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燈哉が勇者を辞めてから3日が経った。国王が燈哉の言うことに素直に従ったため、今まで国王が低賃金で数十年もの間、勇者をこき使っていたことが国中に知れ渡った。


しかし、国王が燈哉をこき使っていたことを悪いことと思わない人は多くいた。なぜなら、燈哉が圧倒的な魔力を保有するが故に人として見られていなかったからだ。


さらに言えば、圧倒的な魔力を持つにも関わらず、誰もが必ず一つ持っているはずの"スキル"が燈哉にはなかったというのも、人として見られていなかった原因の一つであった。


「化け物をどう扱ったっていいだろ。むしろ自由に解き放たれる方が迷惑だ」と言う人もいたという。


もし、俺がスキルを持っていて、魔力量も普通な一般人だったら、こんなことにならなかったのかな・・・


新たな国へ行くために海を渡る船にのり、何十年も暮らした国の街並みが少しずつ離れ、薄れていく様を見ながら、燈哉はそう思いふけていた。


燈哉が長年勇者を務めた国、中央帝国は世界四大四方王国の一角に数えられる東の大国である。世界一人口が多いことから、人々の交流、産業の発達が凄まじいことで有名だ。


そして燈哉が次に向かう国は同じく世界四大四方王国の一角、西の大国であるブイエフ共和国連邦だ。人口は四カ国の中では最も少ないが、古くから伝わる街を残しつつも、常に時代の最先端をゆく技術を待ち合わせる、中央帝国と対をなす国だ。


ちなみに中央帝国とは仲が悪い。燈哉がこの国を選んだ理由の一つである。

だがもちろん、燈哉がブイエフ共和国を選んだ理由はこれだけではない。


「これがブイエフ共和国にしかない職業、"冒険者"たちが集まる冒険者協会か・・・」


燈哉は、豪華ではないものの食堂、大浴場、娯楽施設と、広く利便性に長けた船内の中を人々が行き交う中、窓辺に置かれた小さなソファに腰を掛けながらブイエフ王国に関しての新聞を読んでいた。


燈哉が読んでいる新聞には丁度燈哉が目的としていた冒険者に関しての記事が写真付きで載っていた。


冒険者。国がもつ軍の仕事の負担が大きいこと、国内で力を余らせた国民の不満、の二つを同時に解決するために編み出された、命をかけて闘う人を募り、魔物退治を生業とする職業。


主な仕事内容は先ほど述べたように、魔物退治と、その他に事件の解決、住民の雑用依頼、さらには魔王軍との戦闘など、様々だ。


燈哉は数十年ひたすら戦いばかりしていたこともあり、何の仕事をするにも資格がない。だがこの冒険者という職業は自分の命を賭ける代わりに誰でも簡単になることができるのだ。この点が、燈哉にとってはこれ以上ない利点だ。


「待ってろブイエフ共和国。俺の長年培った戦闘能力で大量に稼いでやる・・・!」


燈哉はそう言いながら不敵に口角を上げ、拳をぐっと握る。


「ねぇママ、なんであの人笑ってるの?」


「こら、危ない人に向かって指ささないの。変に絡まれたら大変なことになるわよ」


通りすがりの小さな男の子に指をさされ、その親に不審者扱いされるも、燈哉は一切気にせず、それどころかその場で立ち上がって目標を叫び始めた。


「絶対に冒険者マスターになって、大金を手にしてやる!」


※冒険者マスター : 冒険者協会で最も強い者に与えられる称号。四年に一人選別され、選ばれた暁には協会から称号と共に1000金貨が与えられる。


遂に自由の翼を得ることができた俺が希望を胸に新たな人生が始まる!






・・・はずだった。


あれから丸一日が経ち、俺は冒険者協会の中に入ったその時、燈哉にとって最大のピンチが訪れたのだ。


「早速何か依頼を受けたいのだが、ビギナーの俺に手頃なものはないか?」


「申し訳ございません。登録は完了したのですが、冒険者になったばかりの初心者さんは、少なくとも2人以上でパーティを組まないと依頼は受けられないというきまりがあるので、誰か1人でもいいので、パーティを組んでいただけないでしょうか?」


アンティーク調のものが多く置かれた冒険者協会の建物内で受付嬢と燈哉は話していた。順調に冒険者協会に登録をすませ、無事冒険者となれた燈哉だったが、初心者の間は1人では活動できないという予想外の決まりに内心、絶望しかけていた。


