馬車の中で打ち合わせ
ドロスたちはペイドンの街から他の街へ向かう途中を襲われたとのことだった。
だが、今回の襲撃で亡くなった人の弔いと今回の事件のことを報告するためにペイドンの街へ戻るという。
「パックさん、良かったら馬車へ一緒に乗って行きませんか? 捕まえた盗賊たちもこちらで運ばせて頂きますから」
そう言ってくれたのでお言葉に甘えさせてもらうことにする。
盗賊たちは全部で10人いたのでそれを突き出せばその報奨金が支払われる。
10人のうち3人はすでに亡くなってしまっていて、それを倒したのはドロスの部下たちだったが、その人たちの分も僕らがもらっていいと言われてしまった。
「命を助けてもらえただけで、自分たちはついてましたよ。あのままだったら確実に死んでましたから。それよりも、パックさんの回復薬をかなり使わせてしまいましたが、上級回復薬をお持ちになられるとはかなり名の知れた冒険者様なんですね。ぜひ、何かございましたらうちの商会をご利用ください」
「ドロスさんはさすがわかってらっしゃいますね。私もパックはA級、いやS級冒険者だっておかしくはないって思っているんですけど冒険者ギルドでのランクはいまだにEランクなんですよ。本当に納得がいきません」
リリは嘆くようにドロスに同意を求める。
「リリ、何を言ってるさ。そんな恥ずかしいこと言わないでよ」
「何が恥ずかしいのよ。パックはもっと自信をもった方がいいわ」
リリはいつも大げさに言ってくれるから聞いている僕の方が恥ずかしくなる。
今回僕のやったことは回復薬をかけたのと、スリープの魔法で眠らせただけなんだから。
「フフフッお二人は本当に仲がよろしいんですね」
「お母様、うらやましいです。僕にもパックさんとリリさんのような友人が欲しいです」
トガは少し寂しそうにスイタイの服の裾をギューと掴み悲しそうにうつむいた。
「トガくんには街にお友達はいないの?」
スイタイの表情が一瞬陰る。
「この子は小さい時から麒麟児と呼ばれてしまって、同学年の子供たちと遊ぶ機会が得られなかったんです。この国の方針で頭のいい子は飛び級ができるんですが、飛び級をしたら今度は体格的なものであわず……なんとも難しいところです」
僕からすれば優秀なら優秀なだけ悩みはなくなりそうだと思ってしまうが、どんなに優秀な子供だとしても悩みはでてきてしまうようだ。
どんなできる子でも大なり小なりの悩みはあるものだ。
「それなら僕が友達になるよ。よろしくね! トガくん」
「私も友達になってあげるわよ」
「パックとリリが友達なら俺も友達だな」
「本当に? 僕の友達になってくれるの?」
「もちろんだよ」
「じゃあ後でうちに遊びに来てよ! 僕の本のコレクションを見せてあげる」
「あらら、すみません。この子ったら。パックさんたちの迷惑にならないようにするのよ」
「はい!」
トガは嬉しそうに顔をあげニコニコしている。
よっぽど友達に飢えていたのかもしれない。
小さな頃僕たちが悩んでいたことを、僕たちは段々と忘れてしまっているけど、その頃の悩みも今の悩みもきっと悩みには大小なんてないのかもしれない。
どんな問題も一つずつ解決して自分で乗り越えていくしかない。
「ところでパックさん回復薬の件なんですが、あれだけの上級回復薬を使って頂きまして、いったいいくらお支払いさせて頂ければいいでしょうか?」
「あれは下級……」
リリがいきなり口を封じてくる。
「パック! そうねぇ。命を助けたわけだからね……」
少し大げさに悩むようなしぐさをするリリ。
どうやら何か欲しいらしい。
たしかに回復薬は僕が作ったものだが、リリが盗賊たちのほとんどを倒した。
だから、僕がリリに断りもなく断ってしまうのは違うなと思いなおし、リリに任せることにする。
「ドロスさん、そしたら私たちはペイドンの街に滞在する予定なので、そこでの美味しいご飯と宿の代金をお願いできますか? あとは盗賊を倒したときに剣を少し痛めてしまったようなので、新しい剣をお願いできればと思います」
「お任せください。宿についてはついたらすぐに手配をしておきましょう。それと剣についてもうちの店で扱っているものの中で使い勝手のいいものを数本準備させて頂きます。他に欲しいものなどありませんか? パックさんはいかがです?」
僕の方は特にはないが……リリが脇腹をつついてくる。
何かもらえるものがあればもらっておけって意味だろう。
「そうしましたら、キコの木でできた杖などありましたら安く譲ってもらえればと思います。あとキコの実もあれば」
「キコの杖ですね。たしか……パックさんのような方ならいいかもしれないな。私が昔若い頃にダンジョンで発見したキコの杖がありましてそれをお譲りさせて頂きたいと思います。キコの実も準備させて頂きますので。もちろんお金はいりませんので安心してください」
ドロスは人のよさそうな笑顔を僕たちに向ける。
商人なのに大丈夫なのだろうか。
「それと……盗賊たちなんですが今回僕たちが一番最初に口を割らせた人間だけ奴隷にして、あとは兵士につきだしたいと思っているんですがよろしいですか? ほかの子供たちが誘拐されたままだというのを知っているのに見過ごすことはできませんので、あの盗賊を使って忍びこんできたいと思います」
「パックさん! それなら僕が囮をやります! 僕だって子供たちを助けたい」
トガは揺れる馬車の中で立ち上がり僕の目をまっすぐ見つめてくる。
本当にこの子はいい子のようだ。
だからこそ、この子を危険な目にあわせるわけにはいかない。
「いや、トガくんの力は借りたいけど今回は僕たちでやるから大丈夫だよ。それよりもお願いしたいことがあるんだけどいいかい? 君にしかできないことなんだ」
「なーに? お願いしたいことって。僕もパックさんのお役に立てるなら頑張るよ」
「今回、お父さんとお母さんも盗賊に襲われてしまっただろ? だから、今回僕たちが外に行っている間に家で両親を守っててあげて欲しいんだ。できるかな?」
「うん! 僕がお父さんとお母さんを守る! じゃあ悪い人退治が終わったらうちに遊びにきてね!」
「もちろんだよ。終わったら家にいかせてもらうから」
僕がトガの頭をゆっくり撫でてあげると嬉しそうに素敵な笑顔を向けてくれる。
子供は笑っているのが一番だ。
「パックにしてはいい誘導だったな」
「そうね。今回はすんなりといったわね」
僕はリリの横腹をつつき、ドラに静かにと合図をする。
せっかくうまくいったのに台無しになってしまう。
トガは不思議そうな顔をしている。麒麟児とはいえやっぱり素直だ。
もう少し大人になればわかる。まだ知らなくていいこともある。
ドロスさんは一度悩むようにうなる。
「うーん。それなら、私のほうで終わったらあの犯罪奴隷を買い取りましょう。奴隷にすれば裏切られる心配もなくなりますし、パックさんたちはこれから旅をするのに犯罪奴隷を連れていくのは難しいでしょうからね。それにしてもどうやって乗り込むつもりですか」
「それは……」
僕たちを乗せた馬車はゆっくりと街へと進んでいく。
未来を作る子供たちを助けにいかなきゃ。




