね。空飛んで一直線に向かったけど1時間近くかかったわ。私ね、あなたに会いに来たの。ミサキさんからパートナーの香りがする。独身なんですよね?」
サクラの発言にミサキは仰天する。
「パートナー?えっとそれはその、男女交際のパートナー?あ、ちがう?仕事のパートナーですか?」
大混乱のミサキにサクラが答える。
「独身かって聞いてるじゃん。生涯のパートナーだよ!この感覚、間違いないわ。ミサキさんはわからないの?どうしてだろう…水魔法のリンさんも、結婚相手は特別な香りがしてすぐわかったって言ってたわ。ミサキさん、本当に何も感じないの?」
ミサキには香りも感覚も全くわからなかった。




