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理想の現実  作者: 南条 紙哉
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1-5

「お兄ちゃん早く早く!」

「わかったからそう急ぐなって」


 七菜香に手を引かれながら、商店街の中央通りを進んでいく。

 俺の知っている商店街はさびれていながらもそれなりに人はいたはずなのだが、今日はほとんど人もいない。

 

 平日だからっていうのもあるが、それにしたって少し物寂しい感じがする。

 それに、シャッターが閉まってる店が多い。客がいないのは説明がつくが、店が平日なのに商売をやっていないのは不自然だろう。


「なぁ七菜香、商店街ってこんなに店閉まってたっけ?」

「んー、新しく店じまいしたところはないと思うけど…………お兄ちゃんあんまり買い物こないもんね」


 どうやらこれまでの俺は、家事全般を七菜香に任せきりだったらしく、基本的に食材の買い出しなど商店街に用があるのは七菜香だけだったようだ。


 昨日まででも俺は商店街に行く理由もなかったわけで、商店街の最近の姿がどうなっていたかは正直把握できていなかった。

 だから多分、俺が見ていなかっただけで元々これくらい寂れていたんだろうな。


「ねぇねぇ、お昼何食べよっか」


 目を輝かせる七菜香に、俺も期待を裏切るわけにはいかないと考える。


「そうだな…………商店街の外れにうまいラーメン屋があるからそこにするか?」

「えー…………まぁいいよ」


 そんなあからさまにセンスないみたいな反応されたら流石に悲しいんだけど!


 ったく、見てろよ。あそこのラーメンまじでうまいから。餃子も絶品で12時過ぎには売り切れで食べれないことなんてざらなんだからな。

 まだ12時前だし、この時間帯なら流石に売り切れはないよな。


ーーーーーーーーーーーーーー


「うっそだろ…………」


 店の前までたどり着くと、のれんが出ていなかった。そして、入り口の扉には「閉店しました。今までありがとうございました」と書かれた張り紙が風に靡いていた。


「あ、ここ知ってる。昔家族で来たよね」

「それっていつ頃? だったっけ」


「えーと、確か3年前でその頃になくなっちゃったんだよ。確かおばあさんが亡くなっておじいさん一人じゃ切り盛りできないからって」

「そんなに前なのか…………」


 そんなわけない。

 自宅研修期間に入る前、俺は友達とそのラーメン屋に行っている。その時は店主に目立って変な様子はなかったし、七菜香は「おばあさん」と言っているが、運営しているのは20代の男で、従業員に女性すらいない。


 少し覚悟はしていたが…………。

 少なくとも俺が過ごしてきた昨日までの世界と今の世界は、歩んできた歴史に違いがあるみたいだ。

 

 おそらくだが、人間関係も大幅に変わっているだろう。

 七菜香という兄妹の存在、それに代わるかのように家にいないようになった両親。これだけで留まると考えるのは都合がよすぎる。


 それはこれからどうにかするとして…………だ。俺は記憶を共有できていない。

 俺が昨日まで過ごした世界の記憶は、この世界とは別の記憶だ。七菜香との思い出は一切ない。さっきの家族でラーメン屋に言ったって話も、七菜香を抜きにしたって父さんと母さんとの3人で行ったことなんてなかった。


「流石にこればかりはどうしよもないよな…………」


 未だ鳴りやまぬ蝉の鳴き声をバックに、むかつくほど青い空に向かって愚痴をこぼした。


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