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ざまぁ聖女のその後。幽閉され……

 救護院の一室から今にも消えそうな、小さな声が聞こえてくる。

「私なら2000本作ることができる。ほら繰り返して」


 パックがドラゴンを連れて、いなくなってから数日が立っていた。

 あれから救済の森の中では今回の事件について色々な騒動が起きていた。


 盾使いのボールデンはモリヤを守るために、ドラゴンの攻撃を受け瀕死の重傷を負ってしまった。

 モリヤは少しだけ治療にあたったが回復が遅く、自分には怪我を治せないとわかると早々に諦めた。


「ボールデン、あなたに助けてもらったことは忘れないわ。でも、あなたはもう助からない運命なの。私が回復して回復できない傷は絶対に治ることはないわ。どんな奇跡の薬だろうともね。だから、もうゆっくり眠りなさい。みんながあなたを看取ってあげるから」


 そして、モリヤは自分を守ってくれたボールデンの最後を看取ることもなく、その場を去っていく。


 誰もがボールデンの死を覚悟し嘆いた。

 ボールデンは盾使いとして、誰よりも一番危険な場所へ飛び込み、誰よりも傷つき、そして誰よりも優しかった。


 ボールデンはそんな状況なのにもかかわらず、最後まで一人でドラゴンを引きつけて消えてしまったパックのことを心配していた。

 ボールデンは、自分の胸元から一つの回復薬の瓶を取り出す。


「これ……パックが作った……回復薬……なんだぜ……最後に……飲んでやらな……いと」


 ボールデンが話す度に、ヒュー、ヒューと空気が漏れる音がする。

 モリヤの力を持ってしても回復しないなら、今さらパックの作った下級ポーションなんてなんの意味もなさない、その場にいた全員がそう思っていた。


「ダメだ! ボールデンもう話すな!」


「パックは……いい奴だったんだ。俺に……回復薬……」

「わかった。最後にパックの回復薬が飲みたいんだな。俺が飲ませてやるからもう大丈夫だ」


 近くにいた男がボールデンから回復薬を受け取り、蓋をあける。

「パックが……戻ったら……伝えてくれ……ゴホッゴホッ……お前の回復薬は最高だった……って。俺は……パックのおかげでやすらかに……」

 

 声に張りがなくなっていく中で、男がボールデンにパックの回復薬を飲ませる。

 もう、こんなことに意味はない。

 そう誰もが思った。


「痛みが……消えて……く?」

 みんなボールデンがもう死んでしまうと思った次の瞬間、自分で身体を起こし全身を触って確認していた。ボールデンの身体からはどこにも怪我がなくなっていた。


「ボッ……ボールデン?」

「おっ俺生きてるよな?」

「あぁ! 回復したんだ!」

「パック―!」


 のちにこれは『パックの奇跡』と呼ばれ、この街で伝説として語り継がれることになる。


 今までパックは簡単な怪我をした時、率先して治してくれていたが、重症患者にパックの回復が絡むことはなかった。


 パックは雑用で強い回復はできないし、使えないと、モリヤが陰でみんなに言っていたからだった。

 だが、実際はパックが作った薬でいっきにボールデンは回復した。


 このことがきっかけで、今までパックに世話になった人たちはモリヤのことを疑うようになる。

 それにあわせて、ボールデンが、命をかけてモリヤを守ったのにもかかわらず、最後まで助けることもなく見捨てて去ってしまったというのも大きかった。


 そしてモリヤはというと、パックがいた時は1日2000本以上作っていた回復薬をいきなり作れなくなり窮地に立たされる。


 パックがいた時に作った回復薬はもうすでに納品され、救護院には大量の空き瓶だけが届けられていたが、モリヤが作る回復薬は1日50本と激減し、新しく雇った回復術師のジョンも口だけだった。


 ジョンは雑用もやらず、回復薬に色を付けられる俺は天才なんだと自分でみんなに言いふらしていたが、実際色がついたところで回復薬の効能が弱すぎて売り物にならなかった。


 しかも、ジョンは1日25本程度しか作ることはできなかった。


 1日25本でも一般的に考えれば多い方ではあったが、聖女の奇跡には全然足りない。


 そしてさらに、国から救護院はドラゴンを街にいれた責任をとらされることになった。


 本来なら救護院ではなく、モリヤが独断でやったことなのでモリヤだけが処罰されるべきことだったが、今までの貢献と、今回も人を救うという考えの元で行き過ぎた行為があったため刑が軽くなった。


 ただ、住民たちはあらためてドラゴンという脅威にさらされ、街の中で回復薬が売り切れになり、救護院に国から増産が求められた。


 その増産により聖女の罪は軽くなり、一件落着というのが国の判断だったが、増産されることはなかった。結果、聖女は莫大な借金を負い、それを肩代わりした救護院の経営は一気に悪化していく。


 今まで聖女が貯めていた隠し財産もすべて売り払われ、今では雑用よりも下の扱いをされ毎日、回復薬を作っている。

 

 もちろん、外部に聖女をそんな扱いをしていると知れ広まると大変なことになるので聖女は人の目の触れない場所にいる。


 なんとも皮肉な話だが、ちょうど、元からいた聖女の部屋は救護院の奥にあり、人目のつかない場所にあったので、今ではほぼそこに幽閉されている。


 時々、従者が部屋の前を通ると中から呪詛のような声が聞こえるという噂だ。

「私にはできる。無理じゃなくてどうやったらできるのかを考える。目標は2500本よ。でもまだ2470本足りない。空き瓶は足りているかしら? でも数えている間に日が暮れちゃう。早く作らなきゃ」


 救護院の力が弱って行く中で、世界では新しい存在が求められていった。

 パックはその渦に巻き込まれていく。

パック「さぁいよいよ冒険だ」

ドラゴン「俺が入れば大丈夫だ。すべて一飲みにしてやる」

パック「心配しかない」

ドラゴン「一飲みにされたくない奴は下から★とブックマークをするのだ」

パック「やめい」


ご覧頂きありがとうございます。★を入れて頂くとモチベーションに繋がります。

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同作者の書籍化作品です。ネット版とはまた違った展開になっています。 本を読んで楽しく自粛を乗り越えましょう。 テイマー養成学校 最弱だった俺の従魔が最強の相棒だった件
― 新着の感想 ―
[良い点] 病みましたね
[気になる点] んー、ちょっとラストのモリヤのセリフが自分には重かったな。
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