struggle
燈哉とソロモンが転移した先は多くの木々が連なる中を人型の豚の魔物オーク、粘着質で様々なものを溶かしているメルトスライム、大きな蜂の形をし、自分の分身体を次々とつくり出すことができるビークイーンなど、様々な魔物が大量に植林場内を徘徊していた。
「これはまた地獄みたいな絵面だな。それにしてもそんなところで急に大量発生なんて妙だな」
「気持ち悪いけど、久しぶりに誰かと組んでの依頼だし、頑張る」
二人はそう言うと魔物たちに気づかれる前にしっかり戦闘体制に入る。そんな時、燈哉がふと左手に持っているものをソロモンの方に差し出した。
「ほら、これやるよ」
燈哉はそう言ってソロモンに先ほど使ったはずの転送石を渡したのである。
「え、なんで壊れてないの!?」
これにはソロモンも驚きを隠せない。
「まぁ俺が転移魔法をつかったからな。もし危なくなったらそれを使ってお前だけでも逃げろ」
ソロモンが転送石を受け取ったその時、背後から一体の人の腐った死体のような魔物、ゾンビが襲いかかった。
もちろんそれに気づいていた燈哉は足で思いっきり蹴り飛ばそうと右足を引いた。しかし、蹴ることはなかった。
「おぉ、思ったより強いな」
燈哉はソロモンの方を向きそう一言いう。
「まぁ、専門はバッファーですけど、今まで一人で依頼をこなしてきたので、近距離戦闘も遠距離戦闘も、ヒーラーやバッファーも全部満遍なくできるんで・・・」
ソロモンは苦笑いでそう言う背後ではいつの間にか首が飛んだゾンビがドサッとその場に倒れ込み、そのまま黒い煙となって消えた。
ソロモンのスキル影遠影我は気配消しが常時発動してしまう代償として、戦闘面では多くの強さを兼ね添えたスキルだ。
先ほど行ったのは、影我一閃とよばれる技。油断させるためにその場に自分の幻影を作り、その後はソロモン持ち前のスピードを活かし、魔法で作り上げたナイフで首を一撃。というものだ。
幻影に気を取られているせいで、気配の薄いソロモンが攻撃してきているとは気づかず、相手は死んだしまうのだ。
「さて、どいつから行こうかな・・・」
手を顎に当て、考えている様子で立ち尽くす燈哉の姿の背後から今度は大きな女郎蜘蛛の形をした魔物、クライシスパイダーが襲いかかった。
「燈哉、後ろ!」
全く気づいてなさそうな燈哉にソロモンは大きな声で叫ぶ。
しかし燈哉は全く反応せず、そのままクライシスパイダーの足による攻撃が当たる・・・
と思われたが、その攻撃は燈哉の体をすり抜け、そのまま空を切った。
そして攻撃が当たらなくて困惑しているクライシスパイダー
はどこからともなく剣を持って現れた燈哉が横からの一閃により、体の上半分が吹き飛び、そのまま黒い煙となって消えた。
「おい、ソロモン。お前が今叫んだので辺り百メートル以内にいた奴らが全員俺たちの方に向かってきたぞ?」
そう言いながら燈哉ソロモンの元に寄る。
「だ、だって燈哉がやられちゃうと思ったから・・・」
ソロモンは申し訳なさそうにそう言う。
そうか、今は俺一人で闘いにきたのではなく、依頼成功という目標のために二人で力を合わせなければならないのか。だったらさっきみたいな仲間を心配させるような個人技はダメに決まっているか。
「今のはお前の真似しようとして心配かけた俺が悪い。すまなかったな」
「いや、燈哉が謝る必要ないよ!最初に私が使ったのも燈哉じゃなかったら心配させるような技だったから。それより、私が引き寄せといて申し訳ないけど、結構やばい状況だし、戦闘に集中しよ!」
「あ、それなら平気だ。逆に集めてくれたほうが俺も闘いやすい。ソロモンこそちゃんと集中して頑張れよ」
そう言うと燈哉はあっという間に最も近くにいたモンスターに飛びかかり、斬りつけ始めた。
「よ、よし。私もだって・・・!」
ソロモンもそう意気込むと両手を組み合わせ、願うようなポーズになり、何か唱え始めた。
