ドラゴンが回復薬を欲しがったので飲ませてやると……
いったい何を言っているのか一瞬わからなかった。
ドラゴンが暗い森が怖い?
本気で言っているのか?
でもドラゴンは本当に暗闇を怖がっているようにブルブル震えている。
「オートライト」
とりあえず、こちらとしても視界を確保するためにも光魔法で辺りを照らす。
光魔法は夜間に回復させるために必要なため、回復術師にとっては必須魔法だ。
「わぁ~ありがとう。暗い森って怖いよね?」
ドラゴンは普通に話しかけてくる。
「あなたは、ドラゴンだよね? 私たちと敵対するんじゃないの?」
「敵対? あぁ確かにさっきはいきなり人が多い場所でビックリしたけど、わざわざ敵対はしないよ。起きたら檻の中に閉じ込められていて、いきなり槍で攻撃してきたから自分の身を守っただけだよ。そりゃビックリしちゃうでしょ」
「確かにそうだよな」
「ちょっとパック! なんで納得しちゃってるの!」
リリが慌てながら僕の前にでる。
でも、僕はリリを遮りドラゴンの前で剣を降ろし、敵意がないことをアピールする。
「どうして僕たちについてきてくれたんだ?」
「えっ? あっ忘れてた。途中からかけっこ楽しくなって遊んでくれてるのかと思って忘れてたけど、最初はあの僕に飲ませてくれた飲み物が美味しくてついてきたんだよ。だからもっと頂戴」
そのドラゴンは無邪気に僕にそう言ってきた。
僕は回復薬の瓶の蓋をはずし、ドラゴンの前に置く。
さすがに手渡しできるほど信用はしていない。
ドラゴンは器用に瓶をとると、そのままいっきに瓶ごと飲み干した。
バリバリ音がしてるけど、ドラゴンはなにも気にしていないようだ。
「ありがとー、やっぱり運動した後の飲み物は美味しいね。でも、これだけじゃなくてもっとお腹いっぱい飲みたいな」
ドラゴンが舌舐めずりしながら僕の方を見てくる。
飲まさなければ僕の方が食べられてしまいそうだ。
「ドラゴンさんが攻撃をしないなら、もっと飲ませてあげてもいいよ。ただ、さすがに至近距離では難しいから少し距離をとってになるけど」
「もちろんだよ。攻撃しないから飲ませて!」
「じゃあ口をあけて上を向いて。苦しくなったり、十分になったら手をあげてくれれば止めるから」
ドラゴンが空に向けて大きな口を開けた。
僕はドラゴンの口に向けて回復薬を弧を描くように飲ませてあげる。
ドラゴンに手を挙げるようにと伝えたのに、ドラゴンが急に顔をさげたせいでドラゴンの顔に回復薬が思いっきりかかってしまった。
ヤバイ殺される!?
一瞬頭をよぎるが、僕の考えとは裏腹にドラゴンは気持ちよさそうにしている。
「うん。美味しかった。やっぱりこっちにきて間違いなかったね」
「ドラゴンさんは街を破壊するつもりじゃなかったの?」
「街を破壊なんてしないよ。ただ、いきなり連れて行くのはやめて欲しいな。本当にビックリするから」
「本当に攻撃してこない?」
「しないよ。さっきの飲み物毎日くれるなら、僕は契約してあげてもいいって思ってるよ」
契約?
ドラゴンと?
あの誰も従えたことがない伝説の存在と?
「パック……大丈夫なのか? ドラゴンと契約とか」
僕もものすごくそう思う。
だって、今まで人と話す魔物なんて見たことも聞いたこともない。
それなのに、いきなり契約とかって言われても正直困ってしまう。
確かに契約をしてくれればドラゴンの血を貰えるかもしれない。
でも……それ以上に大変なことが起こりそうな気がする。
できるだけ穏便に断わろう。
大丈夫。優しく言えばドラゴンもわかってくれる。
「契約は……ちょっと……」
「えっ? 契約してくれないの? だったら街に……」
こいつアホそうな話し方してるくせにサラッと僕のことを脅かしてきた。
「あっえっと、急に契約したくなってきたかも」
「ちょっと! パック本気なの!?」
「だって仕方がないじゃないか。僕が契約しなかったら街に被害がでるんだよ」
リリとしては反対のようだが、正面きって反対とは言えないようだ。
「どうするの? どっちでもいいから早くしてくれるかな? でもまさか、黒龍から契約を申しださせておいて断るなんてことはしないと思うんだけど。でも、どっちでもいいよ。別に文句とか言わないし。さっきの街へ戻ろうなんて全然思ってないからね」
意外とネチネチしたタイプだった。
どっちでもいいって二回も言ってるし。
リリが絶対にヤバイから逃げようと目で合図してくる。
だけど、逃げるにしても。
一瞬辺りを見渡すが、この森の中を逃げ続ける自信なんてない。
しかも、僕たちの全速力についてきたドラゴンだ。
はぁ。これって「はい」以外で選択肢なくない?
それなら潔く諦めた方がいい。
「わかった。喜んで契約させてもらうよ」
「さすが、ものわかりが良くていいね。危うくさっきの街が一夜で火の海に沈むところだったから、君はいい判断をしたよ」
やっぱり街を破壊しに行くつもりだったのか。
本当に油断ならない。
「それじゃあこっちにきて」
僕は恐る恐るドラゴンへ近づいていく。
「大丈夫だよ。もし食べるならさっさと食べてしまってるだろ?」
なんだ食べるって。やっぱりドラゴンにとって人間は食べ物らしい。
僕がドラゴンの前まで行くとドラゴンが頭の上に手を置く。
「……」
何か人間の言葉ではわからない言葉を言うと、一瞬身体の中に何かが走ったような衝撃を受ける。
「よし、これで契約は終了したよ。それじゃあ頑張って僕のことを養ってね。美味しい飲み物もいいけど、たまにはお肉も食べたいな」
「養う……とは?」
「当たり前でしょ? 君の従魔になったんだから君が僕を養うんだよ」
「パック……私も一緒に養ってくれてもいいよ?」
リリが悪ノリしてきたが、僕は無言で頭を抱えるしかなかった。
これで良かったんだよね?
無職の僕がドラゴンとリリを養うなんて……。
これから先どうしよう。
りり(どうしよう。パックと結婚した時に一軒家にペットにドラゴンって、ご近所付き合い大丈夫かしら?)
パック(僕そんなに甲斐性あると思えない)
ドラゴン(毎日美味しい飲み物が飲める)
それぞれの思惑によって夜は更けていった。
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