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馬にまたがり出発したミサキが東神殿に到着したのは、日付が変わる少し前だった。体力には自信があるミサキでも、さすがに強い疲労感を感じた。すぐにでも横になって休みたいところだが、ミサキは真っ先にユキヤの部屋へ向かった。そっと扉を開けると、女性の職員に付き添われユキヤはぐっすり眠っていた。
「おかえりなさいませ神官様、ユキヤ君、少し前まで待っていらしたんですよ」
「そうだったのか、残念、間に合わなかったね」
ユキヤを起こさないよう小さな声で話した後、職員を退室させた。
やはりユキヤは自分の帰りを待っていたか。直接話してはいない、だがユキヤは気づいている。両親が、自分を見放したということを。
竜の子は5歳くらいになるまで時々、魔力暴走をおこす。力のコントロールを覚えるまでは仕方のないことだ。神殿の職員は見慣れているので落ち着くのを待ってから被害を確認して部屋を片付ける。
ユキヤの両親も、神殿に預けた後しばらくは足繫く神殿に通い、ユキヤに会いに来ていた。確かな愛情がそこにはあった。しかし、ユキヤの魔力暴走を目の当たりにしてからはぱたりと来なくなった。何度か連絡をとってはみたが、両親は「あの子が怖い」と言ってユキヤに会うことを拒んだ。当時まだ幼かったユキヤは母恋しさに毎晩泣いていた。
「かあしゃんかあしゃーん!かあしゃんがいい!!」
泣き疲れて眠るまで、ミサキを筆頭に神殿職員は根気よくユキヤをあやした。魔法のお勉強が全部終わったらお家に帰れるからね。そう言い聞かして育ててきた。ユキヤは素直で、とても物覚えが早い子だった。5歳になるころには力のコントロールをほぼ完ぺきに覚えて、暴走を起こすこともなくなった。ミサキはユキヤの近況を両親に伝え、ぜひ会いに来てほしいと頼んだが、返事は冷たいものだった。
「私、今、妊娠しているんです。だから、万が一があったら困るの。あの子には会えません。」
その頃になると、ユキヤは両親のことをあまり話さなくなった。親を恋しがることもなくなり、ミサキたち神官や職員と楽しく毎日を過ごしている。両親と対面することもなく、そのまま今に至っているが…
「絶対に、ユキヤが成人するその日まで、僕は君のそばで見守るよ。一人ぼっちになんてさせない。」
自分にとって初めての魔獣討伐を前に、ミサキはユキヤを守り、自分も絶対に生き残ると決意した。
眩しいな、それに風?ミサキが目を開けるとニコニコのユキヤの笑顔。
「ユキヤ?なんで僕の部屋に…?あれ?ここユキヤの部屋?」
そうです、ユキヤの部屋です。ミサキが起きるのを静かに待ちながら、ユキヤは窓から入るそよ風とお話ししていた。汚れたマントを羽織ったまま、ひと様のベットに突っ伏したうえ、枕をぶんどり、いびきまでかいて寝ていたミサキ。
「ユキヤ…ごめん。なんかすごく、申し訳ない」
「ううん、いーよ!ミサキさん、おかえりなさい!あ?おはよう??どっち?」




