パックの兄弟子クリフ
村の中の家々は燃えた跡が広がっており、村の道路には赤黒いシミがいくつかできている。
よくよく考えればこんな辺鄙な村に門番がいること自体がおかしな話だった。
何かに警戒をしているということだ。
「これは……盗賊ですか?」
「そうなんです。この村は人族の盗賊に襲われたばかりで、今みんな人族に対して警戒しているんです」
「クリフは大丈夫なんですか?」
「クリフさんはみんなのことを回復させてくれていたんですが、それでも魔力欠乏をおこしたところを盗賊に襲われてしまって。それで今日は隣村に薬草を買いに行ってたんです」
クリフは僕が救護院で最初にお世話になった兄弟子だ。
僕が入ったばかりで、右も左もわからない時にいつも相談にのってくれた。
辛くて辞めたくなった時も優しく励ましてくれた。
優しくて、強くて、それでどこまでも真っすぐな人だったのに。
そんな……。
「クリフはどこにいますか?」
「救護院の奥で休まれていると思います。でも……」
僕はマイラさんの話を最後まで聞かずに走り出した。
「ちょっと! パック! 待ちなさいよ」
救護院は村の中でも目立つ場所にあった。
入口のところには救済の森の分院であることが本来書かれているはずの看板が外されていた。
どうやら、本当に撤退したようだ。
僕は両開きの扉を開き中に入る。
中はひんやりして空気が冷たい。
救護院の作りはだいたいどこも同じだ。
僕は迷わずに普通なら院長のいる部屋までいく。
院長室の扉をトントンとノックをすると中から声が聞こえる。
「開いてますよ」
クリフだ。でも声の調子がおかしい。扉を開け中に入る。
「クリフ……」
そこには目に包帯を巻かれたクリフの姿があった。
「どなたですか? とても懐かしい声に聞こえるんですが、でもその子はこんなところにいるはずありませんし」
「僕だよ。パックだよ。あぁなんでこんなことに……」
「パック? そんななんでパックがこんなところに?」
「クリフ!」
僕は思わずクリフに抱き着いていた。
あぁなんでクリフがこんなひどい目にあわなければいけないんだ。
クリフみたいな優しくて、人を助けるために頑張っている人が。
理不尽すぎる。
思わず僕の目からは大量の涙がこぼれていく。
「こんな泣き虫パックは1人しか知らないんだけど、今頃救済の森でもエースになっているはずの子がどうしてこんなところに?」
僕とは違いクリフは穏やかに僕の髪の毛をなでながら聞いてくる。
僕は救護院をクビになったことを話す。でも僕のことなんかよりクリフのことだ。
「クリフの両目は……もしかして……」
「そうなんだ。盗賊にやられてしまってね。もう一生見えることはない」
「そんな……」
「でも、大丈夫だよ。目は見えなくても少しずつ魔力も回復しているし体調も少し良くなってきたんだ」
クリフはそう言いながら笑顔を作るが、顔は青白く呼吸は早い。
目の出血は止まっているようなのにこれはおかしい。
「クリフ、目以外にも怪我してるでしょ」
「パックにはかなわないな。昔から人の状態を見つけるのが本当に得意だね。あの頃から全然変わっていない」
「いいから、どこを怪我してるの?」
「お腹の方をね」
僕はクリフの服を脱がせお腹を確認する。
お腹には包帯が巻かれているが、そこからはじんわりと出血している。
「少しずつ回復はしているんだよ。だけど、自己治癒が苦手だったせいでなかなかすぐには回復しきらなくてね。休み、休みでは……」
「クリフ、もう大丈夫。話は後でゆっくり聞くから」
僕は両手に魔力を込めクリフのお腹に手を当てる。
まずはクリーンの魔法でキレイにしてからだ。
「パックの手はお日様みたいだね。すごく暖かい。なんか段々と気持ちよくなってきたよ」
痛みを軽減してもらうために、あわせてスリープの魔法もかける。
これだけの傷を自分で治すなんて普通はできない。
こんな傷を負っていたら、きっと痛みでずっと寝られていないに違いない。
クリーンの魔法でキレイにしたところで包帯をはずしていく。
キレイにしてから包帯を外すことで止血された部分の再出血を抑える効果がある。
包帯の下はヒドイことになっていた。
よくこの傷で今まで持っていたのが奇跡のようだった。
クリフのお腹には剣が刺さった後があり、さらにひねりを加えた痕がある。
確実にクリフの命を狙った傷だ。
「パック! ちょっと行くの早いわよ!」
リリたちが遅れてやってくる。
いつの間に懐いたのか、ドラが女の子の頭の上に乗っている。
一瞬ペットのように見えたのはドラには内緒だ。
「パックさん……クリフさんに何をしているんですか?」
「マイラさん今、クリフのお腹の傷を治しているところです。こんな重症の人を治したことはありませんが、クリフは自分で自分を治療しながら何とか今まで生きていた感じなので、このままクリフに任せていたらきっと治る前に体力が限界にきていたと思います」
「それじゃあクリフさんは助かるんですか?」
「まだ何とも言えませんが、この感じならいけそうです」
治癒の魔法で少しずつ傷がふさがっていく。
なかの傷も大丈夫そうだ。
「良かった。本当に良かった。救済の森から回復薬が届かなくなってどうしようかと思っていたんです」
先ほどまで真っ青だったクリフの顔に少し赤みがはいる。
これなら大丈夫そうだな。
それにしても、この身体でよく今までもったものだ。
僕は腹部が終わると目の方の傷も治す。
ただ、目は残念ながら一度見えなくなったものを見えるようにすることはできない。
それこそ女神の奇跡でもおきない限り。
でも、傷口を閉じるだけで全然違う。
「これで身体の傷は大丈夫です。今は少し休ませてあげましょう」
「本当に良かったです」
「他にも怪我人がいるのであれば回復薬を作りますので、空き瓶はありますか?」
「はいっ確か救護院の倉庫にあったと思います」
「それじゃあ、それ全部持ってきてください」
どうしてこうなったのか知りたいところではあるけど、まずは村の人たちを助けるのが先だ。
「リリ、ドラこの村助けるのに手伝ってもらうけど大丈夫?」
「パックはムチャしちゃダメって言ってもやるでしょ」
「僕は優秀な従魔だからね。もちろん美味しい回復薬飲ませてくれるならやってあげるよ」
それから手分けして村の人たちに回復薬を配ることにした。
それにしても救護院が撤退をするなんて?
この村にいったい何があったというのだろう。
クリフ「もう僕は長くないかも知れない」
マイラ「大丈夫よクリフさん。気をしっかり持って」
クリフ「マイラさん……口に青のりついてますよ」
マイラ「もう! 恥ずかしい」
意外と空気の読めないクリフであった。
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