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side モモちゃん1

 ──三十年前、インターネット黎明期の情報がここまで調べ難いとかは……


「ふぅ」


 パソコンのモニターから顔をあげてため息をつく百々百々子。通称モモちゃん。

 彼女は、自らがマネジメントする人気ダンジョン配信者、秋司茜が勝手にパーティーメンバーとして全世界に向けて紹介してしまった木村八郎について調べていた。


 ──公文書からはいくつか、木村さんの名を見つけられましたが……


 うーんと伸びをするモモちゃん。

 昼間、実際に対峙した彼に、モモちゃんは実は圧倒されていた。


 その冴えない装備品で、動画を通して見ていた時は全くぱっとしないように見えたのに。


 しかし実際に会うと、印象は一変した。

 そもそも人を見る目には自信のあったモモちゃんだったが、彼からはこれまで見てきた誰よりも強い、オーラのようなものが感じられた。


 そう、存在感とでも言うべきもの。それが信じられないほどに深くて、これまでに感じたことのない圧が、ひしひしと押し寄せてくるかのようだった。それは、本当に初めての経験だった。

 初対面の時に深々と頭を下げていたのも、茜ちゃんのやらかしについてのお詫びという意味も当然あったが、何よりもその圧に、そしてオーラに、自然とこうべを垂れてしまったのだ。


 その後、茜ちゃんから彼の事情をきいて、モモちゃんはその場でかなり納得した。

 三千年に及ぶスキルの修練が、木村さんの内面を含めて大きく変質させているのだろう。


「あれに、茜ちゃんが心底惹かれてしまうのもわかる。圧倒的だもの。けど、さすがに自宅に泊めるのはやり過ぎよ、茜ちゃん。茜ちゃんがいつやらかして、ひとつ屋根の下で暮らしているとバレちゃうか……。今から考えても胃が痛い」


 そう呟きながらパソコンを操作するモモちゃん。残念なことにアイドルより人気のあるダンジョン配信者とはいえ、そこはやはりアイドルや芸能人とは少し異なっていて、業界の慣習的にダンジョン配信者のプライベートにマネジメント側が口出しするのはタブーになっていた。


 ──それがなければ、全力で阻止するのに。木村さん、もし住むところがないなら……


 はっと、キーボードを打つ指を止めると、ぶるぶると首を振るモモちゃん。


「ストップストップ。それよりも、この申請を終わらせちゃわないと。そのあとに、ツリー合わせをする相手の選別。やることはいっぱいよ、モモちゃん。……せめて仕事ができるとこだけでも──」


 独り言を呟きながら、ダンジョン管理組合へ申請するスキルツリーの新規登録の書類を作成していくモモちゃん。

 事務所に一人残って事務作業を進める彼女の口からは、単なるため息とも言えない吐息が漏れるのだった。

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