月宮のウサギ亭
「お嬢さん、果物落としてますよ」
ドラが言った通りリンゴが腐っていたので回復魔法で回復してあげる。
子供相手だからといって腐ったリンゴを渡すとはヒドイことをする人もいるようだ。
普通腐った食べ物に回復魔法を使うような人はいないが、自分で色々とチャレンジしていたら、できるようになっていた。
完全に腐ってしまったものは無理だが、少し傷んだぐらいなら回復魔法で回復させることができる。まだ生きているってことなんだろう。
「おじさんありがとう」
「ププ、おじさんだってよ。パックさん」
リリが女の子に果物を渡しながら僕の方を見て噴き出している。
このくらいの女の子からすれば僕たちはおじさんになっても仕方がない。
実際10歳以上は離れていそうだ。
「おばちゃんもありがとね」
「私が、お……ば……ちゃん」
リリは拾った果物を持ったまま石になったように動かない
「ハハハ! リリおばちゃんだってよ。残念だったな」
今度はドラがリリをからかい始めた。
ドラはリリの方をぺチぺチと叩いている。
「わぁーすごい! 黒いトカゲが話してる」
「僕がと……か……げ」
リリをからかっていた、ドラの心も折れたようだ。
そりゃそうだろ。その大きさでドラゴンだと言っても誰も信用してくれないのを狙って小さくなってもらっているのだから。
それにしてもすごいな。うちの2人の心を一気に折ってしまうなんて熟練の手練れなのかと勘違いしてしまう。
「おうちの人のお手伝い?」
「うん。お父さんが怪我をしたから、私が代わりに頑張るの」
「偉いね。でもこのままだとまた果物落としてしまうかも知れないから、家まで持って行くの手伝ってあげるよ」
「おじちゃんいいの? ありがとう!」
「おじちゃんじゃなくてお兄さんとお姉さんね。あとこの子はドラって言う名前で、トカゲじゃないから間違わないであげて欲しいな」
「わかった! お兄ちゃん、お姉ちゃん、ドラちゃんありがとう。私はレイナって言います。よろしくお願いします」
女の子は元気にお礼を言ってあいさつをしてくれた。
「ちょっとパック、この子めっちゃ可愛いんだけど」
「僕をトカゲと言ったことは、今回だけは許してやろう」
2人とも立ち直りが早かった。
僕たちはレイナの荷物を持ってあげて、家までついて行く。
レイナは歩きながら救護院の場所や墓地の場所、それ以外にも最近盗賊に銅像が盗まれた話とか、観光名所、それに美味しい駄菓子屋さんの話など色々教えてくれた。
気が付くと、だいぶ遠回りをさせられたが、小さなガイドさんに案内してもらったと思えば仕方がない。
レイナの家は宿街の近くだった。
「ここが私の家だよ」
その家はあまり綺麗だとは言えない。良く言えば趣がある家で1階が食堂になっていた。
「お父さんただいま! 通りすがりのお兄ちゃんたちが助けてくれたの!」
店の中にはレイナの父親らしき人が椅子に座っていた。
「旅の人だろ? 娘が迷惑かけたみたいで悪いな。イテテッ。足首をひねっちまって、立つのもやっとなんだよ。痛みがとれないから救護院で回復薬買ったのに全然効きやしなくてよ。ちょっと待ってな。イテテ……」
「大丈夫ですか? もしよろしければ余っている回復薬あるのでこれ飲んでください」
「いや、冒険者さん娘を助けてもらったのに回復薬までもらうなんて俺にはできねぇよ。恩を受けても返せねぇからよ。回復薬なんて高価な物が余っているなんてわけないからな」
「じゃあ、僕からもらった優しさは誰か他の人に渡してあげてください。そうすればいずれ、僕のところに大きくなって帰ってくるので」
「なんだ、あんた救済の森の人みたいな言い方すんだね。まぁ救済の森だったら嘘でも回復薬やるなんて言わないけどな。イテテ」
「ハハハ。どうぞ。これあげますので飲んでくださいね。それじゃあ僕たちは今日の宿を探しに行くのでこれで」
「いやいや兄さんたち、ちょいと待ちな。宿を探しているならうちの2階を使うといい。救済の森の回復薬でも治らないからダメかもしれないけど、あんたの善意はもらうし、他に人にも優しくする。ただ宿を探しているなら話は別だ。娘を助けてもらったのと回復薬のお礼で3泊無料ってのはどうだ?」
「あっ……えっと……月宮のウサギ亭っていうところが料理が美味しいって聞いたのでそこへ泊まろうかと思っているので、お気持ちだけで大丈夫ですよ」
「なんだ、うちの客じゃねぇか。月宮のウサギ亭はここだよ。まだ看板外に出してなかったけど、あれ見な」
おじさんが指さした方には月宮のウサギ亭と書かれた看板が置いてあった。
確かに宿としては問題ありそうだが……料理は怪我していてできるのか?
そうとなれば治してもらうのが一番だろう。
「それなら美味しい料理のために、足首をちょっと見せてもらっていいですか?」
「別にいいけど、見てもわかるのか?」
「冒険者なので少しは知識をかじってますから任せてください」
「そうかい? まぁ見るのはタダだからな。頼むよ」
足首の動き、腫れ、熱感などを確認する。
何とも怪しい。骨にヒビが入っている可能性がある。
それにしても、救護院の回復薬を飲んだのならもう少し回復してもいいはずなのだが。
「おじさん、やっぱり僕の渡した下級ポーションを飲んでもらっていいですか? 回復薬を飲んで痛みが引かないようであれば固定しましょう」
「そうなのか? まぁ言う通りにしてみるか」
おじさんはかなり怪しみながらちょびちょび飲み、そして一気に飲み干した。
「なんだこれ? こないだの回復薬より美味い気がするな。あれ? 足が痛くないぞ。これは上級回復薬なのか?」
おじさんは狐につままれたような顔をしながらビックリしていた。
「安心してください。下級回復薬ですよ」
どうやら僕の回復薬で効果があったようだ。
救護院の回復薬が効かなかったことがちょっと心配になるが……。
「すごいな。一瞬で痛みがなくなるなんて。よし宿と料理代はタダでいいよ! しばらく店はできないと思っていたからな。2階の部屋も好きに使ってくれ」
「ではお言葉に甘えて、3日分だけ泊まらせてもらいますね」
普通に下級回復薬を買ったらこの辺りの宿だと1ヶ月分以上は持っていかれてしまう。
「3日と言わずに好きなだけいていいからな」
「お兄ちゃん、お部屋に案内するね」
「ありがとう」
レイナに案内され2階の部屋へいく。
「ここだよ」
レイナが開けた部屋は……埃とカビと異臭のする汚部屋だった。
僕の頭の中には街でやったドブ掃除の記憶が一気に蘇ってきていた。
リリ「日間ランキング9位になったわ」
ドラ「ほう。すごいじゃんないか」
リリ「違うわよ。すごいのは応援してくれる人がいるおかげ」
パック「そうだね。本当にありがとうございます」
いつも応援ありがとうございます。
おかげさまで日間で9位になれました。
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