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リリの告白。それはあまりに突然に。

僕が雑用をして、掃除をしていると、また聖女様に部屋に呼ばれた。


「パック、よく来たわね」

「先日はすみませんでした。50本も足りなくて」


「いいのよ。それより、私新しい回復術師を見つけたのよ。紹介するわね。回復術師のジョンよ。彼すごいのよ。回復薬に色を付けられるの」


「初めまして、そしてさようなら」

 ジョンと紹介された男は非常に嬉しそうに変なことを言ってくる。

 なんでさようなら?


 回復薬は無色透明が当たり前だった。

 色がつくのは薬草から作成したものには色がつくが、魔力で作成したもので色をつけるのは難しい。というか聞いたことがない。


「それは本当ですか?」

「私が嘘を言ったことがある? 彼この色付きの回復薬をいくらでも作れるっていうのよ。今まで誰も見たことがない回復薬。きっと高く売れるわ。だから、あなたもういらないわ。替わりのきくあなたみたいな人がここにずっといられたのがおかしかったの」


「いらないって……どういう意味ですか?」

「クビってことよ」


 モリヤは青い液体の入った瓶を振りながら、何でもないことのように僕にクビを言い渡す。

 ジョンは嬉しそうに僕に手を振っている。


 急なことに頭の中が真っ白になる。

 僕がクビ?

 だって、僕もかなり頑張ったのに。


「パックには悪いんだけど、今度救護院でドラゴンを捕まえることになったのよ。S級パーティのコンドルの槍って聞いたことあるでしょ? あそこのリーダーが私の大ファンで私のためにどうしても働きたいっていうのよね」


 S級コンドルの槍はこの国を代表するパーティーだ。

 バランスのいいパーティーで、魔物の脅威からいつもこの国を守ってくれていて、街の人からの人気も高い。リーダーのレオの槍に貫けないものは何もないと言われている。


「ドラゴンを捕まえるって……もしかして……」

「あら、よくわかったわね。ドラゴンの血を使うのよ。雑用にしてはよく勉強していて偉いわ。あっごめんなさい。雑用ももう終わりだからもう無職ですね」


 ドラゴンの血は最高級の回復薬として使われる。

 飲めばたちまち、どんな傷でも回復してしまう効果があるが、ただそれを定期的に仕入れることができる者はおらず、今までドラゴンを飼うことができたものはいない。


 おとぎ話の中で賢者がドラゴンと心をかよわせたなんて話しはあるが、おとぎ話はおとぎ話だ。


 それに、ドラゴンを捕まえるのには、かなりの戦力が必要となり、ドラゴンの血をとるにしても怪我人が増えるわけで費用対効果があまりにも悪すぎるのだ。


 よほどのもの好きか、金持ちを除いて。


 もし、ドラゴンを飼うなんてことが実際にできれば、回復術師は廃業に追いやられてもおかしくない。

 それほどの効果がドラゴンの血にはある。


「それは……大丈夫なんですか?」

「あら、クビになるのに心配してくれるなんて優しいのね。でも大丈夫よ。あなたのように無能な回復術師と違ってドラゴンは文句を言わずに血を流すだけで回復薬が作れるんですもの。それにいざとなれば、彼も作れるって言ってるし。私ね、実はあなたの顔あまり好みじゃなかったの。それに才能がないあなたを見ているとイライラしてくるのよ。一応部屋を探す必要もあるでしょうから明日までは置いてあげる。明日にはでていって頂戴ね」


 モリヤはそう言うと僕に背を向け、ずっと青い回復薬を見ながらニタニタと笑っている。


 僕は本当にクビになってしまったようだ。

 でも、だからと言ってそう簡単に諦めることはできない。

 頭を地面にこすりつけながら懇願する。


「モリヤ様、何でもしますから、僕をここに置いてください」 

「くどいわね。しつこい男は嫌われるわよ。私の言ったことのできない無能なあなたはいらないっていってるのよ。住民にまで迷惑をかけて本当に恥ずかしい。それで、私の評判が落ちたらあなたはどう責任をとるの? ホントクズ。あぁー思い出すだけでも腹がたつ。もうどこへでも行きなさい。あまりしつこいと警備員を呼んで追い出すわよ」


「残念だったな。雑用係。お前の仕事はもう終わりだ。まぁ、俺みたいに特別な人間じゃないお前の替わりなんていくらでもいるからな。才能のない奴っていうのはこの救護院には必要がないってことだ。クハハハ! それじゃあバイ・バイ!」


 モリヤは部屋のベルを鳴らすと、部屋のドアがノックされ従者が入ってくる。

 本当にもう僕の居場所はなくなってしまった。

 これ以上言っても無駄だった。

 僕は力なく立ち上がる。


 やっぱり、僕のような無能が支えるより、彼のような才能がある方がいいに決まっている。

 救護院が発展することは、世界から怪我した人がいなくなるということだ。

 その役割は僕じゃない。

 

「今までお世話になりました。色々勉強になりました」


 そこから僕はどう自分の部屋に戻ったのかを覚えていない。

 ただ、でて行かなければいけないのという思いから、気が付いたら荷物を整理していた。

 期限は明日……まずはこの街をでるのかどうかを検討しなければいけない。


 それに明日から住む場所も。

 リリに相談してみようか。


 でも、それでもし巻き込んでしまったら。

 リリは僕の味方だと言ってくれている。


 だからと言って一緒に仕事を辞める必要はない。

 僕だけがそっと消えてしまえばいいのだ。


 僕は街にでて、当てもなく歩く。どこへ行けばいいのか。

 どうしたらいいのか。


 気が付くと、人のいない海の見える高台に来ていた。

 風がとても強く吹いている。


 僕の悲しさとは違い、ここから見る海はとても綺麗だった。


 僕はそこの丘に座ると、うつむいたまま大声をあげ泣いてしまった。

 本当はこんなことをしている時間なんてないはずなのに。


 自分の才能がないのが悔しい。

 努力をしてきたはずなのに、それがまったく認められないというのも。


 夢が叶うとは限らない。


 だけど、その途中で頑張った努力がまったく認められていないというのが一番悲しかった。

 それは結局、僕が頑張ったと思っていたのは、僕の自己満足でしかなかったってことだ。


 きっと僕の努力が足りなかったんだ。

 まだできることがあったはずだった。


 もう次の機会なんてない。

 ならもっとできることをやるべきだった。


 それからどれだけの時間があっただろう。

 青かった空は次第に赤くかわり、やがて夜になった。


「おーい! パック大丈夫か? ずいぶん探したんだぞ」

 いつの間にか、リリが側にやって来ていた。

 僕は急いで涙を拭く。


「ん、ちょっと黄昏ていただけだよ。リリこそどうしてここへ?」

「あっ、ちょっとなパックに報告したいことがあって探してたんだ」


 リリは少し改まった感じで僕に向き合う。

 こんな真剣なリリ見たことがない。


「どうしたの?」

「私、仕事辞めてきたから。パック、私と一緒に冒険者になってくれない?」


 それはあまりにも唐突な告白だった。

リリ「クソッ! どのタイミングで行くのが正解なんだ」

これは、パックに声をかける3時間前の話。


リリにもっと早く声をかける勇気をって思った方はブックマークと下の☆を入れて頂けると嬉しいです。

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同作者の書籍化作品です。ネット版とはまた違った展開になっています。 本を読んで楽しく自粛を乗り越えましょう。 テイマー養成学校 最弱だった俺の従魔が最強の相棒だった件
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