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ふわっとした髪にこれといった特徴の少ない優しいそうな顔つきの少年がワイシャツ姿で辺りをキョロキョロと見渡していた。
俺の名前は井上伊七、ただの高校2年生だ。
だか俺はついさっき暴走トラックに撥ねられたはずなのだが、いつの間にか全く見たことのない広大な草原にぽつんと1人でいた。
「こ、これって異世界転生ってやつか!?」
俺は中学の頃から異世界系のものを読み漁っていたため、
一瞬にしてこの状況を理解することができた。
だったらこういうものにはお決まりというものがある、そう、転生の特典で貰えるスキルだ。伊七は心に「俺のステータスを見せてくれ」と念じると、伊七の頭の中に勝手に情報が流れ込んできた。
パワー:47 スピード:30 耐性29 攻撃魔力:80 魔力量:1500
天賦の才:空間干渉
空間干渉、多分これが俺のスキルだ!
そう気づいた伊七は空間干渉がどんなものなのか、早速使ってみることにした。
たしかこういうのはしっかり頭でイメージするが大切って俺の読んだやつには書いてあったな・・・
伊七は頭の中で周囲の空間に干渉して自由自在に動かすのをイメージした。そうすると伊七はあっという間に辺りの空間を自分の思うように操ることができるようになった。
空間を消し飛ばしたり、重力をかけたり、空気や温度なんかも自由自在。そう、伊七は異世界にきてたった10分足らずで自分の絶対領域を作り出すことに成功したのだ。
「よしっ!まずはこの力を使って金を稼ぎにいくぞ!やっぱり異世界といったらギルドだよな!」
伊七はそう言うと草原から遠くにうっすらと見える街並みの方へ向かってゆっくりと歩きた出した。
ちょうどその時、伊七はこの世界にきてから初めて人に話しかけられた。
「おいおい、お前まだ来てから15分くらいしか経ってないはずだろ?なんでもう化け物級の技使えるようになってんだよ。急いで来た俺の気持ち考えろよ」
黒い服に黒いズボン、さらに黒いジャケットをみに纏った伊七より20cm近くと身長が高い男が伊七から10mほど離れた位置に立っていた。
こいつ、俺が転生者だと知っている!?
伊七はそう勘付き、すぐに天賦の才:空間干渉にて自身の絶対領域を作り上げて警戒した。
そんな伊七に全身黒の男はそのままゆっくりと近づき、話を続けた。
「まぁそんな警戒しないでくれ、こんな怪しい見た目だが俺はここから近くの国で騎士団長補佐をやってるトーヤという者だ。」
「これ以上近づくな!さっきの発言からして、お前はどうやら俺がこことは別の世界から来たこと知ってるようだが、どういうことか説明しろ!」
伊七はそう大声で言うもトーヤは止まることなくゆっくりと伊七に近づき続けた。
「異世界から人がくることなんてしょっちゅうのことなんですよ。単純にその服装からして分かっただけですよ」
「では、15分しか経ってないとも言っていたがあれはどう意味だ?説明しろ」
伊七がそう言う頃にはトーヤと伊七の距離は1mほどになっていた。そして次の瞬間、トーヤは急に牙を剥く。
「こういうことだよ」
その瞬間、「グサッ」という鈍い音と「ぐはぁっ」という伊七の苦しむ声の2つが静かな草原に響き渡った。
トーヤは黒いジャケットのポケットの中からナイフを取り出し、伊七の腹に向けて突き刺したのだ。
だが伊七は苦しそうに悶えながらもトーヤの方を睨め付けてこう言い放つ。
「お前、死ぬ覚悟はできているんだな?」
伊七はすでに作っていた領域をつくっていたので、トーヤに向かって空間を消しとばすを攻撃を即座に仕掛けた。
「貴様!?領域をまだ維持して・・・」
もちろん絶対領域内での攻撃を外すということはぼぼないので、伊七の攻撃はトーヤの胴体をすべて吹き飛ばした。
「まさか異世界にきてすぐ人を殺すことになるなんて・・・異世界がこんな過酷な環境だったとは思いもしなかった」
伊七は自分の腹に刺さったナイフを鈍いを音を上げながら力ずくで抜くと治療魔法を使おうとした。
もしこれで俺が治療魔法を使えなかったら俺はこのまま...
