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penetrate

緊急依頼をこなした後、すぐに戻ると変に思われるという理由で、燈哉とソロモンの二人は燈哉の転移魔法を使ってソロモンは自分の家に、燈哉は近くの宿でその日の夜を過ごした。


そして時間が経ち、翌日の朝。まだ七時くらいにもかからわず、燈哉は冒険者協会の中にいた。


「じゃあこの依頼をとっておいてくれ。俺の仲間が来たらすぐに受ける」


「はい、承りました。それにしても燈哉さん、先日の緊急指令の件はありがとうございました。」


受付嬢にそう言って緊急司令を受けた分の報酬を受け取ると共に、今日受ける分の依頼を予約すると、燈哉は初めてソロモンと出会った場所のソファへと歩いて向かい、そのまま座った。


・・・やりすぎた!


燈哉はソファに座るとすぐに頭を抱え込み、昨日の出来事を反省した。


俺自身ソロモンのことは信頼している。だが、折角勇者という肩書き捨てて一般人になれたっていうのに、元勇者だってことがばれたら、どんな目に遭うかわからない。

ましてや"あの組織"とのこともバレたらもう・・・


燈哉がそう自らを勝手に思いつめていたそんな時、冒険者協会の入り口のドアが開く音がした。


もう来たのか。朝早くに集合予定時刻の30分以上も前に来れるなんてソロモンは結構朝に強いのか。


そんなことを言いつつも集合時間の1時間前にすでに協会にいたこの男は入口の方を向いて右手を大きく上に挙げた。


そんな燈哉をソロモンは協会に入ってすぐに見つけると、少し駆け足で燈哉の元に向かった。


「ごめん、もしかして待たせた?」


「いや、全然待ってないよ。あとこれ、昨日の依頼の報酬。分け前はとりあえず1:1だけど文句言うなよ」


本当は30分近く待った燈哉はそう言うと、空間収納から金貨を3枚ほどと取り出してソロモンに差し出した。


その金貨をソロモンは両手で申し訳なさそうに受け取る。


「あの、私本当に金貨3枚も貰っちゃって大丈夫なの?」


「あぁ。本当は報酬金貨一人あたり5枚だったんだが、どうやら俺たちたった二人で緊急司令を解決したってことを協会が疑ってているみたいで、ちゃんと確認がとれたら残りもくれるらしい」


「わ、わかった。それで今日は何の依頼受けるの?」


「ドラゴン」


「わぉ」


燈哉は何一つ顔を変えずにそう言うが、ソロモンはカタコト

で少し驚く。


ドラゴン系は討伐依頼の中でもかなり難易度が高いもので、本来、上級者のパーティが相手するようなものであり、中級者、それ以下のパーティだとおそらくドラゴン系統の中で最も弱いとされるインファリアドラゴン一匹で精一杯、それどころか全滅もありえるほど、ドラゴンというだけで皆に恐れられているのだ。


「ふぅー、よし。心の準備できました」


ソロモンは緊張を吐きだすようにそう息をつくと、拳を胸にあて、燈哉のほうを向いて、準備完了の合図をした。


「よし、じゃあ行くか」


そう言うと燈哉はソロモンと手を軽く繋ぎ、すぐに転移魔法でその場から消えた。


そんな様子を見た受付嬢は不思議そうに


「あの子たち、依頼報酬なんて消し飛ぶくらいお値段のする転送石を使うなんて、お金に余裕があるのかしら」


と、言って首をかしげるのたわった。




燈哉とソロモンが転移した先は依頼で指定されたさきの砂丘であった。この近くには町があり、ドラゴンが町に行かないよう討伐して欲しいという依頼であったため、砂丘に転移したこと自体は悪くないのだが・・・


