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「はい、俺の勝ち」
燈哉そう言って背後から首元にナイフを突きつけた。燈哉の声を聞いて背後を取られていることに気づいたナツは予想外の出来事に驚きを隠せない。
「な、なんで!あなたは私の魔法の直撃をくらったはずじゃ・・・」
「まぁそうだね。お前には攻撃が"当たったように見えた"からな。さて、完全に詰んでいるんだし、早く降参してくれないか?」
「当たったように見えたってどういうこと!?」
「魔法使いのくせに相手がどんな魔法も使ったのかも見抜けないのか?さぁ、さっさと降参しろ」
「わ、わかったわ・・・」
ナツは諦めてそう言うと、転移魔法でフィールド外へと立ち去った。
二人との戦闘は思っていたより早めに終わらせることができたし、多分ソロモンとの待ち合わせ時間には間に合うだろ。
燈哉は先ほどのことなどもうすでに考えておらず、ソロモンて待ち合わせ時間のことを気にしていた。
そんな燈哉を勇者のシュンは目をキラキラと光らせながら見ていた。
まず戦闘開始時からふたりの念話を妨害しつつ、幻影魔法で分身を作りつつ相手の様子を確認。
アキが幻影魔法だと見抜いたのに対し、初動で分身目掛けて魔法を打ったナツが幻影魔法を見抜けてないことを確認する。
次にアキとの近接戦闘では、アキが命がけの対人戦を慣れてないと予測し、あえて急所を避けつつ攻撃をわざと受けた。
そしてその予測は案の定的中し、人体を自分の原神が貫いたということにアキは動揺して大きな隙が生まれる。
そしてその隙を生かして武器を奪い、自分は回復魔法を使って大きなアドバンテージを得る。
そして後半は、どうやってアキの声にしたかは不明だが、アキのふりをしてナツに嘘の作戦を念話で伝えると同時に、奪った剣に細工を施してからナツに攻撃するふりをしてアキに返す。
て、最後。ナツにはアキとの戦闘に夢中になっているように幻影魔法を見せつつ、細工された剣で本領を発揮できないアキの攻撃を軽々と捌き、しまいには剣に仕込んでいた拘束魔法で動きを封じる。そして、嘘の作戦どおりナツは魔法でアキ目掛けて魔法を遠慮なくぶち当たると。
いやぁ、ここまで考え込まれた戦いを見ていると仲間が負けたのに楽しくて仕方ないよ。
先ほどの戦いを燈哉の作戦を全て見透かしがら見ていたシュンは楽しそうに無言で笑う。
「さぁ、今度は俺とだよ。思いっきり楽しもうぜ!」
シュンは大声で燈哉にそう言うと、燈哉いきなり転移魔法で背後をとった。
「あぁ、最高に楽しもうぜ」
燈哉はそう言うと挨拶がわりに思いっきりシュンの首目掛けて剣を振る。
しかし、読まれていたのかそのシュンは軽くしゃがんでその攻撃を避けると、シュンは体を放って燈哉の胴体目掛けて蹴りをかました。
だが、攻撃を燈哉はギリギリのところでなんとか蹴りを剣で受ける。反動でそのまま燈哉は五メートルほど飛ばされるが、ダメージはないので問題はない。
「やっぱ君は戦闘をわかってるね。でも、僕の前ではったりなんて一切通用しないからね」
「余裕があるな。お前、さては全て見透かしているな?」
シュンの余裕そうな様子に燈哉はシュンがどのようなスキルを持っているのか探った。
ちなみにスキルとは誰もが生まれながらに得る能力のことで、人それぞれ大きく異なり、大きな強さの基準となるもの。
先ほどの戦いでは触れなかったが、ナツとアキはそれぞれ混沌魔法という様々な魔法を複数かけあわせることのできる能力と、流水の如くというあらゆる一連の動作を慣性や抵抗を無視して行えるというものだ。
そして今回、相手が持つスキルは・・・
「よくわかったね。そう、俺は相手の思考以外の全てを見透かすことができる能力、全てを見通す神の眼を持っている。だから君が攻撃魔力0だってこともちゃんと把握してるよ」
シュンはご丁寧にそう自分のスキルを説明する。
そしてそれは燈哉の予想と合致していた。
「流石だな。でもそんな攻撃魔法が使えない男に今から負けるって思うと悔しくないか?」
「随分と自信家みたいだね。攻撃魔法の一つも使えないことは恥ずかしくないのない?」