そんな悪い考えが一瞬過ぎったが、流石は転生者といったところか、すぐに治療魔法らしき光が手から出た。
「よし、とりあえず俺の体力が全回復する分の魔力を!」
手からさらに温かみのある光が強く光り、ゆっくりと自分の腹に当てた。
そしてこの瞬間、この男は絶命したのだった。
「まさか自爆するとは思いもしなかった。まぁ楽で助かる」
先ほど消し飛ばされたはずのフードを被った男が伊七の死体を前に立っていた。
さて、こんにちは。もしかしたらこんばんはかも。
先程の男ではなくこの俺が本作の主人公、愛川燈哉です。
今俺がしていたのは特に何の報酬もない、俺が自主的に行っているの裏稼業だ。普段はこれでも中央大国という国で勇者をやっている。
ちなみに先ほどの戦いはナイフに回復魔法を反転させる魔法を練り込んだものを相手にさしたところ、どうやら自爆してくれたようだ。ちなみに最初に消し飛んだのは俺の分身魔法なので、ノーダメージの俺の完勝というわけだな。
さてそんなことは置いておいて、俺はさっさとこの死体を空間収納魔法の中に入れて隠蔽しないとならない。ちなみに転生者なので殺したところさえ見られなければ罪には問われない。というか俺が良かれと思ってやっていることだ。
さて、今日は他国の国王たちががこの国の王宮で会議を行うからその護衛をしなければ・・・
黒いフードをとった燈哉の顔は、とても整っていて、俗に言うイケメンだったのだが、どことなく目つきの悪さからあまり人が近寄りにくい雰囲気を出していた。
そんな俺は突然一つ疑問が浮かび上がった。
なぜ俺は勇者として国王を守らねばならないんだ?
俺が勇者に選ばれたからなのか?
「勇者、やめるか」
燈哉はそう決断すると各国の国王が集まる王宮へとすぐに向かうのだった。
俺はこの世界に勇者として召喚された。
そして今日まで続けている勇者の仕事は主に3つ。
・魔王軍との対決
・天災モンスターが現れた時の討伐
・国王が国外へ行く時の護衛
最近はこの3つがよく多発しており、特に国王の護衛などは俺がやる必要が無いにも関わらず、時間ばかりくうので本当にやめてもらいたい。
さらにら極め付けは仕事量に対する対価があっていなさすぎる。魔王軍と対決して大勝したとしても金貨5枚(日本円5万円相当)、国王の護衛など一日中やらされてたったの金貨2枚。つまり俺の月の給料平均するとだいたい金貨50枚。そう、勇者にも関わらず中年のサラリーマン程度の金額しか俺は稼げていないのだ。
極め付けはあいつらは異世界人である俺を人として見ていない。おそらく俺がまわりにくらべて圧倒的な量の魔力を保有しているからであろう。
この情報は国民全員が知っており、そのせいで数十年ずっと1人だ。まぁ俺が人付き合いが苦手とちうことも相まってのことだが。
でもそんなことを言うのも今日でおしまいだ。
燈哉は広いの廊下を歩き進めたのちに、大きく、重厚な扉に
突き当たった。そう、実はここは王宮であり、この扉こ向こうには王室と王が座る玉座が構えられていた。
燈哉はゆっくりとドアを開けようとした。
だがその時、燈哉の頭に悪い考えが浮かび上がった。
俺もうこの国出ていくし、いままで色々されたことに比べたらこのくらいならしてもいいんじゃないか?
すると燈哉は腕に力を込め、2枚開きの扉の右片方の扉を思いっきりぶん殴った。
すると、ドゴォォォンという色んなものが崩れる音がしながら右片方の扉はまるでドミノのように倒れた。それと同時に体力の砂煙が巻き上がる。
「何事だ!?まさかこんな昼時に魔王軍の侵入者がきたとでもいうのか!」
「勇者をお呼びしますか?」
白いひげと薄い白い髪を蓄え、玉座にふんぞりかえって座る少し老いた男、国王とその側に背筋を真っ直ぐ伸ばして起立している40代程の剣を腰に携えた男が急の出来事に少し動揺していた。
「あぁ、何をしていようとやめて全速力で来いと伝えておくのだ!あやつがくるまではおそらく王宮の衛兵たちが時間を稼いでくれるであろう」
煙の向こうからまぬけな王っぽい声が聞こえるな。
燈哉はそういいながら砂煙の中をゆっくりと王の元へ歩き進めて行った。
「国王様、王宮の衛兵こどきでは侵入者の時間稼ぎすらできませんよ」
燈哉のその発言に国王は安堵した。そう、燈哉が助けにきたのだと勘違いしたのだ。
「この速度で駆けつけるとは流石は勇者だ!もう侵入者は捕まえたのか?」
国王は砂煙の中にいる燈哉に向かってそう言った。
徐々に砂煙が落ち着き、少しばかり笑みを浮かべた燈哉の姿が現れた。
「申し訳ございません国王様。今回の侵入者は今までで最も手強く、捕まえることができませんでした。」
「ふざけるな!こんな盛大にやられといて犯人を捕まえられなかったら国の恥であるぞ!なんとしてでも捕まえろ!」
国王の怒り狂った発言に燈哉は先ほどと変わらず笑みを浮かべたままだった。それに対し、国王の近くにいた側近の男は違和感を覚えた。
魔王軍が行動を起こすのは決まって夜であり、さらに王宮に攻撃を仕掛けるという大胆なことをするなんて事例は今までない。さっきからずっと不気味な笑みを浮かべているのが何か引っかかる。もしかして勇者が・・・!
