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理想の現実  作者: 南条 紙哉
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1-3

「じゃあスタンプ貰ってくるからちょっと待っててね」


 そう言って少女は離れていった。


「月岡…………七菜香」


 一瞬、少女の出席カードが裏返って名前が見えた。

 月岡…………俺と同じ性だ。


「あら七菜香ちゃん、今日は想留くんと一緒なの」

「うん、お兄ちゃん夏休み入ってから全然朝ご飯食べに起きてこないから、罰として今日から一緒にラジオ体操いくことにしたの」


 七菜香ちゃんとおばさんの会話が聞こえてくる。

 お兄ちゃん……俺のことなんだよな。

 俺がおかしくなっただけなのか? 昨日までの記憶の中に、妹どころか兄妹がいた記憶もないし、親戚が同居していたなんてこともない。……はず。

 

 なんだか記憶に自信が持てなくなってきた……。


「おまたせお兄ちゃん、帰ったらすぐご飯にするから二度寝しちゃだめだよ?」


 戻ってくるなり、七菜香ちゃんは少し顔をしかめて俺にそう言ってきた。


「う、ん。そうだな、頑張るわ」


 いまいちよくわかってないけど、とりあえず話をあわせる。

 そして七菜香ちゃんが歩き始めたので、俺もその後ろをついていく。


「七菜香ちゃんって今年でいくつだったっけ?」


 とりあえずまだ名前しか分かってないからな。家に着くまでそう距離はないけど、せめて会話の不自然な反応がでないくらいの初期情報はここで手に入れよう。


「なんで急にちゃん付で呼ぶの?」

「ああいや、おばさんのがうつっただけだよ。で、七菜香何歳だっけ?」

「今年で11歳! そういえば昨日もお兄ちゃん同じこと聞いたよね」


 ごめん、まっっったく記憶にございません。


「女の子に年齢を聞くのは失礼なことなんだよ」


 七菜香は俺の前にでて、怒ったように腰に手を置いて仁王立ちした。


 いや、確かに失礼だけど小学生に歳聞いても別に問題なくないですか。


「ごめんごめん」


 とりあえず平謝りして再び歩きはじめる。


 今年で11…………つまりは小学5年生か。


 七菜香は出席カードを見ながら嬉しそうに笑っている。


 かわいい…………。


 実を言えば兄妹はずっとほしいと思っていた。友達はいるし、ゲームも別に買ってくれないわけじゃなかったから退屈はしていなかったが、そうは言っても兄妹がいる友達を見ていて楽しそうだったから、ずっと憧れていた。


 一度母に弟か妹がほしいと言ったことがあったが「自分で産め」と言われて取り合ってもらえなかった。


 だから、七菜香という妹ができた(?)この状況は、いがいとまんざらでもないかもしれない。


「ねぇお兄ちゃん」

「ん、どうした?」


 まだお兄ちゃんと呼ばれることに慣れてないからか、少し緊張する。


「もし皆勤賞取れたらご褒美で映画に連れてってほしいなー」


 期待に目を輝かせながら七菜香はスキップしながら俺の先を行く。

 別に映画くらい、何にもなくても連れてってやるのに…………。でもまぁ、本人がそれがいいっていうなら、そうしてやるべきか。


「いいよ、そのかわりちゃんと頑張れよ?」

「ほんとう!? やったー!」


 七菜香は嬉しそうにはしゃぎ始めた。

 映画連れてってやるって言っただけでこれだけ喜ばれたら、なんだかこっちまで気分が弾んでくる。

 

 なにが起こってるのかはよくわからないけど…………こんな日常も楽しいかもしれないな。


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