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スキルとは魔力に関係なく無条件で使うことのできる技、技術、特性のことである。
そんなスキルだが、本来一人あたり一個までしか持てないようになっており、そのスキルの強さに差はあれど、ある程度の限度が決まっている。
例えばアキの持つ流水の如くは慣性を無視したり動きがスムーズになるだけで効果としては弱いがその分常時発動可能である。
それに対しナツの混沌魔法はあらゆる魔法を掛け合わせることによって自分の思うがままに強力な魔法を作れるという強い効果を持つが、その引き換えに一日にニ十回までと制限されている。
ちなみにさらに強い効果を持てば持つほど制限は強くなるため、スキルによる格差はある程度緩和されているのだ。
そこでシュンのスキルを推測してみる。
複数持ちといっても俺の知る限りでは最大でも四つまでのはずだ。そして現在三つは俺の中で予想ができている。一つは・・・
燈哉はシュンの攻撃に対して避けることに専念しながら、シュンがどのようなスキルを持っているのかを考えていた。
「たとえ避けに徹していてもずっと僕の攻撃を全て避けるなんてことは不可能だよ」
シュンはそう言うと弾丸並みの速度で透明化の風の刃のような物を燈哉に向けて複数飛ばす。
転移魔法で最初に飛んできた刃を回避した燈哉だったが、シュンが転移先を先読みしたことにより一本の刃が燈哉のもも辺りに突き刺さる。
「チッ」
「悪いけどお前の行動パターンはもうバレバレだ」
燈哉舌打ちするのも当然。先程とは違って常に避けることに徹しているため、一瞬も回復する暇などないのだ。
つまり、そこそこに思えるこのダメージが後に大きく響く可能性があるということだ。
それでも、燈哉は依然として避けに専念する。
風の刃。一度使ってから最低でも十秒の間隔が空いており、性能的にも使用可能回数は多分限られてる。
見通してくる目は常時発動。ただ現在のステータスを見られるだけで戦術はバレないのでほぼ脅威ではない。
そしてラスト一つが謎の高耐性。ダメージの通りから見るに少なくとも八十、いや九十%はダメージカットできていると思われる。だが性能的に効果時間は長くても十五分程度。
そしてこれが切れた時、俺の勝ちという寸法だ。
なぜダメージカットが無くなっただけで勝てるかって?
それはもう既にコイツの動きを完全に把握したからだ。
燈哉はそう既に勝ちを確信していた。
実際、先程回避先を読まれて攻撃を受けてから一切攻撃にあたっていないのだ。
再び回避先を読まれて攻撃をくらう可能性があるのでは?と思うところだが燈哉は既に回避読みされた原因も突き止めているため、同じ過ちは二度繰り返すことなどないのだ。
「クソッ、回避ばかりしやがって!」
シュンはニ分近くずっと魔法、刃を放つスキルなどを駆使して遠距離攻撃をくり返しているにもかかわらず、全く当たらないことに苛立っていた。
ここに転移する!
シュンはそう思ってその地点に雷の球のような魔法を放つも、そう思った先に燈哉は来ない。
なんでさっきから俺の目が誤った情報を読み取れてしまうんだ!こんなこと、今まで一度も・・・!
シュンは今までにない事態に困惑していた。そう、スキルによって自分の目は相手が何の魔法を使ったのか正確に見通すことができるはずなのに先程から燈哉が転移魔法を使ってこの地点に移動するという誤った情報が読み取れてしまっていたのだ。
もちろんこれは燈哉の仕業だ。が、これは燈哉だからこそできた技でもあった。
どのような仕組みかというと、燈哉が転移魔法を発動しようとした際に、シュンが転移先に攻撃を放ったのを確認し、魔法の発動をただキャンセルしているだけなのだ。
これだけではない。燈哉は相手の技の一回一回をしっかり観測し、相手が攻撃してくる先を断定する。そしてその攻撃してくる場所にいかないようにただひたすら動き続けているのだ。
これは相手が遠距離攻撃仕掛けてくる上で相手が技を放ってから自分の元にくるまでの一秒にもみたない僅かな時間の差を利用した非常に技術の高い燈哉だからこそ成し得る技なのであった。
「お前、まさかスキルをバグらせるスキルを隠し持っていたのか!?」
シュンは今の状況をなんとか脱しようと推測を立てつつ、燈哉から情報を引き出そうとそう燈哉に向かって言った。
「別に。俺は後出しジャンケンしてるだけだ」
しかし、燈哉のその言葉に推測も破綻し、後出しジャンケンが何を意味するのかもわからず、シュンは困惑を極める一方であった。
そこでついに、いくら攻撃を撃っても当たらないことに苛立ち、シュンは近接戦闘をしようと燈哉のほうに向かって一直線、素早く距離を詰めにかかった。
まぁ、そうしたくなる気持ちもよくわかる。が、その行動はどう考えても禁忌だろ。
燈哉はシュンをすこし憐れに思いながらあらかじめ地面に仕掛けておいたアキにも使った束縛魔法を発動させた。
魔法によって現れたロープはアキの時のように体全体を縛りにいくのではなく、シュンの片足だけを強く縛りつけ、スピードをだしていたシュンはたちまちバランスを崩した。
そしてそんなシュンの元に燈哉は瞬間移動で距離をつめ、思いっきり蹴りにかかる。
まだ耐性さがらねぇのかよ。
燈哉はそんなことを思いつつ蹴り飛ばしてまた距離を取るためにシュンを蹴ろうとした。バランスを崩したシュンは避けられるはずもない、そう思った瞬間一気に形成が逆転することになった。
シュンは燈哉の攻撃をやむを得ず受ける、ふりをして蹴りが当たる直前で転移魔法を使って燈哉の背後に回った。
今まで一度も使ってこなかったため、使えないと思わせてからの奇襲であった。
が、燈哉はシュンが突然転移魔法を使ったことぐらいで動揺しない。
シュンは左手の親指を一本立て、燈哉の方に向ける。
燈哉はそんなシュンの方を振り返り、どのような攻撃をしてくるかをじっくりと観察する。
なんだ?今までに見たことのないモーションだ。左手の親指を立てるモーションの攻撃魔法なんて存在しない。あっ、ということはまさかっ・・・!