「・・・なんで10体に囲まれてんの!?」


「依頼では3体討伐したら帰ってきていいとかいてあったが、ちょうどここ10体いるし、ついでに狩るか」


そう、討伐対象のインファリアドラゴンが10匹で群れているど真ん中に転移したのだ。


「こんな敵のど真ん中じゃ前衛も後衛も関係ないじゃん!燈哉もしかして以外に馬鹿かなの?」


ソロモンは状況を理解すると、燈哉と背中合わせになるように移動し、燈哉に少し怒るようにそう言った。


「すまん、あえてやった。ちょっと俺とソロモンのパーティでどう連携できるか試したくなってしまった」


「そ、そう言うことは事前に言ってよ・・・」


ソロモンはそう言うと腰に身につけていたナイフを手に持ち、攻撃の姿勢に入った。そして、それに合わせるように燈哉は何もないところから突如ごく一般的な鉄の片手剣をとりだす。


燈哉、空間収納もできるんだ・・・


空間収納は難易度の高い魔法とさて有名であり、ごく少数の人しか使われていないことを知っていたソロモンだったが、それを燈哉が今更使ったところで何一つ驚くことはなかった。


「ついて来れるか?」


「ついていく」


燈哉の発言にソロモンはそう返事をすると、燈哉はすぐに最も近くにいたドラゴンに向かってとびかかった。


「ゴアァァァァァ!」


先ほどまで近くにいたのに襲って来なかったドラゴンも、燈哉が飛びかかってきたことに気づき、吠えて威嚇しながら尻尾で攻撃してくる。


インファリアドラゴンはドラゴンの中でも唯一羽がなく、四足歩行であり、知能が低いことからドラゴンの中では最底辺とされているが、攻撃力や耐久面は普通のドラゴンとは遜色ない他モンスターを圧倒する強力な肉体をもってる。


そう、攻撃は単調だが、攻撃一発が致命傷になりかねないということだ。


しかし燈哉は単調な攻撃になど当たるわけがない。軽く転移魔法を使って一気に裏へと回ると、攻撃を仕掛けてきた尻尾を根元から持っていた剣で切り離した。


そしてそれに動揺したドラゴンは上を向き、先程と同じように今度は痛みが原因でゴアァァァァァ!とうなった。


そしてそのドラゴンの喉元にソロモンは突如として現れ、そのまま持っていたナイフを喉元に突き刺し、魔法を唱えた。


バァーーン


ナイフを刺していた場所を起点に爆発し、見事ドラゴンの首は吹き飛んだ。


「ナイス一撃」


燈哉は真顔でソロモンにグッドサインをだす。


「べ、べつに、燈哉がわざとドラゴンの弱点の喉元をさらすように仕向けてくれたからできただけだよ・・・ってもういないじゃん」


それに少し照れながらソロモンは受け応えようとした時、燈哉すでに次のドラゴンに切りかかっていた。それにおいてかれないようソロモンもついていく。


ドラゴンは硬い鱗を持ち、切ろうと思っても一般的な剣では傷をつけるどころから剣の方が壊れてしまう。だが、ドラゴンの討伐方法を熟知している燈哉は弱点である喉元や腹を攻撃できるよう次々と攻撃の起点を作っていく。


燈哉がドラゴンの後ろの両足を切り、そこで振り向こうとしたドラゴンの喉元をソロモンが先程と同じように魔法とナイフを駆使して一撃で仕留める。


仕留めたソロモンに対し、一匹のドラゴンが炎のブレスで攻撃をしかけていたが、ソロモンは軽くよける。ブレス中のドラゴンは隙が多いため、近づければもうこっちのもの。今度はソロモンが燈哉が仕留められるよう起点を作る。


「くらえ!」


ソロモンはそういうと、周囲にいた三体のドラゴンの喉元に強烈な爆発を起こし、頭が上を向いて喉元を狙いやすいように弾いた。


そんな時、燈哉が戦っている方向から大きな音が聞こえた。

それに対しソロモンはすかさず燈哉の方を向く。


どうやら燈哉が一体のドラゴンを足でおもいっきり蹴りあげた音らしく、一体のドラゴンが宙を舞っていた。


だが、ソロモンが注目したのはそのドラゴンではなかった。


燈哉のあの手の形、あれは確か・・・!


燈哉が左手をピースの三本指バージョンのように真ん中の3本の指をまっすぐの伸ばしているのを見たソロモンは、その場でナイフを握りしめ、軽くジャンプをした。


俺、合図したか!?