「緊急事態だ!総員、王座の間へと集まれ!」
側近の男は、突如自分の胸ポケットにしこんでいた無線連絡機をとりだし、それに向かって大声でそう言い放った。
「護衛隊長、急に何を言っておる!?あいつは正真正銘勇者じゃぞ!?」
まだ怒りが少し収まらないまま、側近の男、護衛隊長にむかって怒鳴りつけた。
しかしそんなことを護衛隊長の男は一切気にしなかった。なぜなら燈哉がその奥で更に笑みを深めたのが見え、燈哉がこの騒動の原因だと確信したからだ。
「やはり護衛隊長さんはそこの老害と違って物事の察しがいいですね。でも、宮廷の護衛が数人集まった程度で俺を止められると思っているのかい?」
燈哉がそう発言するが、それを無視した護衛隊長はすぐさま燈哉に切りかかった。
もちろんそんな単調な攻撃など燈哉も護衛隊長と同様に刀を抜き、軽く受け止めた。
「国王様、お逃げください!」
護衛隊長はそう叫ぶが国王はあまりの急の出来事に状況が理解出来ず、その場で立ち尽くしていた。
「なぜ勇者が・・・?私がここから逃げる・・・?」
護衛隊長は受け止めてきた燈哉の刀を一度振り払い、バックステップで間合いをとった。
「俺は1秒でも多く時間を稼ぐ!」
はなから勝つ気などさらさら無い護衛隊長はそう言うと、余力を残すことなどを一切考えずに出し惜しみなく自分がもつ全力の技を全力で解き放った。
「スキル:電光石火解放!この一撃をもってお前にスピードの圧倒的力をみせてやろう!」
護衛隊長は目に見えない速度で燈哉の周囲を壁を飛び回って駆け回った。余りの速度にあたりには衝撃波が発生し、護衛隊長自身の肉体にも多大な負荷がかかる。
これが必殺"雷光無双"!
片手に握りしめた光のナイフで燈哉の首元を横から斬りかかる。しかし燈哉は避ける動作は一切見せない。
この男、何のつもりだ!?
護衛隊長は不思議に思いながらもそのまま首元を狙ってナイフで斬りかかる。
首元まであと数センチ!間違いなくあたる!この一撃をもろに喰らえば勇者といえどもただではすまないはずだ!
護衛隊長はそう確信したその瞬間、護衛隊長の攻撃は空を斬った。
護衛隊長はその勢いを急に止めることはできず、そのまま壁へと突っ込んでいった。
「な、なぜだ!?確実に当たったはずだ!」
「そうか、お前らはいままで俺がどんな戦い方をしていたのかもしらないのか。そりゃあ俺の苦労なんてお前らにとっては知る由もねぇってことか」
そう言うと燈哉が突如壁に突っ込んだ護衛隊長から少し離れたところに現れ、ゆっくりと近づいていった。
先程の一撃で全ての力を使い果たした護衛隊長はそのまま燈哉に一撃蹴りをもらい、気絶した。
「貴様!今お前が何をしているのかわかっているのか!?」
少し前まで呆然としていた国王が威勢よく燈哉に向かってそう言った。
しかし燈哉は今まで散々自分をこきつかってきた張本人が怒り狂っている様が嬉しくてしょうがない。
「そんなことよりお前こそ今置かれている自分立場を見極めて発言には注意したほうがいいんじゃないか?」
燈哉は国王に対してそういい放つ。
「スキルの一つも持っていない雑魚が・・・!いままでお前みたいな雑魚に仕事を与えてやったことも理解していないようだな、この恩知らずめ!」
「その雑魚にてめぇの護衛隊長は手も足もでねぇんだよ。いいか?発言には気をつけろ。身の程をわきまえろ」
燈哉はそう言うと国王は遂に黙り、燈哉の目の前で正座をして、頭を下げるのであった。
「やっと落ち着いたか。いいか?これから俺が言う条件を全て呑めばこれ以上被害を出す気は無い」
「わかった。要求次第では受け入れよう」
国王は正座のまま、膝に手をつき、下を向いてそう返事をした。それに対し燈哉は優越感を得ながらも話を進めていく。
「俺からの要求は3つだ。しかもそこまで多くはない。
1つ、勇者をやめ、国外へ行くことを認めること。
2つ、今までの仕事量と支払われた対価があまりにも少ない。国外で生活するためにも金貨500枚程を俺に渡すこと。
最後に3つ、俺を低賃金でこき使い、ボイコットされた貴様の無様な様を包み隠さずメディアに伝え、報道することだ。そこまで重くない内容だろ?」
「わ、わかった。その要求、受け入れよう」
燈哉のその発言にもっと重いものを予想していた国王はすんなりと受け入れた。
そうして燈哉はついに勇者という仕事から解放され、自由の身となったのだ。
この時、国王は知らないが、燈哉という勇者の存在がいかにこの国にとって大事だったか、この先に迎える様々な困難によって思い知るのはまだまだ先の事だった。