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スカウト

 翌日、再び百々さんのいる事務所を訪れた俺と茜さん。

 昨日Wi-Fiスキルをカンストさせたが、さっそくダンジョン配信、とはならなかった。


 何でも打ち合わせることやら、百々さんからの提案など、色々とあるらしい。

 端的にいえば、スカウトだと、茜さんから聞いていた。


 ソファーに座った俺の前にはお茶。

 隣の茜さんからは、疲れた感が漂ってくる。


 俺たちの正面に座った百々さん。相変わらずのキリッとした佇まい。しかし先日会ったときよりは少し雰囲気が柔らかく感じられる。

 そしてなんだかとても張り切っているようだ。


 てきぱきと、なにやら資料のような物を机に広げているところだった。


「木村さん、さっそく配信スキルをWi-Fiスキルまで習得されたとうかがいました」

「はい。配信スキルって、なかなか楽しいですね。これまでカンストさせてきたどのスキルとも違った感覚でした」

「ふふ。配信スキルの習得が楽しいって方、初めてです」


 そういって笑顔をみせる百々さん。その顔は年相応の可愛らしいものだった。そのせいか、思わず聞かれていないことまで話してしまう。


「Wi-Fiスキルまでカンストさせたので、このまま次の配信スキルに取りかかるのが楽しみで──」

「まあ、カンストまで! それは素晴らしいですね。木村さんほどの実力の持ち主であれば、ダンジョンの相当深くで配信をする機会もあるでしょうし、そのカンストはとても有用だと、私は思います」


 百々さんから、カンストさせた事を褒められてしまう。

 俺は思わず茜さんの方を向いて、そっとその顔色をうかがってしまう。昨日、カンストさせることに夢中になりすぎて帰るのが遅くなったばかりだったので。


「……モモちゃん、八郎さんに甘くない?」


 茜さんは、どこかすねた様子だ。


「正当な評価だと思いますが。さて木村さん。先日は秋司さんのせいで急遽来ていただいたために十分な用意がございませんで、こちらがダンジョン配信者のマネジメントを主業務としている弊社ピーチフラッグからのご提案となります。是非、木村さんのこともダンジョン配信者として、秋司ともどもマネジメントを弊社にお任せいただけませんか?」


 そういって差し出された書類。

 色々と規約や利益配分などの情報が記載されている。

 俺はその書類に目を通していく。無言で、俺が書類をめくる音だけが事務所に響く。


「契約書はごくごく一般的な内容よ? 私が結んでいる契約と同じだし」

「秋司さんは黙っていてください。木村さんの邪魔です」

「モモちゃん、ひどっ。いつもより、ひどっ」


 ──茜さんは、契約書とかあんまり読まないタイプ?


 俺は意外に思いながら、茜さんと百々さんのやり取りを微笑ましく眺める。とはいえ、不用意なことを口にしないよう、そのまま再び書類に目を通していく。

 テンポの良い茜さんと百々さんの掛け合いが続く。


 ──いや、違うな。茜さん、俺が気兼ねなく時間をかけて書類を確認出来るように、わざとか。


「目を通しました。俺のマネジメントも是非、百々さんにお願いしたいと思います」

「ありがとうございます! 歓迎します、木村さん。それではさっそくですが、私のことはモモちゃんとお呼びください」

「──も、モモちゃん」


 俺は一瞬戸惑うが、茜さんもモモちゃんと呼んでいるかと、その愛称を口にする。

 モモちゃんと呼ばれて嬉しそうに笑うと俺の手をとるモモちゃん。


「はい、八郎さん。これから末長くよろしくお願いいたしますね」

「よろしくお願いします」


 こうして俺は茜さんと同じ事務所にマネジメントをお願いすることとなった。

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モモちゃんはポンコツじゃなさそう??
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