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理想の現実  作者: 南条 紙哉
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1-13

「大きく息を吸って~、後ろ反り~――――――――」


 ラジオから流れてくる朝に似合わないハキハキとした号令に眠気を奪われながら、俺は黙々とラジオ体操をこなしていた。

 最後にやったのいつだったっけ。確か中学にあがってからは一回も出てないはずだ。


 隣では七菜香が寝ながらも、皆勤賞を目指してだらだらと体を動かしていた。時々腕が鞭のようにして俺に当たってくるのが気になるが。


「開いて、閉じて、開いて、閉じて――――――――――」


「おい、七菜香。もう少し目を覚ませ」


 流石に鞭打ちが鬱陶しくなってきたので七菜香をゆすり起こす。


「んー、がんばれ~」


「頑張るのはお前だよ」


 溜息をついた後、俺は七菜香から一歩離れた。


 にしても…………今こうして体を動かしても何にもないのが不思議で仕方がない。


 例の事件から3日が経過した。


 ショッピングモールであったツカイ襲撃事件の後、面倒を見てもらったリノの施設から外に出ると、リノの言っていた通り俺がショッピングモールで最期に時間を確認してから大して経っていなかった。

 かくして超常現象に遭遇したわけだったが、それでも破壊された建物の状態が気になって見に行ってみた。

 これもまた、リノの言っていた通り、まるで何事もなかったかのように通常営業されていた。


 そして、七菜香の正体…………というか、あの魔法少女装のことについてだが。


「お兄ちゃん夢でも見たんだよ気持ち悪い…………」


 何故か変態扱いされ、取り合ってもらえなかった。

 あまり触れてほしくないことなのかもしれない。もう小学5年生だ、羞恥心の一つや二つ心得ているのだろう。


「はーい、じゃあスタンプ押すから並んでね~」


 町内会のおばさんがそう言うと、小学生たちが出席カードを手にして列を作っていた。


「おはようお兄ちゃん、じゃあちょっと待っててね」


「起きるの遅いよ……そんなんで出席スタンプ貰っていいのか?」


「出るか出ないかが大事なんだよ」


 得意げに笑いながら、七菜香は列の最後尾に並んだ


「あのー、少しよろしいでしょうか」


 欠伸をしていると、不意に後ろから声をかけられた。


「は、はい。何でしょうか?」


 声の主は見知らぬ女性だった。

 身長は俺と変わらないくらいか少し低いくらいだろうか、喪服より少し薄いくらいの黒いゴスロリ衣装に黒ベースに白いレースの入った日傘、顔がよく見えないくらいの深いハット。

 

「お墓を探しているのですが」


「墓……ですか? えーと、誰のお墓とかはわかりますか?」


「いえ、今日一日することもないので集団墓所さえ教えていただければしらみつぶしに周ります」


 それは無茶だろう。この暑さで、しかもその格好で歩き回ったら熱中症になりかねないぞ。


 その事を伝えると、タクシーを使って周ると言い出したから、なんとなくの住所だけ伝え、もしわからないことがあったら交番に行くようにと言った。


「はい、親切にありがとうございます。これはお礼です」


 そう言って女性は俺の手に何かを手渡した。


「いや、そんなのいいですって! 大したことしてないし教えた住所だって大雑把だし!」


 俺はもらったものを返そうと女性に差し出す。


「いえ、あなたに持っていてほしいのです」


 女性は俺の手を握らせ、それを俺の胸に押し付けた。


「は、はぁ……。これはなんです…………か?」


 いつの間にか、女性は俺の目の前から消えていた。

 目を離したつもりはなかったし、この一瞬で何かに隠れられるのも無理なはずだ。


「それは私の一部です、なくさないでくださいね」


 さっきの女性の声で、いたずらな笑い声が聞こえてきた。

 辺りを見渡してみるが依然、女性の姿は見当たらない。


「また何か面倒なことに巻き込まれてるのか…………」


 鳴き出した蝉の鳴き声が、これから起こるであろうトラブルへの悩みを一層加速させ、俺は頭を抱えた。


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