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理想の現実  作者: 南条 紙哉
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1-6

 結局、昼食は七菜香の提案で近くの蕎麦屋に行き、各々注文したものを食べ終わった後、七菜香の目的である服を買いにそれなりに大きいショッピングセンターに来ていた。


 今後、「いままで」の話をされてもおそらく何一つとして俺はわからない。話は合わせるが、それが無理な場面だってある。それで七菜香を傷つけたりするかもしれない。


「ねぇねぇ、この服かわいいよね」


 七菜香はTシャツを体にあてながら、鏡を見ている。


 …………七菜香との思い出はこれから作っていけばいいか。あまり深く悩んでも解決することじゃないしな。


「ああ、似合ってると思うぞ」


 親指を立て、最大の評価を下す。


「でもちょっと高いんだよなぁ~」

「ん、どれどれ。あー確かに小学生には高いかもしれないな」


 安心しろ七菜香、さすがに小学生に払わせるような鬼畜保護者ではないからな。ここは俺が兄貴らしく、ビシッと奢ってやるから。


「あ、ちょっとトイレ行ってくる」


 そう言って七菜香は俺にTシャツを投げ預けて、走って行ってしまった。


「そんなに我慢してたのか…………」


 トイレを忘れるくらい楽しんでるってことかな……。ならいいんだけど。

 

 そうだ、いいことを思いついた。七菜香がトイレに行っている間に会計を済ませておこう。そしたらきっと七菜香も喜ぶだろう。


「サプライズってやつだな!」


 七菜香の買い物なのになぜか俺がスキップしながらレジへと向かう。

 やっぱりいい。ずっと欲していた兄妹だったけど、今こうして買い物していても楽しいし、何よりかわいい。

 歳がある程度離れてるっていうのもあるんだろうけど、それを加味してもやっぱり兄妹っていいなって思う。


「すみません、会計お願いします!」


 レジにたどり着き、Tシャツを会計のお姉さんの前に広げる。


「…………………………………」

「…………………………………あのーすいませーん」


 しかし、会計のお姉さんは商品を手に取ろうとしないどころか、どこか遠くを見たまま一ミリも動かない。

 もしかして俺みたいなのが女物の、しかも小学生サイズの服を持ってきたからドン引きしてるのか!? ………………って冷静に考えてTシャツなんて男女関係ないし、サイズが小さいからって下着でもない限り編ではないか。


 そんなことはどうでもいいとして、ほんとにこの人動かないなぁ…………。多分俺が目の前に立ってから瞬き一つしてないだろ。


「って、感心してる場合じゃなくて! すいません、会計お願いしたいんですけど!」


 今度はさらに大きな声で呼びかけるが、やはり俺など眼中になく微動だにしない。

 この人……俺をおちょくってるのか?


「あのーすいません、もしもーし」


 今度は肩を揺すってみる。

 硬いなおい…………まるで銅像じゃないか。それだけじゃない、一応それなりの力を出しているはずだけど、全く動かない。


「………………」


 ここでようやく異常に気が付いた。


 そういえばさっきまで流れていた店内BGMが止まっている。それに、さっきまで人の声やゲームエリアの音が聞こえていたのにぱったり止んでしまった。


 通路に出てみると、制服をきた男女二人が手をつないだまま立っていた。

 覗き込むように二人の前にでる。何か商品をみるわけでもなく、お互いを見つめ合う訳でもなく、二人とも前だけを見据えていた。


「あのー、すみません」

「…………………………」

「…………………………」


 やはり返事はない。


「…………くっそ、一体どうなってやがる!」


 店内の他の箇所を見ようと、俺は走り出した。

 どこもかしこも、同じようにまったく動かない人たちで溢れかえっていた。そして、一階の食品売り場で目撃した光景で、俺はこの現象に確信を得る。


 牛乳が宙に浮いている。


 おそらく、その浮いている牛乳の前に立っているおばさんが落としたのだろう。おばさんはと言えば、落としたことに驚いたのか口をポカンとあけて目を見開いている。宙に浮いている牛乳に驚いている……わけではないようで、やはり他の人同様、固まった様に動かない。


 そう、つまりは――――


「時間が…………止まっているのか?」


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