救護院がドラゴンを捕まえてきた
「リリ、手加減って覚えてるかな?」
「パックなら大丈夫よ。それに朝だからちょっと身体を動かすだけ。ほら剣もこんなに喜んでいるわ」
リリは昔から訓練をする時は人が変わってしまう。
あぁ、もう頑張るしかない。
剣を構えるとリリは無造作に突っ込んでくる。
でもこれは幻影。
僕は剣を身体の左側に構える。
そこへリリが上段から振り下してくる。
刃と刃がぶつかり、せめぎ合う。
「あいかわらずパックは打ち込ませてくれないのね」
「リリこれ訓練だよね? 幻影とか使うのずるくない?」
「えぇーいいじゃない。パックなら余裕で防いでくれるんだし」
全然余裕なんかじゃない。
僕がリリの剣を受け止められるのは、小さい時から何千回、何万回とリリの攻撃を受けてきたからだ。本当にリリの剣バカには困ってしまう。
一度距離を置き、リリは今度は真空刃を放ってくる。
これは剣で受けてはいけない。
剣の寿命を縮めてしまうからだ。
だって訓練で折れたらもったいない。
俺は地面を転がり、真空刃を避け、そのままリリへと距離をつめる。
せっかく昨日クリーンで掃除した服が土埃で汚れてしまった。
リリも真っすぐ突っ込んでくる。
今日は……リリの左の脇腹に隙がある。でもこれはわざと開けられている。
打ち込んだが最後、カウンターを入れられ、そのまま二度寝してしまう。
だから、狙うなら逆側の一番防御の厚い部分!
剣で横なぎに払い、リリが防御をさらに厚くしたところで僕は蹴りを放つ。
もちろん、防御されるのは織り込み済み。
そこで一瞬、タイミングをずらし追い込みの蹴りを放つ。
リリはタイミングがずれたせいで蹴りの軌道を見誤る。
蹴りの風圧でリリの髪の毛が上にあがる。
もちろん蹴り抜くなんてことはしない。
「はぁ。今日は私の負け。次は私が勝つわよ」
「ふぅ。怪我なく終われて良かったよ。次は真剣じゃなくて木剣にしようね」
「嫌よ! 木剣の時の私の勝率100%なの知ってるでしょ? 木剣になった途端パックは手を抜くんだから」
別に手を抜いているわけではないが、真剣でやる時は本気でやらないと自分が死んでしまう恐れがある。もちろん、リリも手加減してくれていると思うのだが、怖くて手なんて抜けない。
「それじゃあご飯にしようか」
「そうね。運動したからお腹空いちゃった」
「リリ? これってこれから毎日やるの?」
「当たり前でしょ! 私の本気の剣を受けられるなんてパックくらいしかいないんだから」
本当に加減してくれているよね?
冗談だよね?
怖すぎて聞くことができない。
でも、リリの笑顔が可愛すぎて断れないとは絶対に本人には内緒だ。
僕たちは食事をとり、そのあと冒険者ギルドに登録をしに行った。
冒険者ギルドでは簡単な説明と、実力をはかると言われたが試験官がしばらく休みのため、強制的に一番したのランクEランクから始めることになった。
雑用は慣れているので問題ない。
そのうち雑用をこなしているうちに試験官が戻ったら上位ランクにリリだけでも、あげてもらえばいいだろう。
リリはかなり文句を言ってくれたが、なだめるのが大変だった。
「だって、パック! 私はEでも仕方がないけど、パックをEにしておくなんて本当に見る目がないわよ」
なんていつも通りお世辞を言ってくれていた。
本当リリの過大評価やお世辞には困ってしまう。
僕たちは早速Eランクの依頼を受け付けることにする。
Eランクは掃除系が多いようだ。
ドブ掃除、窓ふき、墓石拭き、草刈り、街の掃き掃除、買い物代行……これなら僕でもできるものが沢山ある。
リリは草刈りの依頼を受け、僕はドブ掃除の依頼を受ける。
「それじゃあ、夕方にギルド前で待ち合わせしよう」
本当は一緒に依頼を受けた方が良かったのかも知れないけど、リリはクリーンの魔法が使えないし、草刈りはリリ一人でやった方が早い。
リリの剣技を草刈りに使うなんて言ったら救護院だったら間違いなく怒られていただろう。
僕が依頼人のところへ顔をだすと、その人は街の町長さんだった。
「いやー冒険者の方にドブ掃除とか頼んでしまって申し訳ない。ここの街の中心を流れる川なんだけど、昔は魚が泳いでいるのも見えたのに今じゃ下まで見えやしない。昔と同じなんていうのは無理だけど、少しでもキレイになるように掃除をお願いしたい。場所はここから下流まで頼むよ」
「わかりました。任せてください」
「それじゃあまた、夕方見にくるからね」
さて、どぶ川の掃除となると僕のクリーンのスキルが役に立つ。
このクリーンのスキルも救護院の人は覚えておかなければいけない必須スキルだ。
救護所ではどうしても血液などで汚れてしまうことが多い。
そんな時にこのクリーンを覚えていると、あっという間に汚れを落としてしまうことができるのだ。
「よし! 気合を入れていくぞ!」
身体全体にクリーンの魔法をまとい、躊躇せずにドブ川の中にダイブする。
ドブの水だろうと、僕の身体に汚れがつくことはない。
僕のまわりの水だけ一瞬でキレイになっていくが、そう簡単には全ての汚れが落ちてはくれない。
両手からクリーンの魔法を放ち、川底をキレイにしていく。
今までヘドロだったところがキレイな石が見えてくるとかなり気持ちいい。
それから、僕は川の下流と上流を何度か行ききして予定のところまで、すべてキレイにすることができた。ただ、上流がまだ汚れているので完璧とまでは言えないが、一度報告に行くことにする。
「町長さん、終わりました」
「ん? まだやりだしてたいして時間は立ってないんだけど、ちょっと休憩には早すぎるよ」
「いや、休憩じゃなくて終わったので報告に」
「終わった? いくらなんでも手を抜かれるのは困るよ」
町長さんからはすごく怪しまれたが、実際に見てもらうとかなり驚かれた。
「なんだこれは! もしかして飲めるんじゃないのか?」
「いや、さすがに上流が汚いので飲めないですけど、言われた範囲は終わりましたので」
「あの依頼は一カ月くらいを予定していたのに。この短時間で終わるとか。いやー冒険者というのはすごいものだな。君の名前は?」
「パックっていいます。もし指名の依頼などありましたらギルドの方へお願いします」
「あぁそうさせてもらうよ。金はギルドに渡しておくから、受け取ってくれ」
「ありがとうございます」
それから、僕は夕方まで依頼をこなし、ギルド前に戻ると、ギルド前には人だかりができていた。
「どうしたんだい?」
「なんだあんた知らないのか? 救護院がドラゴンを捕まえてきたんだよ」
聖女様は本当にドラゴンを捕まえに行ったらしい。
なにも起きなければいいけど。
リリ「ドラゴン欲しい」
パック「命がけのペットだな」
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