燈哉はこの動作がまだシュンが隠していたスキルの一つではないかと予想し、咄嗟にバリアを貼った。
そんな燈哉に対し、シュンは
「残念、俺の攻撃は避けられないし、バリアも意味ないんだよ」
と言う。その発言にまずいと感じた燈哉はこの場から大きく離れようと転移魔法を使おうとしたその瞬間だった。
「フォース」
シュンの冷たく声量の小さいその言葉と共に燈哉の体は不思議な力で大きく弾き飛ばされた。
燈哉は力に逆らおうと自分の体を魔法で押し戻そうとするも、その力には逆らえず、そのままフィールド上のビルの残骸に大きく衝突した。
そしてそんな燈哉に追い討ちかけるためにシュンは再び転移魔法を使い、残骸に衝突した燈哉の目の前に現れた。
今度のシュンの左手は中指をまっすぐ、それと垂直に親指もまっすぐ立てており、中指が指す先には残骸に少しめり込んで回避のできない状態の燈哉がいた。
が、ここで燈哉がシュンの耐性を上げる魔法の効果が切れる
と予測した時間がやってきた。
燈哉はすかさず色んな場所にあらかじめ仕込んでいた罠を一斉に解き放つ。
この攻撃が当たれば勝ち。当たらなくても避けるために今から使おうとしている技を中断し、次俺に攻撃を仕掛けるまでに隙ができる。そしたらあとは近づいて勝ちだ!
発動した燈哉の仕掛けていた罠は、罠箇所につき一つの刃物などがシュン目掛けて放たれるというものであった。
だがしかし、シュンは一切避けようとしなかった。
俺の推測ではその技の発動は俺の攻撃がお前に当たるのより遅いはずだ。でも何でコイツは避けようとしない?バリアを貼るにも攻撃を中断する必要があるし、俺の罠もお前を貫くくらいの勢いで放ったはずだぞ!?
「お前はこれ一発でやられないことはわかってる。だが、これをくらって平気でいられるものは存在しない!」
「チッ。全然俺の読み通りにいかねぇな」
燈哉は受けるダメージを少しでも減らそうと自分に防御魔法をかけつつバリアをはった。
だが、シュンのこの技にはそれが何一つ意味の無い行為であった。
「セブンズエレクトロ!」
シュンはそう言った瞬間、燈哉の罠による攻撃が次々と刺さった。が、どれも深く刺さることはなく、軽い出血程度で収まっていた。
そして攻撃を受けたことをまるでなかったかのようにシュンはそのまま指先から技を放った。
指先からは黄金に輝く光線が音を超えた速度で燈哉の胸をまっすぐ貫いた。
くっ、防御貫通か!
攻撃を受けた燈哉は身体中に電撃が走り、意識をもってかれそうになる。
「やっぱこの技は手がつりそうになるな・・・」
シュンは呑気に技を受けた燈哉の苦しむ様子を見ながら、次の攻撃の算段をつける。
痺れが終わり、燈哉はすかさず転移魔法で距離をとる。
「チッ。デバフ祭りじゃねぇか」
自分に大量のデバフがかかっていることに気づいた燈哉だが、諦めるどころか負ける気はさらさらない様子であり、先程の罠が何故通用しなかったのか考え始めた。
燈哉が受けた技、セブンズエレクトロの強い点は大量のデバフを相手にかけることであり、この技を直撃で当てればほぼ勝ち確といっても過言ではないのだ。
具体的にはスピード低下、防御力低下、消費魔力倍増、詠唱時間倍増、継続ダメージ、耐性上昇無効、状態異常回復無効の七つである。
このデバフは三十分ほど継続し、状態異常回復無効のため、解除することは不可能。よってシュンの形成大逆転であることに間違いなかった。
そんなシュンは大きな火球をつくる魔法を唱えていた。この魔法はあらかじめ唱えておくことでストックが可能という特徴があり、次に燈哉が攻撃を仕掛けてきた時のために備えているのだ。
が、そんなところに再び燈哉が現れた。
「おっと、思ったり早く戻ってきたね!もしかしてそのデバフ状態で僕に勝つつもりかい?」
シュンはそういうと唱えていた魔法を現れた燈哉にそのまま放った。
魔法はまっすぐ燈哉に当たる、と思った瞬間。魔法は燈哉にあたるスレスレのところで何かに吸い込まれていくかのようにその場で突如姿を消した。
「これ以上長くやると仲間との待ち合わせ時間を過ぎる。今からケリをつけてやるよ」
燈哉はそう言うと再びその場から姿を消したのだった。