燈哉は少し目を見開き、眉を動かした。


「スワップ」


燈哉はそう言うと、ソロモンと燈哉の位置が一瞬で交代した。それを読んでいたソロモンは手に持ったナイフを魔法で片手剣へと変形させると、見事にドラゴンの首を切り裂いた。


「これが本当の連携ってやつか。ただ俺がレールを敷いてその上をソロモンにただ進ませるだなんていう俺の考えは本当に馬鹿で無駄だったな」


目の前にドラゴンが弱点の喉元を晒した状態でのけぞる様子は、まるでソロモンが是非とどめを刺してくれと言っているようだ。


だが折角三体も弱点を晒しているとはいえ、その時間は数秒であり、おそらくソロモンも"敵の動きは一瞬封じたからそのうちにどれかお好きなやつ一体仕留めてくれ"という合図なのだろう。


だが、俺の初めての仲間が初めて作ってくれたチャンス。こんなもの、余すことなく使わせてもらうに決まってる。


燈哉は少し口角あげ、楽しそうに片手剣を構える。


そして次の瞬間、燈哉は常人で目で追えない速度で辺りを駆け回り始めた。


空中を蹴り、四方八方に駆け回り、三体の片手剣でドラゴンの首を一閃。これが今、燈哉が常人が目で追えない速度で行った内容だ。この時間、わずか二秒。


少し刃が綻びちゃったか。


片手剣を構えた位置にいつの間にか戻っていた燈哉は持っていた片手剣をのんびりと眺めている様子だった。


「やっぱ私じゃ燈哉には叶わないや」


今の光景を見たソロモンが燈哉にそう話しかける。


「そんなことない。俺がスワップを勝手に使おうとしてたことに気づいて合わせたソロモンの洞察力には驚かされたし、何よりいつの間にかお前との連携が俺の中に浸透してた。」


"何より、こんな戦い方は初めてで楽しかった。教えてくれてありがとう"


また言いたいことも言えず冷たく話してしまった。


燈哉は本当に言いたい最後のこの言葉だけ言えない自分の性格に少し嫌気がさす。


だが、そんな燈哉が冷たいと思っている言葉をソロモンは嬉しそうに受け取り、少し口角を上げると、ソロモンは燈哉に走って近づいてきた。


ん、何だ?


無言で急に近づいてくるソロモンを不思議に思いながらもその場で棒のように立ちつくす。


そしてそんな燈哉の両肩にソロモンは正面から少し強めに両手をあてた。


「あ、あの、もうドラゴンも燈哉の一撃びびっていなくなっちゃったし、この依頼の報酬受け取ったら、昨日は話せなかったし、せっかくだから、お金も私が払うし、あの、その、一緒に、えっと・・・!」


ソロモンは燈哉に顔を近づけて急に何やら話し始めたが、話すにつれて言葉が詰まり、だんだん顔下に向けてしまった。

その顔は燈哉に見せないが自分に嫌気がさして、悲しそうな表情を浮かべていた。


あぁ、前もって何言うか決めずに急に話そうとすると言葉が詰まるのまじでよくわかる。


焦っている人を見る燈哉は落ち着けてそう感傷に浸った後、ソロモンの腕をおろし、顔が近かったソロモンを少しだけ遠のけた。


「何言いたかったかわからなかったが、こんなところで話すのもなんだし、奢ってやるから一緒にご飯でもどうだ?」


燈哉はそう言うと、ソロモンは急に顔を上げ、再び燈哉の両肩にでをあててきた。


「ぜ、是非!」


ソロモンは嬉しそうにそうまっすぐ燈哉の方を見る。


だから顔が近いんやって・・・!


それに対して燈哉は人とこんなにも顔を近づける機会など今までなかったため、少々動揺する。


でも、こんなに誰かと一緒に何かするなんて勇者の頃は考えられなかった。だから初めてできた俺の仲間であるソロモンとはこれからも色んなところへ行きたいな。


そう燈哉は思いながらソロモンに対して微笑む。


だからこそ明日、このパーティが解散の危機に陥るなど、燈哉は考える余地もなかった。

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