回復薬を2500本作れと言われた。
「世界最高の回復術師に僕はなる!」
そう言って故郷のリミルミトン村をでたのが十二歳の春だった。
あれから早三年。
僕、パック=システルはこの国でもトップの救護院『救済の森』で働いていた。
救済の森はこの国全土に支部がある巨大な救護院だった。
日々色々な怪我や病気を治すために人が集まってくる。
救済の森へ就職を希望するものはもちろん多く、選ばれた者しか働くことはできない。
就職希望者はこの国の兵士を希望するものよりも多く倍率も高い。
田舎者だった僕も出世したものだ。
「パック! どこにいるのパック」
静まり返った救護院の奥で僕のことをあんな大声で呼んでいるのは聖女モリヤだ。
俺が雑用をするための部屋からでると、
「あら、そこにいたの? ちょっと部屋まできてくれますか?」
そう優しく声をかけてきた。
俺は彼女の後ろについて歩いていく。
聖女自ら迎えにくるなんて僕も出世したものだ。
聖女様は今まで色々な奇跡をおこしてきた。
その中でも特に伝説となっているのが、この国で流行り病が流行した時に回復薬を一晩で1000本作成し王様へさしあげたという伝説がある。僕はその時にも手伝いをさせて頂いた。
あの時は途中から僕が引き継ぎ、980本作った。
聖女様はその時、1000本も作りおさめたおかげで、この国での救護院の力が強くなった。
彼女の部屋は救護院の中でも一番奥にあり、人もあまり来ないような場所になっている。
聖女の仕事とは主に神様からギフトによって回復薬をつくり怪我人や病人を回復させる仕事だ。そのため集中し邪魔が入らないようにしなければいけない。
もちろん、救護院の奥だからといって警備がされていないわけではない。
ものすごく厳重な魔法がかけられ許可がない者は近づくことさえなきないって話だ。
「失礼します」
「どうぞ」
声だけを聞いているとすごく可憐で可愛い声だ。
扉を開き入室するとそこには質素な部屋がある。
何もないわけではないが、きらびやかなものなど見つからない。
それもそのはずだ。
聖女の部屋の奥に隠し部屋があり、ここは一般人へのアピール部屋でしかない。
財宝や金品はすべて奥に隠され、夜な夜な彼女はそこで財宝や宝石をめでているのは公然の秘密となっている。
僕が部屋に入ると、聖女様が防音の魔法を部屋にかける。
「はぁ、それで回復薬の作成が遅れているようだけどどういうことなの? あんたさ、ここに雇ってもらっていることにもっと感謝した方がいいわよ」
「申し訳ありません。モリヤ様。さすがに1日1000本までは作れるようになったのですが、さすがに2000本というのは難しくて」
「ねぇ? 誰が口答えしていいと言ったの? できないじゃなくて、どうしたらできるかを考えるのが大人ってものでしょ? 1000本ができたなら2000本もできるわよ。はい、じゃあ私に続いて繰り返して、1000本作れれば2000本も作れる。はい」
「1000本作れれば2000本も作れる」
「僕には2000本作るのも余裕」
彼女は嬉しそうに俺の方を見ながら、言わせるのを楽しんでいる。
「ぼっ僕には2000本作るのも余裕」
「言ったわね。それじゃ明日までに2500本の納品期限だから寝ずに作りなさい」
言ったわねじゃない。完全に言わされている。
しかも2500本なんて量が増えているし無茶苦茶だ。
「もう少しなんとか数を少なくして頂けないでしょうか?」
「あぁそれは違うわよ。何を勘違いしているの? それじゃあ私が無理矢理作らせているみたいじゃない。あなたは自分から志願して作りたいはずよ。だってそうでしょ? あなたが救済の森に入れたのは誰のおかげ?」
「モリヤ様のおかげです」
「そうでしょ? 作りたくないの?」
「つっ作りたいです」
「はぁ? よく聞こえないんだけど」
「作らせてください」
僕は頭がのめり込むんじゃないかってほど、地面に頭をこすりつけ必死に懇願した。
「よくわかっているじゃない。それじゃあ確認をするわよ。救護院に入る試験の時にその才能を見つけてあげたのは誰?」
「モリヤ様です」
「下っ端では絶対に入れないここの部屋に入れてあげているのは誰?」
「モリヤ様です」
「あなたがこうして働けているのは誰のおかげ?」
「モリヤ様のおかげです」
「ならわかるわね?」
僕は諦めてうなずくしかできなかった。
回復薬を聖女のかわりに作成する係それが僕の役割だった。
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