「神よ、この窮地をひっくり返すとびっきりの力を我らに授けたまえ」
すると、燈哉とソロモンは力に満ち溢れた。
「ソロモンお前、バッファーが得意だとはいっていたがここまでだったのか?」
燈哉はソロモンの方を向き、驚いたようにそう言う。燈哉を初めて驚かせることができたのが嬉しかったのか、燈哉の方を向いて不器用に笑顔を作りながらイェーイと言わんばかりのピースを作った。
これがソロモンが最も得意なバッファーとしての最上位技、全知全能の加護。普通の人がこのバフを受けた人は全ての能力が上がった!と感じるだけだが、燈哉は瞬時にこのバフの性能のヤバさを思い知った。
全ステータスが二倍。
強い人にかければかけるほど効果は絶大に増す。特に燈哉は圧倒的な魔力をもつため、それが倍になるということは敵にとっては絶望でしかないのだ。
「ソロモン、じゃあ俺からもとっておきの技を見せてやるよ。よく見てな」
そう言うと切り掛かっていた燈哉は、転移魔法で魔物たちから間合いをとり、再びソロモンの元に寄ると、今度はソロモンを透明なバリアで囲った。そしてその後、すぐに地面に向かって手をつく。
今更驚いてもしょうがないことにきづいたソロモンは、今度は何をするのか期待し、燈哉のことを見つめた。
「魔力解放」
燈哉そうただ一言言っただけだった。だが、ソロモンの目の前ではあり得ない事が起こっていた。
ソロモンがバリアで囲まれたところ以外の地面が燈哉を中心に真っ黒に染まり始めたのだ。
そしてその黒い床に触れた魔物たちは一斉に爆散し、黒い煙へと変わっていった。さらには、床に触れていない空を飛ぶ魔物さえも爆散を免れることはできなかった。
あまりにも圧倒的な光景にソロモンはこの男がどれほどの強さを持つかを深く思い知った。
「こんなの、うちの国の勇者でも勝てっこ無い・・・」
燈哉は周囲に魔物の反応がなくなったのを感じとると、床から手を離し、「はぁ、魔力増えてても脱力感は拭えんな」ため息をつきながらそう言った。
「燈哉、あ、貴方は何者なの!?」
ソロモンは燈哉に対して一切恐れずにそう聞いた。ギルドでの会話もあり、燈哉が悪人では絶対無いと確信していたからだ。
そのソロモンの目を見た燈哉は今まで会ってきた人たちは何か違うものを感じた。
だが、流石に今日会ったばかりのやつに元勇者だと、ましてや転生者だということは知られるわけには行かない。
「まぁ元いた国で冒険者とはまた違った仕事で色んなものと闘ってきたからな」
燈哉そう言葉を濁す。一応嘘ではないのだが、その言葉を信じたソロモンは燈哉のことを少し尊敬した。
「と、燈哉。もし私でよかったらなんだけど、パーティを組んでくれませんか・・・なんちゃって・・・」
ソロモンは照れくさそうにそうボソッと言うとそれを聞き逃さなかった燈哉がすぐさまソロモン手を取り、顔を近づけ、目を輝かせた。
「ぜ、ぜひともお願いしたい!むしろ勝手にここへ連れてきたというのもあり、本来は俺から言うべきだったのに、わざわざソロモンに言わせてしまい、すまなかった」
「え、えっうん!わ、わかったよ!」
ソロモンは照れくさそうにそう言うと燈哉の手を振り払い、燈哉から目線を逸らすと、「ちょっとボディタッチが多すぎますよ・・・」とボソボソ言っていた。
こうしてついにパーティを組むことができた燈哉はようやく
冒険者として依頼を受けられるようになった。
そんな燈哉とパーティを組んだソロモンは正体は知らないものの、その燈哉の強さは別格だと思い知っていた。
先ほど燈哉が辺りの地面を真っ黒にしたあの技。あれは純粋に自らの魔力をすべて放出しただけであり、魔物が自身の保有する魔力の二倍以上を取り込むと爆散するという性質を活かしたものだった。
そう、二倍に増えていたとはいえ、辺りにいた百体近い魔物全員を爆散させるほどの魔力を放ったのだ。これがどれほど恐ろしいことなのか、技の原理を知らないソロモンは知るよしもなかった。