「俺は戦闘能力に関しては自身があるのだが、それでもダメか?ダメなら納得できる理由が欲しいのだが・・・」


「申し訳ないのですが、決まりなのでダメですね。三年ほど前はこの決まりがなかったのですが、冒険者を始めたての人が死んでしまうというケースの8割が一人で活動した人なのですよ。ということで、ご自身の身を守るためだと思って誰かの組んでから依頼を受けてください」


「わかった。でも、俺本当に強いからそんなに心配しなくても大丈夫・・・」


「ダメです。もし本当に実力があるなら、誰か強い人と組んで難易度の高い依頼を受けるか、さっさと昇格して一人で依頼をうけてください!」


「・・・はい、わかりました。」


反論しようとした燈哉だったが、あっさりと返されてしまい、結局誰かとパーティを組まなければならなかった。


「もし仲間にお困りでしたら、あちらに人員募集掲示板があるので、よかったら見てきたください。では、後ろで並んでいる方もいるので、またパーティが組めたらこちらにお越しくださいね。」


受付嬢はそう言って燈哉のほうを見てにっこり笑った。


見送るように笑ったり、「後ろに並んでいる人がいる」などわざわざ言うなど、これ以上話を続けにくい圧をしっかりとかけられ、燈哉は再び反論しようにもできずに虚しくその場を立ち退いた。


仕方ない。言われた通りに募集掲示板でも見に行くか。


「はぁ・・・」


燈哉は軽くため息をつきながら重い足取りでゆっくりと掲示板のはられた受付から右側の壁側へと歩いて行った。




掲示板には4枚の紙が貼られていた。燈哉は掲示板の前に立って左から順に心の中で読み上げていく。


・勇者パーティのリーダーを務めている、西の勇者シュンです。現在三人で活動しています。魔王軍との戦闘など強敵と戦う機会が多いため、戦闘能力に自身がある方を募集しています!



・本パーティは全員が冒険者ランク:ベテラン級以上で構成されているため、準ベテラン級以下はお引き取りください。現在、前衛職(近接戦闘が得意の方)を募集しています。ランクは高いですが、雰囲気は良いパーティなので、馴染みやすいと思います。



・女のみ募集。ビギナーの方ならランク上げのお手伝いします。もちろん高ランクの強い方もぜひ入ってきてください。



・初心者です。訳あって一人のため、誰かパーティを組んでくれる方を募集しています。戦闘能力にはそこそこ自身があります。


募集はこの4つだけか。まぁさすがにこの4枚の中だったらこれかな・・・


燈哉はそう言うと、1番右にあった初心者の人が募集していると思われる紙を手に取った。


さて、手に取ったはいいものの、これをどうすればいいんだ?


燈哉はそう思い悩みながら紙と睨めっこする。


そんな燈哉の様子を一人の白く長い髪が特徴的な少女がほとんどの人に利用されてなさそうな室内の角にあるソファから何か期待を寄せるような目でじっと見つめていた。


そんな視線を燈哉は長年の戦闘経験で培った感があるため、とっくに気づいていたのたが、急に「何で俺をそんなに見てるんだ?」と言う勇気はなかったため、不思議と視線を浴び続けるはめにあっていた。


たまたまこちら見ていたとしても、募集依頼を読み始めたときからかれこれ5分以上はずっと見られているし、偶然とは思えん。何故そんなこちらを見ているのかが知りたい。


・・・そうだ!この募集依頼をどうすればいいか聞いてみよう。それならあまり不審におもわれないだろ。


燈哉はそう考えると、紙を持ってその少女の元へゆっくり歩み寄った。


燈哉がこちらに向かってきているにも関わらず、その少女は燈哉のことを見るのをやめようとしない。普通の人なら気まずくて視線を逸らすはずだ。


そのため二人は完全に目が合ってしまう、燈哉はとても気まずくなる。


だったら目を少し逸らばいい話なのだが、なぜか逸らしたら負けという謎の闘いが燈哉の中に生じたため、燈哉はなんとか耐えながら少女のもとに歩み寄り続ける。


それて遂に少女との距離が1mほどになった。すると、急に少女は燈哉から目を逸らし、自分の周囲を見渡した。


勝った。


勝手に自分で開いた謎の闘いに勝利した燈哉は少し上機嫌になり、それもあってか燈哉は自然と言葉が出た。 


「ちょっと君、少し困っていることがあるんだが、もしこの協会に詳しかったりしたら、教えてくれないか?」


燈哉らしくない柔らかい言葉づかいでそう聞いた。


しかし次の少女の発言に燈哉の上機嫌は束の間のものとなった。



「あ、貴方、私が見えるの?」


・・・!?!?

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