互いに煽り合う。煽りとは対人戦において日常茶飯事であり、実際に相手に隙を作らせることもできる。
だが、互いに挑発にのるよう様子は全くない。
10秒ほど静かに互いを見つめ合ったのち、燈哉が転移魔法でその場から消えた。
「さて、どこから仕掛けてくるのかな」
シュンはその場から微動だにせず、燈哉の攻撃を待つ。
自分の周囲に転移阻害結界も張らずに攻撃を待ち構えるなんて舐められたものだな。だったら・・・
燈哉は転移魔法でシュンの元に再び現れた。その場所はなんと、シュンの正面ゼロ距離。
燈哉はシュンとおでこあわせた状態になり、シュンの腹にはナイフが突き立てられていた。
しかし、そんなゼロ距離の攻撃をシュンのありえない瞬発力が一瞬のうちに燈哉がナイフ持っている左腕を掴み、攻撃を止めることを可能とした。
「今のは危なかったよ。やっぱちゃんと結界は張らないとダメだみた・・・」
シュンがそんなことを言っているうちに燈哉は問答無用でもう片方の手でシュンの体を殴りつける。が、それもシュンのもう片方の手によってしっかり受け止められる。
「話す余裕なんてないからな?」
「そうかい?君の攻撃は今のところ当たる気配がないみたいだけど?」
「すでに勝ち筋は見えている。既にお前は俺の手のひらの中だ」
燈哉はそう言うと左手からナイフを離し、真ん中の三本の指をまっすぐと立てた。
燈哉と顔が向かい合わせになっていて燈哉がスワップを使おうとしていることにシュンは気づかず、燈哉はスワップにて自分の場所をある物と入れ替えた。
それは着火済みで一秒もたたないうちに爆発しそうな爆弾であった。
「まじかよ」
さっき一瞬なんでいなくなったかと思ったらこれをするためだったのか!
ゼロ距離なのでバリアをはることもままならない。そして広範囲高火力で止まる事は不可能。即ち防ぐことは不可能だった。
ドカーンという爆発と共にシュンは大きく吹き飛ばされ、近くの倒壊した建物の残骸に大きく突き当たった。
爆弾を予め着火しておき、爆破寸前で自分と立ち位置を変えるという単純だが恐ろしい策が大きな功を奏したのだ。
そして、さらに追い討ちをかけるために燈哉は再びシュンの目の前に現れ、体を捻って思いっきり右足で蹴った。
燈哉はシュンに向かってそう言う。それに対するシュンは先程ほどではないにしろ、まだ余裕そうな表情を浮かべていた。
転移阻害結界も貼らないからこういう追撃くらうんだよって煽ってやろうと思ったが・・・
「お前、まだスキル隠していたのか」
「バレちゃったなら、仕方ない。君な実力は相当だし、こっちも全力で相手してやるよ」
シュンはそう言うと、何もないところからゆっくりと剣をとりだした。その剣は刃がとても薄く、柄に少し金の装飾がされており、普通の剣とは違う雰囲気をあった。
そしてシュンは剣を燈哉に向けて軽く横に振った。
ただその場で振っただけで、十メートルほど離れていた燈哉には何の攻撃にもなってない。
と思った次の瞬間、燈哉を囲むように刃の嵐が現れた。
燈哉はすぐさま転移魔法で嵐から抜け出したが、腕や足は破刃によって傷だらけになっていた。
だが、燈哉はすぐに魔法で傷を癒す。軽い傷ならあっという間に治ってしまうので、受けた傷に関しては何も問題はなかった。それよりも問題は・・・
「そうか、お前勇者だもんな。スキル複数持ちであることなんて当然か」
「一応隠してたけど、君が思ってたより強いから全力を見せてあげようと思っただけさ。ちなみに一人相手に僕が全力を出したのはこれが初めてだから君は誇っていいと思うよ」
やっぱり何か隠しているとは思ったが、まさかスキル複数持ちだったとはな。
燈哉は予想通りの嫌な展開に少し嫌そうな顔を浮かべる
はぁ、にしてもなんとも運命的だな。
超膨大な魔力を与えといて攻撃魔法という膨大な魔力の見せ所が使えないという神に恵まれなかった体質の俺。
それに対するはスキル複数持ち、通称"神の恵みを受けし者"(ゴッドブレス)だ。
「お互い全力で潰し合うぜ」
燈哉は嫌そうな顔から一転し、不敵な笑みを浮かべる。
そしてそれを見たシュンも久しぶりの全力の戦いに心を躍らせ、口角が上がっていた。