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ポメラニアン

「ポメラニアン……?」

「んー! んー!」


 俺は現れたその意外な姿に、思わず呆けてしまう。


 ──スキルによると、敵意は今のところ感じられない?


 ちょこんと大人しく座ったままのポメラニアン。少し首を傾げるようにしてこちらをその場から見てくる姿は、本当にただの子犬のようだ。


 'わ、わんちゃん!'

 '白ポメか?'

 'かわいいーもふもふしてる'

 '今来たんんだが、どうなってるんだ。誰か説明プリーズ'

 '冴えない探索者木村が、我らが姫君茜タソをお姫様抱っこして深層へRTA。木村が捕まっていたお休みトラップに到着。白ポメ出現'

 'なるほどわからん。取りあえず説明サンクス'

 '確かに訳わからんな。ありのままでよくまとまっている説明だが'

 '説明者は良くやっている。木村がおかしいのが悪い'

 'というか茜タソから今すぐはなれろーっ'

 'そうだそうだー'

 '羨ましすぎるぞー'


「あ、すいませんっ」


 俺はばっと手を離す。茜さんの吐息がこぼれる。


「っぁ、──はぁっ、はぁっ……ぅん」


 茜さんの息が荒い。俺はあわあわと何て謝るか考えながら少しパニックになる。


「わんっ」


 気がつけば、俺たちのすぐ足元にポメラニアンの子犬が来ていた。


 ──え、いつの間にっ! 全く気配を感じなかった。やはりただの子犬じゃないのか?


「っ! ……かわいいですね、その子」

「わんっ」


 息を整えた茜さんも、ポメラニアンの子犬の可愛らしさにやられたように頬を緩め、いとおしそうにその姿を見ている。やはり相変わらず敵意は感じられない。


 すると、その場でくるくると回りだすポメラニアン。

 次の瞬間、とことこと歩きだす。歩いてはこちらを振り向き止まり、また歩いてはこちらを振り向き止まるを繰り返している。


「くぅーん」


 まるで、ついてきてと言わんばかりだ。


 俺は思わず茜さんの方を見る。

 ちょうどこちらを向いた茜さんと目が合うも、すぐにふっと顔をそらされてしまう。


 ──え、もしかして怒ってたりします、茜さん? た、確かにちょっとさっきのは強引だったよね。思わず口まで塞いじゃったし。ど、どうしよ……


 動揺する俺。そんな俺に、顔をそらしたまま、茜さんが呟く。


「あの、あの子、追いかけて欲しそうですけどどうします? 八郎さんなら対処できそうですか?」


 言外に込められた意味を察する。茜さんは、罠や実は敵である可能性を言及しているのだ。

 その上で俺は茜さんにこたえる。


「もちろん、何があっても俺はちゃんと茜さんを守り通してみせます。任せて」


 俺の返事に顔をそらしたまま、さらにうつむくように下を向く茜さん。


「……はぃ」


 俺はそれをポメラニアンを追いかける事への同意だと受けとると、そっと茜さんの手をとり、二人して先行するポメラニアンのあとを追い始めた。

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