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理想の現実  作者: 南条 紙哉
8/15

1-7

「タイムリープの次は時間停止か…………」


 動かなくなった人たちを横目に、俺はベンチに座って溜息をついた。


 自分だけが取り残された空間は、孤独というより孤立に近い感覚で、精神的にものすごい窮屈だ。


 時間が経って……今はこうして俺以外が止まっているわけだが、勝手にまた時間が動き出すなら何の問題でもない。今朝からの流れを考えればちょっと不思議な体験をしただけ、で済む。


 店内は隈なく探索し、俺と同じように動ける人間はいないことを確認した。


 そして、この時間停止はどうやら人間だけではなくこの建物全体に有効らしい。さっきの店で商品を手に取ろうとしたらまるで凍っているかのように動かなかった。

 レジに持って行ったシャツも、俺がレジに置いた時のシワを形状記憶したように固まっていた。

 少なくとも俺が会計のお姉さんが固まっていることに気付いた時は、まだシャツは布本来の性質を保っていたから、俺が手放してから時間が止まったということになる。


 俺も一カ所にとどまっていると同じように固まってしまうかもしれない。そう思って今度は外に向かうことにした。

 だがしかし、自動ドアはこの現象が始まった時点で開いていなかったようで、どんなに力を入れても開かないし、体当たりもしてみたがガラス状のドアが割れることはなかった。


 屋上の自動ドアも、裏口に入る扉も全部閉まっていて、この広い空間が密室と化していることを理解するのにそう時間はかからなかった。


「なんで俺だけなんだよ………………」


 地獄だ。体感ではおそらく1時間は走り回ったが、周りは日常を切り取った1枚絵のように動かない。

 誰か一人でも同じ環境にいてくれたら。そんな淡い期待を胸に店内を周ったが、全員が全員、俺に見向きもしてくれない。


 人間、孤独には耐えられても孤立には耐えられない。

 元々一人しかいない空間なら生きていけるが、周りに人がいるのに自分の存在を認めてもらえないことには数日と持たないのだ。

 今このショッピングセンターは、俺を中心にその両方を実行している。


 孤独で孤立している。じっとしていては俺もシャツのように止まってしまうと思って動き続けていたが、さすがに疲れた。

 むしろ、これで自分も時間が停止すれば仲間入りじゃないか。


 俺は力なくベンチに横たわる。

 急に強い眠けが襲ってきた。今目を瞑れば数秒も必要なしに眠れる自信がある。


「次目覚める時は…………いつもの日常が戻ってるといいな」


 切実にそんな願いを口にして俺は目を閉じた。


 ――――――――――その時、建物内に轟音が鳴り響いた。

 雷に近いような衝撃音に加え、奥の方から砂煙がこちらに向かってくる。


「なんだなんだなんだ!?」

 

 さっきまでの眠気はどこかへ行き、状況を確認するために砂煙の中に突っ込む。

 どうやら建物の一部が崩壊したらしく、辺りには小さい瓦礫がいくつも落ちていてとても屋内とは思えない状況になっていた。


 そして、天井に巨大な穴を発見した。おそらく、これが音の原因……というか建物が壊れてるんだから音どころの騒ぎではないな。


 しばらくすると時間がたったからか砂煙が晴れてきた。


 よかった……もしこの砂煙まで時間が止まり始めたらどうしようかと思ったが、この空間でも一応時間が過ぎるという概念はあるみたいだな。


 砂煙が晴れたということはそういうことなのだろう。


「いったた~…………。もう、あいつどんなバカ力してんのよ!」


 まだ少し残っている砂煙の中から突然声がした。

 そして段々砂煙がなくなり、声の主の黒い影が見え始める。

 おそらく品物であろうベットの上に四つん這いになって尻をさすっているようだ。


 完全に視界が回復し、ベットの上にいた正体に俺は声を失った。

 そして呆然と立ち尽くし、しばらくその子が尻を摩る様子を見ていた。


「よし、さっさと終わらせてお兄ちゃんのところ…………へ…………」


 少女は尻の痛みが引いたのか、スクっと立ち上がると何を思ったかこちらを振り返り、俺と同じように硬直してしまった。


「七菜香…………お前何やってるんだ?」


 沈黙を破るように、俺は声を振り絞ってベットの上に立つ七菜香に声をかけた。


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